現在、そして未来も大学の最大の課題は学生募集だ。6割以上の大学が既に入学定員を確保できていない状況は以前述べたが、受験生の減少と大学側の入学定員の増加という需要と供給の「乖離現象」は今後ますます進展してゆく。
大学の存続にかかわる「学生募集」。何か妙案はないものかと大学は「もがく」のだが、違う角度からそれを格好のビジネスチャンスとしてよだれを垂らしながら薄笑いを浮かべている連中がいる。リクルートをはじめとする「進学情報」を生業とする業界がそれだ。
◆20人の学生確保に広報支出が6,000万円!
各大学の学生募集を担当する部署には、実に多くの「進学情報」業者が営業活動に訪れるし、電話やメールによる勧誘も年から年中ひきもきらない。一部有名大学を除いて受験生確保は第一優先だから「進学情報」業者と全く付き合いのない大学はない。
受験生へ無料送付される「進学情報誌」への広告出稿、インターネット上での広告、進学説明会参加など業者が提案してくる広報形態は様々だ。この業界の営業マンは口八丁が身上で、多少の経験則がないと業者やメディアの選択を誤ることになる。戦略を持たない経営者や担当者がこれらの業者に引っかかると、時にとんでもない出費を食らうはめになる。たった20人の学生を確保するために1年で6,000万円の広報費を浪費したのは誰もが知る関西の有名私大だ。担当者の無能が原因だ。6,000万円使っても結局目標の20名は確保できなかったという笑えない結論が付いてくるのだが、一部私立大学の「どんぶり勘定」はなかなか豪快ではある。
弱小大学にとって広報活動を独自に行うのは人的にも財政的に厳しい。業者なしには全く広報活動が出来ない大学だってある。だから本来ならば大学が行うべき業務を業者がある程度「補完」してくれている側面は否定できない。が、「教育産業」という言葉自体に嫌悪感を持つ者としては連中のやり口の汚さがどうも目につく。
◆弱小大学には割高すぎる「合同説明会」
例えば「合同説明会」というイベントがある。フロアーの広い会議場などを業者が借り切り、そこへ各大学がブースを出し、受験生に大学の説明を行ったり、質問を受けるという、いわば「大学の見本市」だ。これが、全国いや海外も含めて様々な主催者により無数に行われている。
大学は「参加費」を支払い、広報担当職員や教員が出向く。「参加費」は規模や主催業者により異なるが5万円から50万円ほどが相場だ(有名大学は割安に、弱小大学は割高に価格を提示されることが多い)。そこには当然お客さんである受験生が多数いないと意味はないのだが、悪徳業者主催の「合同説明会」に乗ってしまうと、1日で訪問者が数十人しかいない、しかもどう見てもその内何割かは「サクラ」であるということが珍しくない。
20校ほどの大学が出展している「合同説明会」で数十人が訪れても、それが受験に結びつく割合はほぼゼロだ。悪徳業者は会場確保とパーテーション、机などの備品用意と見せかけばかりの受験生向け広告を用意するだけでまるもう儲け、閉会間際に「予想を下回る来場者で申し訳ございませんでした」と用意をしていたアナウンスをすれば任務完了というわけだ。
そんな「合同説明会」に参加を決めてしまう時点で、大学の程度が知れるというものだが。口上を変えながら大学から広報費を引っ張り出す、巧妙な悪徳業者にとっての「おいしい」時代が当分続くのだろう。
「合同説明会」の中には「日本学生支援機構」(実質的に国の機関)が主催する海外での説明会もある。また東京や大阪等大都市では一度に100校以上が参加する大規模説明会も行われ、来場者があふれり、活況を呈しているものある。この手の大規模説明会は受験生にとってはメリットがある。志望大学の担当者と直接相談をすることができるし、大学案内や願書などを無料で手に入れることができるからだ。
しかし、もとより志願者が少ない大学はここでも泡を食らうことになる。確かに会場は受験生で溢れている。有名大学のブースの前には相談を待つ受験生が列をなす。でも弱小大学のブースにはウィンドショッピング(ひやかし)しかやってこない、一日ブースで受験生を待ち続けるのは、動かない浮きを眺める釣りのようなものだ。
◆悪徳「留学生斡旋業者」は顔つきが違う!
よりたちが悪いのが海外からの留学生を斡旋しようと持ちかけてくる連中だ。以前は中国が最大供給源だったが、経済成長と両国関係の悪化によって、最近はベトナムやミャンマーがそのターゲットになっている。
東アジアを見渡せば、日本は勿論のこと、韓国も台湾もそして「一人っ子政策」で統計上は中国も少子化が進展している。留学生の出身国はかつてこの3か国で90%以上を占めたが、今や台湾や韓国も国内で日本同様の学生の奪い合い時代に突入している。
留学生斡旋を持ちかけてくる連中はどいつもこいつも胡散臭い。「NPO国際○○支援会」と名乗ったり「株式会社アジア人材○○」だったり、容姿からして教育業界の人間のそれとは雰囲気が違う。まあ実質的に「人身売買」に手を染めている人間なので当然と言えばそうなのだが。
関西のある弱小短大は学生募集に苦戦のあまり、悪徳留学生斡旋業者にひっかかってしまった。学生担当職員によると、業者は何者かの紹介で理事長に取り入った。中国の奥地まで「視察」の名目で理事長を連れてゆき、接待漬けにして骨抜きにしてしまい、学生募集の業務提携を結ぶ。翌年確かに数人の留学生を送ってきたのだが、学費の半額近くに相当する「紹介料」を支払うはめになる。いくら学生の頭数をそろえても学費が徴収できなければ、経営的には意味がない。それでも理事長に食い込んだ業者は広くもない事務室の中に自分専用の机の設置を要求する。
更に「学生数確保の重要な鍵を握っている人物だから」という理由で理事への就任を要求し始める。この業者は関西一円で同様のモデルで「ブローカー」として稼いでいるようだが、典型的な「大学ゴロ」と言えよう。
より規模が大きく、最初から確信犯であるのが「大学自体がゴロ」であるケースだ。高校野球で甲子園に系列高校がしば活躍する「TK大学」は労組委員長殺害の為にヤクザを雇い実行した前歴がある。この大学は少々の記事でも片っ端から名誉棄損で裁判を起こすことでも知られているので内実の恐ろしさの割に週刊誌などでも報じられることが少ない。
意外なところでは、センスのいい大学として知られる「AG大学」の現理事長は財界とのパイプが太く民主党政権時代には国会議員がおこぼれにあずかろうと日参していたほどの裏社会のビジネスに精通している人物だ。
これ以上書くと危険ラインを超えてしまうので、私が狙われてもいいと腹が据わったら実名で告発をすると予告しておこう。
(田所敏夫)
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