本コラムでご紹介した関西大学での講義「人間の尊厳のために」がいよいよ終盤を迎えている。6月19日には小出裕章さん(元京都大学原子炉実験所助教)の二回目の講義が行われ、原発だけでなく戦争へ向かう時代への警鐘が語られた。
6月26日には先の講義を受けて鹿砦社松岡社長へのグループ討論の発表と質疑が行われた。松岡社長は講義にあたりA4用紙にして、5枚のレジュメを準備し、その中では講義中より踏み込んで「表現の自由とプライバシーの関係」等への松岡社長の考えが紹介されていた。
◆討論前には「松岡社長の逮捕は当然」を主張する学生グループも
この日の討論に先立ち準備的に行われたグループ討論の中から「松岡社長の逮捕は当然だった」という意見のグループがあった。これまで出版物やその言論活動に様々批判を浴びてきた松岡社長だが、その逮捕については必ずしも同じ立場ではない学者、出版人からも「逮捕の必要性はない」との意見が殆どであったため、いささかこの「松岡逮捕は当然!」の主張には驚いたようで、先週の講義の際に逮捕のきっかけとされた「アルゼ王国はスキャンダルの総合商社」を多数持参し「一度これを読んでおいてください。その上で私の逮捕が妥当なものだったかどうか意見を聞かせてください」と「松岡逮捕当然!」と議決したグループの学生さんたちに無料で当該の書籍を手渡していた。
26日は28あるグループの中から9グループが松岡社長の意向で選ばれ、グループ討論の意見発表と質疑が行われた。講義中に紹介されたPaix2(ぺぺ)への評価を行ったグループ、「琉球の風」などのへの関わりに関心を寄せたグループの他「表現の自由とプライバシー」の問題についての討論を発表したグループが多く見られた。
その中には「松岡逮捕は当然!」を主張していたグループも含まれており、先週手渡された「課題図書」読後、どのように意見が変化したか注目された。当該グループの発表者は「最初講義で配られた資料(新聞記事)だけを読んで『逮捕されても仕方ない』と考え、グループの意見もそうなったが、先週本を貰い読んでみると、その内容は記事を書いた人が取材記録を淡々と書き綴っているような内容で、特に過激でもない、取材日記のような感想を受けた。この内容で逮捕されたとは知らなかったし、今は逮捕の必要ないと思うようになった」と語った。事実を示すことで松岡社長は誤解を解くことに成功したようだ。
「表現の自由とプライバシー」については様々な意見が発表されたが、受講生のほとんどがまだ1年次生ということもあり、暗中模索の感もあった。しかし皆が真剣に考え個々の問題として捉えていった事ははっきりうかがえた。
◆私たちが厳しい目を向けるのはあくまで社会的強者であるということ
学生グループ発表の後、松岡社長は「私が大学1年生の時、皆さんのように物事を真剣に考えていたかどうかと言うと、恥ずかしい気持ちになります。ただ今後の人生の中で皆さんは必ず私がお話ししたことと関係することに直面する場面があるでしょう。『表現の自由』について様々真剣な議論の発表がありました。誤解して頂きたくないのは、私たちは決して一般市民や社会的に弱い立場の人々のプライバシーを暴いたり、踏みにじったりしてはいないということです。社会的強者である政治家や上場企業など、いわゆる『公人』については厳しい目を向けますが、一般市民にも対してはそのような態度ではありません。資料にも詳細を書きました。これは是非理解しておいて下さい。今後の人生でたぶん皆さんもこの問題に直面することがあると思います。「生き恥をさらして」と言いましたが、皆さん個々がどうお考えになるかは別にして、その時『私(松岡)のような考えと体験をした人間がいたな』と思い出して頂ければ幸いです。ではこの講義はこれで終わります」と結んだ。教室は拍手に包まれた。
来年度も行われる予定のこの講義、松岡社長は初の大学での講義プラス討論だったためか、最初は「スロースタート」の感もあったが、講義2回目中盤から語り口も俄然熱を帯び出し、「生き恥晒す」覚悟は討論と質疑を経て学生さんに確実に伝わったことだろう。予想外の「逮捕は当然!」というグループ出現も、かえって議論の深みを持たせる役割を果たす事となり、漠然と「表現の自由」と言い名の講義を受講するよりも「生きた現実」を示された学生さんたちは深く考えざるを得ず、自分自身の問題として考えることが迫られたのではないか。
学生さんには「知」と「体験」を聞き考察することにより、机上論ではない実践を基とした「生き証人」を前にして思索を巡らせる貴重経験となった事だろう。
▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。
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