所属事務所のインターフェイス・プロジェクトから独立した加勢大周だったが、これまでに本連載で紹介してきた他のタレントのように業界からの圧力で干されることはなかった。加勢の仕事場にインターフェイス側と加瀬側のマネージャーが何人も現れて混乱するということはあったものの、加勢に仕事の依頼が止まらず、ドラマやCMに出演していた。

その理由の1つには、インターフェイスが小さな芸能事務所だったことが挙げられる。インターフェイスは、加勢との契約で音事協の統一契約書の体裁を採っていたが、インターフェイスは音事協には加盟していない。契約書では「社団法人音楽事業者協会」とあったが、「社団法人日本音楽事業者協会」が正しい。音事協の名前を出して、加勢を威圧することが目的だったのだろうが、こけおどしにすぎなかった。

◆「自業自得」とも囁かれた竹内健晋社長の悪評

加勢大周主演のTVドラマ「POLE・POSITION 愛しき人へ…」(1992年日本テレビ)

また、業界では、インターフェイスの社長、竹内健晋の評判も良くなかった。竹内はもともとモデルプロダクション上がりで、芸能界でのタレントの売り出しノウハウがなかった。そこで、加勢のプロモーションについて大手事務所に協力を要請したが、加勢の人気が高まってくると、利益を独り占めしようと謀り、大手事務所を激怒させていた。加勢が竹内から逃げ出しても、業界では「自業自得」という非難の声が上がり、竹内を応援しようという者は現れなかったのである。一部報道では、竹内が右翼を頼ろうとしたという話もあったが、相手にされなかったという。業界を味方にできなかった竹内は、加勢を潰すためにひたすら司法の手を借りたのである。

逆に加勢の方が業界の実力者の力を借りようとしたのは、加勢の方だった。インターフェイスの元社員で独立した加勢についた業界の大物として知られる廣済堂プロダクションの長良じゅんに調停を依頼し、いったんは長良の預かり、加勢が竹内に2億円を払って和解するという調停案が示され、解決しかかったが、加勢側は別にスポンサーを探して、独立の道を突き進んだ。

長年、芸能事務所を経営してきた長良としても、全面的に加勢を支援するわけにもゆかなかったのだろう。『FOCUS』(91年5月17日号)で、長良は次のようなコメントを出していた。

「たかだかデビュー8ヶ月目くらいで人気が出たから独立なんて、芸能界はそんな甘いモノではない。そういう行儀の悪いことをするんなら彼も終りだ」

◆「商標登録された芸名は事務所の所有物」と認めた92年判決の衝撃

一方、インターフェイスが訴えた裁判は、92年3月20日に判決が言い渡された。その要旨は、被告、川本伸博は加勢大周なる芸名を使用して、第三者に対し、音楽演奏会・映画・ラジオ・テレビ・テレビコマーシャル・レコードなどの芸能に関するすべての役務の提供をしてはならない、というものだった(新事務所との専属契約の禁止、5億円の損害賠償請求は棄却された)。

この判決は、業界全体に大きな衝撃を与えた。判決に影響を与えたのは、竹内が加勢大周の名を商標登録していたことだったが、加勢の裁判が判例として定着すると、事務所が所属タレントの芸名を商標登録した場合、タレントは独立や移籍の際、いちいち芸名を返上し、新しい名前で芸能活動をしなければならなくなる。明らかに芸能事務所側に有利な判断がなされたが、これはタレントにとっては死活問題だった。

ただちに加勢は控訴した。高裁での判決は93年6月に言い渡され、今度は加勢に芸名使用の許可が出た。だが、これで一件落着とはならず、94年になってから、インターフェイス側はまた訴訟を起こし、独立してから1年間の損害があったとして、3億7000万円を請求した。

さらにトラブルは続き、加勢が独立した際、協力をした顧問、安西一人が新事務所、フラッププロモーションの社長を務める加勢の母親とマネジメントをめぐって対立し、事務所を辞任すると、週刊誌が「加勢はマザコン、無気力、女にうつつを抜かしている」という安西の暴露インタビューを掲載した。

こうしたトラブルが何年にもわたって続いた結果、加勢のイメージは極端に悪化し、ピーク時には11本あったCM契約も、すべてなくなってしまった。

そして、加勢大周の独立スキャンダルの極めつけは、芸名の所有権を主張する竹内が嫌がらせとしてぶつけてきた「新加勢大周」の登場だった。(つづく)

▼星野陽平(ほしの ようへい)
フリーライター。1976年生まれ、東京都出身。早稻田大学商学部卒業。著書に『芸能人はなぜ干されるのか?』(鹿砦社)、編著に『実録!株式市場のカラクリ』(イースト・プレス)などがある。

星野陽平の《脱法芸能》

加勢大周[Ⅰ]──独立で勃発した竹内社長との「骨肉の紛争」
爆笑問題──「たけしを育てた」学会員に騙され独立の紆余曲折
中森明菜──聖子と明暗分けた80年代歌姫の独立悲話(後編)
中森明菜──聖子と明暗分けた80年代歌姫の独立悲話(前編)
松田聖子──音事協が業界ぐるみで流布させた「性悪女」説
薬師丸ひろ子──「異端の角川」ゆえに幸福だった独立劇
《書評》『ジャニーズ50年史』──帝国の光と影の巨大さを描き切った圧巻の書

『芸能人はなぜ干されるのか?』大晦日紅白のお供にこの一冊!在庫僅少お早めに!