これまで当連載で紹介してきたのは、主に独立で業界から干されたタレントだが、中には独立しても干されないどころか、ますます芸能活動が活発になるタレントもいる。たとえば、バーニングプロダクションという有力な後ろ盾を持った、フリーアナウンサーの宮根誠司のケースだ。

◆やしきたかじんの後押しでフリーとなり、『ミヤネ屋』でブレーク

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宮根は1987年に関西大学を卒業し、朝日放送に入社した。2004年3月末に朝日放送を退社し、4月から大手芸能事務所のフロム・ファーストプロダクション大阪支社に所属し、フリーに転身した。フロム・ファーストといえば、バーニングプロダクションで郷ひろみのマネージャーを務めた小口健二がバーニングからのれん分けのような形で設立した大手芸能事務所だ。

このときは、番組で共演していた、やしきたかじんが朝日放送の社長らに「フリーになりたいそうやから、何とか、ならしたってほしい」と直談判してくれたという。

その後、司会を務める読売テレビ制作の『情報ライブ ミヤネ屋』が全国放送となり、宮根は日本中に顔が知れ渡る売れっ子となった。

そして、2010年3月末には、フロム・ファーストと契約解除し、4月から新事務所、テイクオフに移籍した。テイクオフは、元フロム・ファースト大阪支社長で宮根のマネージャーを務めた横山武が代表取締役に就任し、東京に設立された芸能事務所だ。宮根はテイクオフの所属タレント第1号で、宮根自身も出資しているから、実質的な独立ということになる。

◆「芸能界のドン」の後ろ盾で東京キー局へ進出

芸能界では、タレントが独立する際、強烈なハレーションが起きるものだが、宮根の場合は違い、独立直後の4月からフジテレビ系列の新情報番組『Mr.サンデー』でメインキャスターを務めることが決まり、東京進出に道筋を付けることができた。

実は『Mr.サンデー』の初回放送日には、バーニングプロダクション社長で「芸能界のドン」と言われる周防郁夫がわざわざフジテレビに現れ、異例のことに、フジテレビでは驚きの声が上がったという。周防が宮根の後ろ盾になっているという話は業界では有名な話だった。実力者がバックについた宮根の独立をとがめる者など業界にはいない。

フロム・ファーストから独立までの経緯については、『週刊新潮』(2010年4月22日号)が報じている。それによれば、宮根の独立のきっかけとなったのは、2007年11月にフロム・ファースト社長、小口が死去したことだったという。

小口が死去して1年あまり経った2009年初頭、宮根のマネージャーだった横山が「宮根と一緒に独立したい」と言い出した。この時は、フロム・ファースト側が慰留し、どうにか思いとどまらせることができたというが、これで話は終わらなかった。

2009年11月、小口の三回忌にバーニングの周防が現れ、霊前に手を合わせた。その1ヶ月後に宮根が独立を宣言した。芸能記者によれば、「周防さんは、小口さんの霊前に『宮根の独立を認めてやってくれ』と“仁義”を切りにいったと見られています」という。芸能界でいうところの「恩」や「義理」は、実力者の前では簡単に破られるのである。

宮根にとっては、独立によって自分の手取りが増え、ウン千万の収入アップが見込める。また、小口よりも大物の周防が後ろ盾になってくれることで、マスコミ対策が強力になる。

2012年1月、宮根に隠し子スキャンダルが持ち上がったことがあったが、これをスクープした『女性セブン』の記事では、なぜか美談仕立てだった。本来なら報道番組の司会者に隠し子騒動はアウトで、番組交番でもおかしくない事態だが、宮根の場合は不問に付された。

◆TVキャスター囲い込みでバーニングが画策するのはメディア・コントロール?

では、宮根の後ろ盾になるバーニング、周防には、どんなメリットがあるのか。まず、宮根から直接、上納金が入ってくるはずだ。筆者が聞いた話では、宮根の事務所、テイクオフにはバーニングやバーニングと関係が深いとされる大手出版社の幻冬舎も出資しているという。

バーニングにとっての宮根の存在価値はそれだけでなく、メディアをコントロールする上でも重要な鍵となる。

宮根が独立して初の仕事となった『Mr.サンデー』の2回目の放送日である2010年4月25日に女優の沢尻エリカとハイパーメディアクリエイターの高城剛の離婚スクープが大々的に報じられたことがあった。翌日のスポーツ紙は各紙とも1面で「離婚へ」と書き立て、その後、大騒動に発展していった。

沢尻はもともとスターダストプロモーションに所属していたが、2009年9月30日、契約解除となっていた。後の報道でその理由が薬物問題にあったことが明らかとなっている。

その後、沢尻は夫の高城とともにスペインで個人事務所を設立したが、芸能界への復帰は進まなかった。その理由は、復帰のためには夫の高城と離婚しなければならないという条件を芸能界から突きつけられていたためだった。

なぜ、沢尻は離婚しなければならなかったのか。沢尻がスターダストから契約解除された直後の『週刊ポスト』(2009年10月30日号)の記事「『それが女優復帰の条件』で始まる沢尻エリカの“離婚カウントダウン”」に、「芸能プロダクション幹部」のコメントとして「今回の騒動で、夫(高城)の存在がいかにやっかいかわかってしまった」とある。さらに「芸能ジャーナリスト」のコメントでは、「女性タレントや女優に、仕事に口を出すようなオトコがつくと面倒が起きるというのは定説」と解説されている。

芸能界が求める沢尻と高城の離婚を演出するために『Mr.サンデー』は使われたと見た方がいいだろう。

◆事務所の意向で干されるテレビ文化人たち

宮根の事務所、テイクオフには、2011年から日本テレビ出身の人気アナウンサー、羽鳥慎一が、2014年にはTBS出身のアナウンサー、田中みな実が所属するなど、陣容を拡大している。また、アナウンサーだけでなく、2011年には元カリスマキャバ嬢の立花胡桃がテイクオフに入ったが、立花はその前年にバーニングと関係の深い大手芸能事務所、ケイダッシュの取締役で周防のブレーンと言われる谷口元一と結婚していた。

アナウンサーは情報番組などで司会を務めることが多く、その発言には極めて大きな社会的影響力がある。宮根と所属事務所、テイクオフは、周防の拡声器のようなものになっているのだ。現実に先に紹介した沢尻の離婚報道に見られるように、周防は宮根を使って世論操作を仕掛けてきた。芸能分野だから、あまり目立たないかもしれない。だが、それが政治や経済を結びついてくると重大な問題になってくる。

作家の林真理子が『週刊文春』(2011年9月8日号)の連載コラム「夜ふけのなわとび」で次のように述べている。

「聞いた話によると、最近コメンテーターという人たちは、たいていの場合、その番組の司会者のプロダクションに所属しているという。
私と仲のいい学者さんは、朝のワイドショーのレギュラーコメンテーターを続けるなら、
『○○さん(司会者)のプロダクションに入ってください』
と言われて断ったところ、その後、ホサれたそうである」

芸能人だけでなく、文化人も事務所の論理によって干されるのだ。そして、情報番組やニュースが芸能界方式で操作されているとしたら……と考えると、何とも恐ろしくなってくる。

▼星野陽平(ほしの ようへい)
フリーライター。1976年生まれ、東京都出身。早稻田大学商学部卒業。著書に『芸能人はなぜ干されるのか?』(鹿砦社)、編著に『実録!株式市場のカラクリ』(イースト・プレス)などがある。

星野陽平の《脱法芸能》
森進一──「音事協の天敵」と呼ばれた男
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浅香唯──事務所と和解なしに復帰できない芸能界の掟
爆笑問題──「たけしを育てた」学会員に騙され独立の紆余曲折
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