読者の皆さんもご経験があろうが、疾病や怪我でクリニックや病院にかかっても、最近では病院では「薬」をもらえないことが当たり前になってきた。会計の時に診察費などを払い薬の「処方箋」を受け取り、どこかの薬局へ行き薬を購入しなければならない。

このように医療機関で薬を出さないように医師と薬剤師の分業化を進めることを「医薬分業」と呼ぶらしい。日本薬剤師会のHPには、

「医師は医学の専門家であり、薬物療法を熟知している半面、複数の薬を服用した際の相互作用や用量を増やした際に起こる副作用等の安全性については、薬という化学物質に精通している薬剤師のようには詳しくありません。それでも、目の前の患者さんが複数の病気や症状に悩んでいれば、医師は3剤、4剤と処方する薬を増やして助けようとするのが道理です。また、明治時代の開業医が診察料よりも薬剤料で生業を立てていたことも、過剰投薬と薬害を助長する土壌となりました。医薬分業を廃止し、薬学の専門家である薬剤師が医療の場から消えれば、今日においても、明治時代と同じ状況が起こりえます。

医薬分業はたしかに“二度手間”ですが、その“二度手間”こそが患者さんの安全を守り、最小の薬剤で最大の効果を上げることで、薬剤費の適正化にも役立っているのです」

とあり、日本薬剤師会の方々は「医薬分業」の推進派であるようだ。まあ、病院やクリニックで薬を出せなくなれば、必然的に薬局の需要が高まるのだから薬剤師の方々の職場は増え、歓迎するのは当然だろう。

◆説得力に欠ける推進派による「医薬分業」のメリット

だが、日本薬剤師会に限らず、「医薬分業」を推進する方々の展開する理由は今一つ説得力に欠ける。医薬分業を推進するメリットとされている点は、以下のようである。患者にとっては、

・重複投薬の危険防止になる。
・院外薬局での薬の充分な説明や投薬指導が受けられる。
・薬局を自由に選択できる。
・待合時間が減少する。
・処方内容の開示
・副作用防止

などが改善するという。

だが複数の医療機関にかかっている場合は「医薬分業」が「重複投薬」の抑止には何ら役には立たない。そういった批判をかわすためか薬局で処方箋による薬を購入しようとすると「お薬手帳はお持ちですか」と聞かれる。自身で薬の摂取を管理できない状態の患者さんにとって「お薬手帳」は有効だろうけれども、私は過去にどんな薬をどこで処方されたかなど、いちいち薬局に知られたくはないし、大方の医師は薬を処方するにあたっては既往症や、現在他に飲んでいる薬があるかを聞いた後に処方する薬を決める。

また社会全般に対しても「過剰投与の減少につながる 」と主張する人が多いが、果たして本当だろうか。薬剤師が仮に医師の出した処方箋に「過剰投薬」を発見したところで医師に対して「この投薬はいかがなものか」との質問を投げかけることなど、薬局の経営の観点からも、医師と薬剤師の力関係からも起こりえない空想だ。

都会にはドラックストアを兼ねた処方箋薬局が林立し、それとは別に処方箋のみを扱う薬局も増加している。小さなクリニックの近くで営業する処方箋薬局の薬剤師が「お客さん」であるクリニック医師の意向に異議を申し立てられるだろか。

たしかにミスに近い小さな過誤を発見できる程度の効用はあろうが、「過剰投薬」を防止するといった観点から医師に対して処方箋上に指示された薬を「取り消すように」と進言できる薬剤師(薬局)など構造的に存在できるはずがない。仮に厳密に進言を行えば「うるさい薬局(薬剤師)」として干されてしまうことは間違いないだろう。

また、薬剤師が「薬」のプロであることは間違いないにしても、処方箋薬局に勤務する薬剤師は商いとしての「薬屋」と言う側面も持つ。患者の症状に応じた薬剤の提供は薬剤師の義務だろうが、同時に「薬局として」売り上げを上げていかなえれば経営がおぼつかない。ここに私は「医薬分業」の決定的な矛盾と欺瞞を感じる。

たしかに大病院内でしか薬が処方されないと、診察後にさらに待ち時間が長くなる。そんなケースには処方箋薬局の存在は有難い。しかし病院にかかる患者は怪我や疾病で体の具合を悪くしているのだ。手間は一度で済むにこしたことはない。私のように田舎に暮らしていれば、医院と薬局2箇所を回るのはかなり余計な手間であるし、体への負荷になる。

◆「院外処方」では病院の経費が削減され、患者の薬価負担が増える

しかも、重要なことは「院外処方」を受けると「院内処方」よりも患者の薬価負担が確実に増えることだ。私自身が過去胃の調子が悪く近所のクリニックで診断を受けた際に1種類の薬を眠前に飲むように、と「院外処方」で薬を貰ったことがある。その時薬局でも受け取った「領収書」の内訳は「調剤技術料」191点、「薬学管理料」41点、「薬剤料」240点である。合計点数が472点だから総額は4720円に相当しその内「薬代」は2400円なのだ。この金額のうち自己負担は3割だから私の支払総額は1420円だった。

しかしクリニック内で「院内処方」として薬を出してくれるのであれば、「調薬技術料」や「薬学管理料」は徴収されないから薬代は2400円×0.3となり、720円で済むはずだ。処方される薬の種類や量にもよろうが、私のケースでは「院内処方」と「院外処方」ではほぼ倍の金額を払わなければならなかった。

更に「医薬分業」には重大な落とし穴がある。クリニックや病院は薬を出さなくなるから製薬会社から薬を購入する経費が大幅に削減できるだろうけれども、「処方箋薬局」は原則全国どこの病院で出された処方箋にも4日以内であれば対応しなければならない。内科、外科、皮膚科、眼科、精神科など、基本すべての診療科が出す「処方箋」に対応する在庫を揃えておかなければならないのだ。

小規模の薬局でそれは可能だろうか。不可能だ。実際に処方箋薬局にいっては見たものの、「在庫がありませんので後日お送りします」と言われたことのある読者も少なくないだろう。

総合病院の薬局が担っていた在庫と同等の種類を揃えておかなければならないのが今進んでいる「医薬分業」だ。そんなことが全ての薬局に担える道理がない。

前出の日本薬剤師会によると、

「2012年度の1年間に全国で発行された処方箋の枚数は7億5888万枚にのぼっていますが、医薬分業率は66.1%に達し、完全分業にようやく近づきつつあります」

そうだ。しかし患者の立場ならすれば「医薬分業」の全面実施は迷惑な話であることこの上ない。完全に医療機関と薬局を分離するのではなく、患者が希望する医療機関には薬局機能も残し、「院外処方」を扱う薬局と並存させるというのが現実的かつ、無理のない運用ではないだろうか。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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