我ながら、情けないほど動転してしまったことがある。かれこれ20近く前のことだ。
素っ裸の若い女性が、前から歩いてきたのだ。新宿の厚生年金会館の辺りである。
「ヤバイ、逃げなきゃ」
とっさに考えたのが、それである。抱きつかれでもしたら、自分が犯罪者になってしまう、とそこまで頭を巡らせたわけではないが、とにかく尋常ではないことが起こっていると思った。
だが、なんのことはない。後ろから、カメラを構えた男が3人、ついてきていた。
プロの業界人の仕事なら、カメラマンは1人だ。女性モデルを雇った、アマチュアのグループだろう。
それが分かると、業界人であるのに動転してしまった自分が、あまりにも恥ずかしかった。
言い訳をすれば、女性があまりにも素人っぽく、生々しかったのだ。
当時は、その道の業界人として、似たようなことをやっていた身である。
通報するなどの無粋なことはしなかったが、このような行為は、刑法第174条の公然わいせつ罪が適用されることになる。