この老人は、自分が敗訴した件をデタラメ裁判であると怒り、それから毎日のように霞ヶ関の裁判所前に居座ってハンドマイクで怒鳴り続けた。そして門前で何度も警備員と揉めては逮捕を繰り返し、ついに実刑判決を受け収監されたのだった。
もちろん、裁判が不公正であることは常識と言っていいし、それについて執拗に批判した者を「転び攻防」のようにして逮捕のうえ実刑というのは、報復的といわざるを得ないだろう。
しかし、自らが裁判の当事者となって裁判所に通っていた者たちの多くは、この老人が叫んできたことのほうがデタラメであることを知っている。この老人は、かつて当事者となった裁判の一二審が誤認判決であるとして上告したが、最高裁に門前払いされたと非難していたのだ。憲法違反でも、判例違反でも、採証法則違反でもない。はねられて当然だ。しかしこの老人は、その意味がまるで理解できなかった。
そのうえ、弁護士は頼りにならないから解任して自分で再審請求したと言うが、なんと「判例違反」だから再審請求したそうだ。それなら最高裁に上告するさいに持ち出すべきことだが、「俺はそんな判例があることを知らなかった。それで知ってから規定の期日内に再審請求した。だから再審開始されるべきだ。なのに、されなかったから裁判所の不正だ」と言う。