◆93年6月の控訴審判決──加勢側が逆転勝訴

1993年6月30日、加勢大周の独立に絡んで提起されていた訴訟の控訴審判決が言い渡された。控訴審判決では、業界中から大きく注目されていた争点であり、1審では認められた「加勢大周」の芸名使用禁止が覆り、加勢側が逆転勝訴した。

加勢を訴えた元所属事務所、インターフェイスプロジェクトの社長、竹内健晋は、雑誌のインタビューで「そのときほど、人を殺したいと思ったことはなかった」と明かしている。判決に反発した竹内は、新たな対抗策をぶち上げた。

「加勢大周という芸名はわたしが付けたもの。ウチに所属するタレントを“加勢大周”の芸名で近々デビューさせる!」

7月7日、竹内は港区白金台の八芳園にNHKを含めた80人の報道関係者を集め、元祖加勢大周と同姓同名の「新加勢大周」をお披露目した。

◆デビュー会見20日後に「新加勢」は「坂本一生」に芸名を変更

「新加勢大周」こと坂本一生

元祖加勢大周に勝るとも劣らない二枚目の新加勢大周は180センチで72キロの20歳で、高校時代には水泳をでインターハイにも出場したというスポーツマンだという。竹内はたまたま東京近郊にあるスポーツジムにいた彼を発見して、スカウトしてきたという。

「歌もうたえるし、英語にも堪能。スポーツで発散するタイプですから、川本くん(加勢の本名)のように“女性に走る”ということはない」
と、竹内は自信満々に豪語し、黒いタンクトップを着た青年を紹介した。

元祖加勢大周は、この報道にうろたえ、「第2の加勢クンがボクより売れたらまずいよなァ。名前の1字を変えてほしい。裁判を何回もやったんだから……」と困惑気味にコメントした。

元祖加勢側は、新加勢の動きを封じようと手を打った。「加勢大周」「元祖加勢大周」「東京加勢大周」の4つの名前を商標登録し、新加勢の出鼻をくじいたのだった。

7月27日、竹内は再び記者会見を開き、「川本伸博クンに『加勢大周』の名前をプレゼントする!」と宣言した。新加勢は登場してから20日後に「坂本一生」に芸名を変更し、芸名戦争は一応の決着を見た。だが、加勢と竹内の確執は続いた。

◆「新加勢」坂本一生も竹内との金銭トラブルで移籍独立

だが、新加勢大周こと坂本一生も、95年4月、竹内のもとを去り、他の事務所に移籍してしまった。原因は金銭トラブルだった。坂本はこう語っている。

「ただ働きでした。はっきりいって、(竹内社長のもとにいるときは)ただ働きだったんです。もちろん、通常のタレントの方と同じで、給料はギャラの何パーセントといった形式で、契約を交わしていました。でも、1度もギャラとしておカネをもらったことはなかった。

おカネがないので、仕事のないときは部屋にひとりでこまりっきりで、宅配ピザやカップラーメンをすすってました。ホント、毎日が不安で、みじめで……」(『アサヒ芸能』95年6月8日号)

坂本は、2年間、肉体派タレントとしてテレビのバラエティ番組で活躍してきたが、給料が支払われないどころか、600万円もの持ち出しを余儀なくされたという。竹内にギャラについて尋ねても、「次の仕事をとるために金が必要なんだ」と言うばかりで埒があかなかった。

もっともショックだったのは、坂本が番組のゲームで優勝し、100万円の賞金を獲得したときのことだった。坂本は他のチームのキャプテンと相談し、賞金を山分けすることにしていた。番組が終わって楽屋で他の出演者とともに和気あいあいと待っていたが、とうとう賞金は届かなかった。

給料を払わないだけでなく、竹内は坂本に女性との交際を禁じた。それが高じて、坂本のホモ説まで報じられる事態となった。心底うんざりした坂本は、事務所を飛び出す決意をした。

◆「いわく付きの名は更正の原動力になった」──服役を終えた元祖加勢の告白

一方、加勢の方も竹内との抗争で疲弊し、芸能活動は長期間低迷し、その挙げ句、2008年10月5日、覚せい剤取締法違反(所持)と大麻取締法違反(所持)の現行犯で逮捕され、芸能界を引退した。

服役を終えた加勢は、都内でバーテンとして働いた。『週刊新潮』(11年12月29日号)に新加勢大周騒動を振り返り、こう語っている。

「こんなエピソードをほかに誰も持っていないでしょうから、ボクが死ぬとき、生きていておもしろかったことのひとつに挙げられると思います。『加勢大周』はいわく付きの名前になってしまいました。それを使ってまた仕事を始めることは、今は考えられません。ただ、この名前は自分のモノだという思いはあります。こんなボクでも、待ちで『加勢大周さんですよね。一緒に写真撮ってください』と話しかけられることがあります。こうして覚えていてくれる人がいることが、いい意味で足かせになり、更正の原動力になる」

▼星野陽平(ほしの ようへい)
フリーライター。1976年生まれ、東京都出身。早稻田大学商学部卒業。著書に『芸能人はなぜ干されるのか?』(鹿砦社)、編著に『実録!株式市場のカラクリ』(イースト・プレス)などがある。

星野陽平の《脱法芸能》
加勢大周[Ⅱ]──裁判で事務所社長に芸名を奪われる
加勢大周[Ⅰ]──独立で勃発した竹内社長との「骨肉の紛争」
爆笑問題──「たけしを育てた」学会員に騙され独立の紆余曲折
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