そんなこともあって余計なことに気をとられてか、私の給料の件は棚上げにされていた。土方さんは話せる人だと思ったので、退職を考えていること、次の職場の目安も付けていることを伝えた。

翌日、それを土方さんから聞いた社長がいつになく必死な顔で飛んできた。
「戸次さん、辞めないでください。今辞められると、収支の管理も広告営業もわかる人がいなくなります」
本当にこの社長は、まったく経営状況を理解していないのだ。毎月の業務内容を報告書にまとめて渡しているのに、ろくに目も通さず気がつくと私の机に戻ってきている。
「給料は倍出します。それでも辞めるというなら源泉徴収票も離職票も出しません」
それは困る。次に勤めようとしている会社は、円満退社を条件にしている。社長がゴネて書類出さないなんて言い張ったら、円満退社どころじゃない。

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