マスメディアが、決して報じないことの一つに、冤罪の問題がある。再審が行われて、無罪判決が出てから初めて報じる。
なぜ報じないか。有罪がどうか決めるのは法廷のはずなのに、逮捕された瞬間から、その人物を犯人だと決めつけて、徹底的に叩くからだ。逮捕される前から、それが行われることも珍しくない。
筆者が『女性死刑囚』を執筆中の頃。知り合いのシナリオライターから電話があって、近況を話す中で言った。
「膨大な資料を読んでるんだけど、林眞須美は、冤罪みたいだよ」
「ええっ!? あの人は無理でしょう」
「なんで?」
「だって、ホースで水撒いてたじゃない」
家の前を取り巻いている報道陣に、林眞須美が水をかけたことを言っているのだ。そのシーンはテレビで何度も放映されたので、印象深い。
確かに彼女を、おとなしい奥さんと見るのは難しい。だが、水をかけることと、殺人との間にはずいぶん隔たりがある。無関係だと言ってもいい。
だが、ある程度知的な者でも、そのようなイメージに意識を操作されてしまう。私だって人のことは言えない。資料を読み込むまでは、同じような感覚を持っていたのだから。