J-castニュースによると福岡教育大学の准教授が7月21日の講義中に「戦争法案絶対反対」「安倍やめろ」などのシュプレヒコールの「練習」をさせたとして大学は准教授の授業を停止したそうだ。(2015年7月27日付J-castニュース

これに関して同大学は7月23日、下記の声明をHPに掲載した

福岡教育大学「授業内容のインターネット掲載に関わる事案について」(2015年7月23日)

◆1日15件の問い合わせは「炎上」なのか?

21日の講義からわずか2日で准教授の「授業停止」を決定したのだというから「電光石火」の対応だ。学生からネット上に投稿されたものは複数ある模様だが、その中にはこの准教授の講義を否定的にとらえていないものも含まれる。大学によると「一時炎上と言われる状態に陥った」とコメントがあるが、「炎上」などという軽々しい言葉を大学が使うことに私は違和感を覚える。いったい「炎上」と言うほど大騒ぎになったのはどこのサイトなのだろうか。学生個人のTwitterじゃないのか。投稿したのは学生だとJ-castニュースには書かれているが、個人のTwitter書き込みに反論が相次ぐことは別段珍しいことではない。さらに「7月22日には問い合わせや苦情、対応を求める電話やメールが15件ほど大学側に寄せられた」そうだが1日にメールや電話で15件の問い合わせは大騒ぎするような数ではない。

大学職員時代に、やや刺激的な企画やイベントを新聞などで告知すると案内した電話番号に電話が集中し、仕事が出来なくなる経験を何度かしたが、そんな状態に比べれば「メールを含めて」1日に15件など特段取り上げるほどの数ではない。

◆国公立大学は教育機関でも研究機関でもなく「従順な国民の養成機関」なのか?

そこで福岡教育大学の田中正幸事務局長に電話で事情を伺った。田中氏の話によると「問題の講義は『人権同和教育論』という講義でその受講生がTwitterに投稿した。その事実が判明したので授業担当者の准教授に事実確認を行ったところ『否定』はしなかった。本人が『否定』していないのでTwitterに投稿された事実は存在したと考えており、現在その詳細を調査中だ。授業担当者の外したのは『処分』とは考えない。教員がどんな考えを持とうが自由だが、講義の中で特定の考えを語るのは逸脱の可能性がある。それを語る必要があったのか、無かったのかも含めて調査している」との回答であった。

私は「『人権同和論』の講義ならば最大の人権蹂躙である戦争に対して反対を述べるのは全く自然なことではないか。安保法制に反対するのは『特定の考え』ではない。人権を教える講義の中でごく自然なことではないか」と質問した。

田中氏は「安保法制の事など大学は全然問題にしていない。あくまでも講義内容として適切であったかどうかだけだ」と回答されたが「では、不適切な可能性が疑われる内容は何だ」との問いに「それは学生が投稿した通り『戦争法案絶対反対』とか『安倍を倒せ』というものだ」と結局問題にされているのは「特定の考え」=「安保法制反対」であることを認めた。

田中氏には忙しい中30分ほど時間を割いて丁寧に対応頂けたが、残念ながら福岡教育大学の判断は完全な過ちだ。過ちどころではない。罪でさえある。

国公立大学の教員は公務員だから「国に楯突く研究や言動をするな」というなら、大学は教育機関でも研究機関でもなく、単なる「従順な国民の養成機関」だ。

◆安倍政権の「反動攻撃」にビクついてばかりの国公立大学の経営陣

福岡教育大学は「大学教員が行った教育活動の適正さについて関係法令や本学規則に照らした事実調査等を早急に実施し厳正に対処してまいります」なんていきり立つな。どれだけの凶悪犯罪や知能犯罪を犯したかと誤解するけども、要するに准教授は「戦争推進法案」に危機感を持っていてそれを講義中に語り、きょうび政府に反対することの方法や表現すら知らない学生に範を示しただけの事ではないか。

普通の教育者としては「当たり前」の行為じゃないのか! 戦争に反対するのは。

国公立大学の経営陣は安倍政権発足後矢継ぎ早に飛んできた「反動攻撃」にびくついている。これは福岡教育大学に限った事ではない。教授会権限を奪い学長権限を拡大する「独裁運営」を認める法改正が行われ、ついには「文科系教員養成系学部の廃止・統合」などという実質的な「大学破壊」を文科省は迫っている。もう文部科学省は「教育弾圧省」と実態に合わせて改称すべきだ。

◆大学が異常なほど迅速に対応した背景の本質──戦争推進勢力に抗うことが「非行」扱いされる時代

大学が僅か2日でこのような決定を発表するのは「異常」だ。国立大学の意思決定は通常このように敏捷ではない。「役所的」な手続きがあるから普通の概念より「ゆっくり」しているのが常態だ。その「常態」を「異常」にせしめたのは僅か15通のメールや電話だけであろうか。

違う。殺人事件が学内で発生した並の「緊急対応」を大学当局に取らせたのは、私が想像するに「時代の脅迫」だ。元朝日新聞植村記者の非常勤講師契約について様々な脅迫を受けた北星学園大学のような状態に陥ることへの恐怖感が大学執行部をつき動かしたのではないか。あるいは匿名の卑怯な脅迫や恫喝ではなく「教育弾圧省」からの「お叱り」を慮った側面もあろう。

実際田中氏によると22日時点では問い合わせやメールや電話は15本程度だったが28日に産経新聞(!)が記事化しネットでも配信してから苦情や問い合わせが急増しているという。

憲法違反の「戦争推進法制」に反対することへの「自己規制」いや「内部粛清」が顕在化したのが福岡教育大学事件とみるべきだ。便利なようで「凶器」にもなる「ネット」が力を持つ現代、匿名性の脅迫は当事者を思いの外委縮させる効果を持つ。

武器を持たされる「戦争」の前に「言葉を封じられる」言論弾圧はこのように急速に進行している。既に時代は戦争推進勢力に抗うことが「非行」扱いされる段階に入っている。

真逆に同志社大学では学長が国会の特別委員会中央公聴会で「戦争推進法案」に賛成意見を述べても同志社大学の理事会は「個人の意見には介入しない」との理由で村田晃嗣学長の責任を一切問題にしていない。学内外で有志教職員・学生が反対の声を挙げるのみだ。図々しくも村田は27日も「良心学」という名の講義を行ったそうだ。そんな資格がこの男にあるのか。

戦争法案反対を講義で語れば担当を外されるが、国会で戦争法案賛成を明言しても「良心学」を語らせる。この底抜けに救いがたい倒錯。ファシズムの加速がはっきり目に見える。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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