多数の犠牲者を出し、今もまだ行方不明の人が多くいる広島の土砂災害。連日、新聞、テレビが伝える現地の様子は痛ましい限りだが、地元広島では、災害の影響が意外なところに出ている。マスコミの記者たちが公判のたびに多数傍聴に集まっていた2つの事件の裁判で、災害発生以降、傍聴取材する記者が激減しているのだ。

 

8月26日の控訴審第3回公判後に広島弁護士会館で会見する煙石博さん、弁護人の久保豊年弁護士、北村明彦弁護士(左から)

 

◆多数の記者が取材していた2つの裁判だが・・・

まず1つは、昨年の夏ごろ、16~21歳の少年少女ら7人がLINEのやりとりの中で生じたトラブルから別の16歳の少女を集団で暴行して殺害した容疑で検挙された事件。

加害グループの中で唯一の成人だった瀬戸大平被告(22)が8月18日に始まった裁判員裁判で、強盗致死罪などに問われながら「運転手役として引き込まれただけ」と主張し、起訴内容の多くの部分で事実関係を争っている。この事件は発生当初に大々的に報道されたが、証人出廷してくる加害者グループの少年少女が語る犯行内容は報道のイメージ以上に凄惨で、筆者は毎回、何とも言い難い思いで聞き入っている。

もう1つの事件については、当欄ではすでに何度かレポートしている。地元放送局「中国放送」の元アナウンサー・煙石博さん(67)が自宅近くの銀行で先客が記帳台に置き忘れた現金6万6600円を盗んだと誤認されて窃盗罪に問われ、昨年11月に広島地裁で三芳純平裁判官から懲役1年・執行猶予3年の判決を受けた冤罪事件だ。煙石さんは一貫して無実を訴えており、現在は広島高裁で控訴審が行われている。

いずれの事件も公判開始当初は筆者のみならず、地元マスコミの記者たちも多数傍聴にやってきて、一般の傍聴希望者も多く、傍聴券の抽選も大変な高倍率になっていた。しかし、土砂災害が発生して以降は様相が一変し、瀬戸被告の公判では記者席がいつも半分以上空席に。8月26日にあった煙石さんの控訴審第3回公判に至っては、傍聴席に記者の姿を一切見かけない状態だった。どうやら災害発生以降、いつもは裁判の取材をしている記者たちの多くが災害取材に駆り出されてしまったようなのだ。

◆逆転無罪に良い風が吹く元アナ冤罪裁判

テレビ、新聞のような大手報道機関にとって、何十人もの人が命を落とすほどの災害の様子を伝えるのは、大切なことであるのは間違いない。テレビを見ていたら、いつも裁判所で見かけた若い記者がヘルメットをかぶって登場し、土砂災害の現場から現地の様子をレポートしている姿を見たときには、「よく頑張っているなあ」と単純に感心させられた。とはいえ、何も世の中の人たちが災害情報ばかりを欲しているわけではないだろう。自分のようなフリーのしがないライターが存在する意義はこういう時にこそ見いだせるのだと筆者は思っている。

そういうわけで、上の2つの裁判のうち、煙石さんの控訴審第3回公判終了後に開かれた煙石さんと弁護団の会見を取材した動画を以下に紹介したい。弁護団は控訴審で「煙石さんは、被害者が置き忘れた現金入りの封筒に手を一切触れていない」と立証するため、「銀行店内の防犯カメラ映像を解析した鑑定書」を提出していたが、この公判では鑑定人の尋問を経て、鑑定書の証拠採用が決まり、逆転無罪判決に向けて非常に良い風が吹いている印象だ。会見の動画をご覧頂けば、その雰囲気をきっと感じ取ってもらえるはずである。

 

◎[動画]冤罪:煙石博さんと弁護団控訴審第3回公判後の会見(2014.8.26)
左から煙石博さん、弁護人の久保豊年弁護士(主任)、北村明彦弁護士。広島弁護士会館にて。

(片岡  健)

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