12月10日、特定秘密保護法案(秘密保護法)が施行された。12月では太平洋戦争奇襲開戦の日(12月8日)と並んで後世惨禍時代の始まりの日として歴史に刻まれることになろう。
施行されたからといって即日誰かが逮捕されたり、集会に警察が押し掛けたりするわけではないけれども、暗黒時代への階段をまた一つ下ってゆく日になったことは間違いない。地方紙の多くは一面トップでかなり大きく取り上げている。首都圏に止まらず全国各地で昨日秘密保護法施行反対の集会やデモが行われたことが報じられているし、論説にも秘密保護法の危険性を指摘する記事が目立つ。
新聞はここまで危機を感じるのであれば、何故、国会審議以前に同じ程度の扱いで報道してくれなかったものかと残念に思う。時を同じくして総選挙となり、やれ「アベノミクス」の評価だ、「消費税」だ、「解釈改憲」だと、争点は山ほどある中でこの日を迎え、意図したわけではなかろうが、秘密保護法を制定した安倍自公政権への直接の批判は緩和されているように思われる。
◆なぜ金沢弁護士会は「活動自粛」を決定したのか?
が、既にこの悪法が人々を委縮させるかのごとき印象を与える報道に接した。施行日と同じ12月10日、金沢弁護士会は秘密保護法への反対行動を予定していたが、弁護士会が県の選挙管理委員会に確認したところ、「公職選挙法に抵触する可能性が高い」と、指摘を受け金沢弁護士会の飯森和彦会長が「活動が公職選挙法に抵触するという認識はないが、慎重に検討し活動を中止した」と書かれている。
東京でも、大阪でも、地方都市でも施行前日の12月9日には弁護士を含む多数の人々が抗議活動に参加している。施行当日の10日もそうだろう。選挙期間中であるから抗議活動を行ってはならない、などとは公職選挙法のどこにも書いていないし、選挙中こそ今後我々の生活に影響を与える政策や法律についての議論がなされるのは至極当然だ。何を考えて金沢弁護士会は「活動自粛」の決定をしたのだろうか?
◆「報道は正確ではない」という飯森和彦=金沢弁護士会会長
真偽のほどを確かめるべく、金沢弁護士会に電話取材した。
金沢弁護士会事務局の宮嶋氏は「マスコミの報道は正しくない。活動は中止ではく延期だ、次回は12月24日を予定している」と回答した。また「そもそも弁護士会が選挙管理委員会にお伺いを立てるというのはおかしいのではないか」との質問には「弁護士会の総意ではなく、ある人物(弁護士)がたまたま電話をかけてしまった」そうだ。「金沢弁護士会としては選挙管理委員会へ問い合わせたこと自体に問題があるとは考えないか」と問うと「それは分からないので会長へ直接聞いてくれ」との回答だった。
そこで金沢弁護士会会長の飯森和彦弁護士にも電話で事情を聞いた。
「報道は正しいか」との問いに「正確ではない」と言う。飯森会長によると、金沢弁護士会執行部の一人が県の選挙管理委員会に質問をしたのは事実だそうだ。その際選管は「公職選挙法に抵触する可能性がある」と回答したそうだ。それを受け疑問に感じた飯森会長自身が公職選挙法を読み返したところ、どこにもそのような条文は見当たらない。そこで選管に再質問すると「政治団体や政治献金を行う団体には公職選挙法205条の10号が適応されるので」との説明があったという。
しかし弁護士会は政治団体ではないし、政治献金を行うこともない。飯森会長はその説明は弁護士会には該当しないと判断した。但し、選管に質問した弁護士を含め弁護士会が団結して末永く闘っていくためには、なるべく余計な要素を排除しようと考え、10日の予定を24日に延期するとの決定を行ったそうだ。また1月、2月、3月にも連続して秘密保護法及び解釈改憲反対のビラ配りやデモなどの運動を続けていくという。
「弁護士会として選管にお伺いを立てたことについて問題は感じないか」との問いには「ある弁護士が念のために個人の判断で確認をしたが、それ自体が問題だとは考えていない、むしろ長期的に弁護士会が団結していく方向を維持することを重視した」との回答だった。「金沢弁護士会としては秘密保護法に反対なのですね」との私の質問に飯森氏は「当然です。解釈改憲にも反対です。末永く戦って観点から今回の延期をしましたが、その趣旨を歪めて報道されていて迷惑しています。弁護士を『甘く見るな!』と言いたいです」とのコメントが返ってきた。
ベタ記事であったが、新聞はあたかも金沢弁護士会が「圧力に屈した自粛した」印象を与える報道をしてしまっていたのだ。
▼田所敏夫(たどころ としお)兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ
◎自民党の報道弾圧は10日施行の秘密保護法を後ろ盾にした恫喝の始まり
◎読売「性奴隷表記謝罪」と安倍2002年早大発言が歴史と憲法を愚弄する