『芸能人はなぜ干されるのか?』(鹿砦社2014年5月13日刊)

拙著『芸能人はなぜ干されるのか? 芸能界独占禁止法違反』(鹿砦社)を出版してから、1年が経つが、今ひとつ私の主張が伝わっていないところもあると思うので、ここで補足説明をしたいと思う。

まず、副題にある「芸能界独占禁止法違反」が理解されていないのではないだろうか。

そもそも独占禁止法は、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」という正式名称となっていて、独占禁止法を運用する公正取引委員会のホームページによれば、その目的は「公正かつ自由な競争を促進し,事業者が自主的な判断で自由に活動できるようにすることです」という。

具体的に簡単に述べると、独占禁止法は、事業者に対し、「私的独占」「不当な取引制限」「不公正な取引方法」を禁じている。

◆プロダクション間でのタレント引き抜きを音事協が禁じているのは独禁法違反

独占禁止法の観点から私が芸能界で問題だと考えているのは、大手芸能プロダクションのほとんどが加盟する業界団体である「日本音楽事業者協会(音事協)」が芸能プロダクション間のタレントの引き抜き(移籍)を禁じていることだ。タレントの引き抜き禁止は、音事協内において現状の固定化を強めることに役だっている。また、対外的には音事協加盟社をより強くすることに繋がる。

というのも、音事協の外では引き抜きは禁じられていないからだ。そのために、音事協加盟の大手プロダクションが音事協非加盟の弱小プロダクションからタレントを引き抜くということがたびたび起きている。音事協費加盟の弱小プロダクションはたとえ有望なタレントを獲得したとしても音事協加盟の大手プロダクションがそのタレントの獲得に動くとなすすべもない。

週刊誌の芸能記者は「音事協に加盟できない弱小プロダクションは、いいタレントを発掘できても音事協に引き抜かれておしまい。日本の芸能界は、音事協の有力事務所が動かしている」と言う。音事協には常に優秀な人材が流入し、利益を上げられる仕組みができているのだ。これはタレントの「私的独占」ではないのだろうか?

◆パチンコ機業界の違法「特許」と酷似する音事協加盟社の「タレント」縛り

今の芸能界に似ていると考えられるのが、かつてパチンコ機製造メーカーが作っていた「パテントプール」と呼ばれる仕組みだ。

有力なパチンコ機製造メーカー10社は、パチンコ機に関わる特許権などを「日本遊技機特許運営連盟(日特連)」という会社に集積していたが、新規参入業者に対してはライセンスの許諾を拒否していた。パチンコ機は多数の技術は多数の特許により成り立っているから、特許の許諾を得られなければ製造、販売はできない。事実上、新規参入は排除されていた。既存の業者は、このパテントプールの仕組みにより、市場競争を制限し、共存共栄を図っていたのである。だが、1997年、これを問題視した公正取引委員会は、パチンコ機メーカー10社と日特連に対して、独占禁止法3条前段(私的独占の禁止)を適用して審決が行われ、制限的なライセンス許諾契約の排除措置が行われた。

公正取引委員会によるこの審決は、「パチンコ機特許プール事件」として知られ、独占禁止法に関わるテキストなどでもたびたび引用される重要な事件となっている。

パチンコ機業界における特許を、音事協加盟社が抱えるタレントと見立てると、両者は実に似ている。パチンコ機の特許と違うのは、タレントが「モノを言う商品」であるということだろう。

◆芸能界とメディアの結託が不合理なビジネスモデルを存続させてきた

タレントは労働者であり、所属事務所に不満があれば文句を言う。不満が解消されなければ、事務所を辞めて独立しようとするかもしれない。だが、それを認めれば、芸能界、音事協のビジネスモデルは崩壊してしまう。だから、独立を画策したタレントは「恩を忘れた」などと理屈をつくって業界を挙げて潰しにかかる。このシステムは、1953年に調印された映画界の五社協定以来、長らく続いてきた。

なぜこのような違法で不合理なシステムが続いてきたのだろうか?

まず、メディアが芸能界と歩調を合わせてきたことがある。芸能界は音事協を中心として一致団結し、敵対するメディアに対し、タレントの出演拒否などの手段で対応してきた。メディアは次第に芸能界に飼い慣らされ、批判精神を失い、「芸能界の悪しき因習」の担い手として、独立を画策したタレントに猛バッシングを浴びせるようになっていったのである。

もう1つは、タレントに告発させないという仕組みがある。独立を画策したタレントは、メディアから猛バッシングを浴び、芸能界から干されるが、それは一時的なものだ。そのタレントが反省の意思を示し、1年から数年が経てば復帰を許されるのである。タレントとしては、嵐が過ぎるのを大人しく待っていれば再び芸能活動ができるということを知っていれば、芸能界批判をして問題をこじらせるという選択はしないのである。

これまで芸能界で干されたタレントは星の数ほどいるが、私が知る限り芸能界の不合理さを決定的に告発したケースはただの1つもない。

だが、このシステムも最近になってほころびを見せ始めているのではないかと私は考えている。

▼星野陽平(ほしの ようへい)
フリーライター。1976年生まれ、東京都出身。早稻田大学商学部卒業。著書に『芸能人はなぜ干されるのか?』(鹿砦社)、編著に『実録!株式市場のカラクリ』(イースト・プレス)などがある。

星野陽平の《脱法芸能》
◎森進一──「音事協の天敵」と呼ばれた男
◎松田聖子──音事協が業界ぐるみで流布させた「性悪女」説
◎宮根誠司──バーニングはなぜミヤネ独立を支援したのか?
◎爆笑問題──「たけしを育てた」学会員に騙され独立の紆余曲折

芸能界の歪んだ「仕組み」を綿密に解き明かしたタブーなきノンフィクション『芸能人はなぜ干されるのか?』