芸能界では昔から「枕営業」と呼ばれる人身売買が行われているとされているが、時に報道などによってそれらが明らかとなるケースがある。

2010年には契約解除をめぐる紛争でタレントの眞鍋かをりが芸能事務所、アヴィラと裁判沙汰になったが、この裁判の準備書面で眞鍋側は「仕事場の楽屋でマネージャーから(中略)『タレント某は社長と性的関係を持ったから、番組に出演出来た』などの低俗な話を聞かされた。実際に話題に上ったタレントの仕事量が増えた」「性的関係を持った女性タレントに小遣いを渡していた」などと主張し、物議を醸した。

◆頻発する犯罪報道で明らかになる「枕営業」強要の実態

2014年12月には「ちょいワルおやじ」という流行語を流行らせ一世を風靡した中年男性向けファッション誌『LEON』を創刊した有名編集者、岸田一郎氏から、『東京ガールズコレクション(TGC)』への出演を引き換え条件に肉体関係を強要されたとして23歳のモデルが『FRIDAY』で告発した。

2015年1月にはオリコンランキングで1位を獲得し人気が急上昇していたアイドルグループ、仮面女子のメンバーらが運営会社社長に日常的に性接待を強要されていたという告発が『週刊文春』で報じられた

こうした報道は最近、特に増えている。

先月は、アイドルグループ、PASSPO☆のメンバーがツイッターで枕営業の実態をほのめかす内容の投稿をし、大騒動となり、また、元芸能プロダクション社長田代オリバーことベレン・オリバー・オリベッティ容疑者がタレント志望の女子中学生に「俺がデビューさせてやる」と持ち掛け、みだらな行為をしたとして、児童福祉法違反の疑い逮捕された。

さらにその数日後にも、東京、原宿でスカウトした女性の着替えの様子を盗撮していた芸能プロ社長ら5人が逮捕される事件も起きた。

叶恭子『トリオリズム』 (2006年小学館)

◆叶姉妹とミス・コンをめぐる1999年『週刊ポスト』スキャンダル報道の衝撃

筆者が調べた範囲では、「枕営業」に関する過去の報道でもっとも衝撃的だったのは、『週刊ポスト』が1999年11月から12月にかけ、5回にわたって報じた叶姉妹とミス・コンテストをめぐるスキャンダルだ。

叶姉妹といえば、97年ごろから高級ファッション誌『25ans』に「スーパー読者」として紹介され、瞬く間に人気を獲得した、叶恭子、叶美香による姉妹ユニットだが、その実態は謎のベールに包まれていた。

『ポスト』の報道には、叶姉妹と密接に公開した資産家令嬢のA子さんが登場し、「絶対にあの姉妹を許せません」として2年間にわたった「レズ奴隷生活」を告発した。

記事によれば、A子さんは数年前に知人宅を訪問したところ、その知人が叶恭子、叶美香を呼び出し、以降、交流が始まったという。

初対面の恭子は、「私のこと、知らない? ミスコンの審査員をしてるの」と切り出し、しきりにミスコンへの出場を誘った。

恭子は毎日のようにA子さんに連絡をし、買い物などに同行させ、仕舞いにはレズ関係を迫られるようになった。恭子は「3人目の妹になりたいなら頑張らないと」といつも言っていたという。

さらには、ある日、美香から「会えば絶対、勉強になる」などとと言われ、コンドームを手渡され、ホテルチェーンを経営している2代目という青年実業家を紹介され、関係を迫られた。

それが終わってから、美香はA子さんにこう言ったという。

「あの人はバカだから(利用するには)ちょうどいいの。あなたは初めてだから、ああいう人がいいのよ。電話番号は教えてないでしょうね」

それから1週間ほどして美香から「この間の人から電話が来たわよ。よかったわね。A子ちゃん。これでしっかりつかんだわ」と連絡があり、再び青年実業家との面会がセッティングされた。再び、面会した青年実業家は「君を紹介してもらうのはとても大変だったんだよ」と話していたという。

A子さんが、この間の経緯を恭子に説明し、抗議すると恭子は、「美香がやったのね。私は関知してないの」と釈明したという。

同様のことはその後も続く。そして、叶姉妹は、A子さんに自分たちが運営側として関係し、世界4大ミスコンテストの1つとされ、フィリピンが主催国の「ミス・アジアパシフィック」の日本代表選考会への出場を強く薦め、「A子ちゃんの頑張り次第で日本代表になれるから」と言った。

◆「ホントにやる気だったら、オレと寝ろ。2年でビッグにしてやるから」

そして、大会が1か月後ぐらいに迫ったある日、美香が「ミスをとったあと、A子ちゃんのために個人事務所をやってくれるという人がいるの。絶対あなたのプラスになる人だから会ってみない」と紹介され、音楽関係のプロデューサーを紹介してもらった。

だが、このプロデューサーは、初めて会ったその日にバーに誘い、「ホントにやる気だったら、オレと寝ろ。(ミスコンの)代表になるには2000万~3000万円かかる。そのカネはオレが出すから最低2年はつきあおう。2年でビッグにしてやるから」と迫ったという。

これを聞いて気が動転したA子さんはその場から席を外し、叶姉妹に電話をかけたが、電話に出た美香は「A子ちゃん次第よ。でも、絶対あなたのためになる人だから……」と説得したという。

叶姉妹に憧れ信用しきっていたA子さんは、代表になるためには仕方がないと重い、いやいやながら部屋に行った。

その後もこのプロデューサーはA子さんにたびたび面会を求め、美香からも「会ってほしい」としつこく要請されたが、A子さんは拒絶した。

結局、A子さんは「ミス・アジアパシフィック」で小さな賞をもらったものの、代表にはなれなかった。

◆メディアが叶姉妹を攻め切れない理由──訴訟代理人・弘中惇一郎という脅威

叶姉妹というと、ネガティブな報道に対してはすぐに訴訟を起こすことで知られる。おまけに訴訟代理人は、「無罪請負人」という異名も持つ剛腕の弘中惇一郎弁護士であり、メディアにとっては脅威だ。

『週刊ポスト』側も叶姉妹からの訴訟に備え、連載開始直後から告発者のA子さんを何ヶ月も各地の温泉に連れ出し、匿っていたという。だが、『ポスト』の記事については叶姉妹サイドの反論として「A子さんは叶姉妹のストーカーだった」という記事が女性週刊誌に出たものの、結局、裁判には至らなかった模様だ。

最近、芸能界のセクハラ事件が相次ぐ事態を受け、ある芸能プロダクションがツイッター上で次のように呼びかけ、話題となった。

「現在、事務所の社長やマネージャーにセクハラされたり、体を要求されてる方がいたらご連絡ください!未成年の方は、保護者の方と一緒にご連絡ください!そういう糞事務所を叩き潰しましょう!」

その意気は買いたいが、芸能界の中枢から末端まであちこちではびこる人身売買は、構造的なものであり、直ちに改まるものではない。権力者が恣意的にキャスティングを歪め、オーディションがまともに機能していないという問題にメスを入れない限り、今後も似たような事件が起こり続けるだろう。

※追記=6月6日の本通信の記事で『裁判にはならなかった』と記述したが、この記事を見た関係者のインサイダー情報として『ポスト』と発行元・小学館関係者が刑事告訴されたことが判明、『ポスト』側が家宅捜索や逮捕を恐れ屈服し極秘に和解したという。具体的な和解内容は不明、現在取材中だが、和解後小学館から叶姉妹の写真集が刊行されている。

▼星野陽平(ほしの ようへい)
フリーライター。1976年生まれ、東京都出身。早稻田大学商学部卒業。著書に『芸能人はなぜ干されるのか?』(鹿砦社)、編著に『実録!株式市場のカラクリ』(イースト・プレス)などがある。

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芸能界の歪んだ「仕組み」を綿密に解き明かしたタブーなきノンフィクション『芸能人はなぜ干されるのか?』