ニュースサイト「THE PAGE」8月5日に「『原発にミサイルを撃ち込まれたら?』山本太郎議員の質問は杞憂」と言う記事が掲載されており、6日午後現在アクセス数が一番多い政治記事と表示されている。
ネット上には数多くのニュースサイトが存在するがその真贋(あるいは信用度)は玉石混合で、かなりの確度で情報が正確なサイトから明らかに偏向した視点から主張を展開するものまで幅広い。私が読んで正確さを疑うことが多いのは、「FOCUS-ASIA.COM」、「Record China」そして「産経新聞」などが展開するニュースサイトだ。「THE PAGE」は記事により質にばらつきが目立つ。
同サイトの記事を批判する前に断わっておくが、山本議員の質疑の内容はあくまでも「国が現在想定している」ことへの疑問であり、私自身は中国や朝鮮が現実に日本への「攻撃」を行う可能性はゼロではないが極めて低いと考える。しかし「日中平和友好条約」で「相互不可侵」が明確に謳われていても現政権は中国を実質的な「仮想敵国」として国会答弁を続けている(こんな失礼なことはない。「同盟国」とされる米国情報機関は安倍の自宅をはじめ日本の省庁などの電話を「盗聴」していたことが報じられているが、それに対する政府の反応は極めて腰が引けている。同様の「盗聴」をもし中国が行ったら大騒ぎするだろう)のだから、その矛盾と原発の危険性及び事故時対策の無策を指摘することが山本議員の質問の本質的問いと感じた。
◆勝手に想定したシナリオで山本太郎議員の国会質問を歪曲させる「THE PAGE」
8月5日の「THE PAGE」掲載ニュースには誤りが多い。記事中「弾道ミサイルに原発を狙えるピンポイント攻撃能力はない」の中で、「そもそも弾道ミサイルには原発施設に命中を期待できるようなピンポイント攻撃能力はありません。例えば北朝鮮は核兵器と弾道ミサイルをセットで開発しようとしていますが、これは命中精度の低い弾道ミサイルには大量破壊兵器を組み合わせないと効果が著しく低いことが理由の一つです」とある。
これは仮定が誤っている。「命中精度の低い弾道ミサイルには大量破壊兵器を組み合わせないと効果が著しく低い」のは「THE PAGE」が勝手に想定するシナリオであって、命中精度だけの向上を目指すのであれば「ミサイル」にGPSを搭載するだけでピンポイント攻撃は可能になる。
ちなみに最新のICBM(大陸間弾道ミサイル)は1万キロ以上先の標的から半径200メートル以内に着弾する確率が50%を超えている。「原発銀座」である福井県と北京の距離は1,787キロ、ピョンヤンからは979キロだ。この距離の原発を狙うのであれば「大量破壊兵器」を搭載する必要はなく、格納容器と圧力容器を破壊できる程度の爆弾を搭載すればよいし、稼働中の原発ならばミサイル着弾の際に、制御棒挿入による緊急停止(スクラム)は出来ないから、格納容器を破壊しなくとも冷却系配管の破壊を起こすだけで原発は暴走する。このような能力を持つミサイルはイスラエルのパレスチナ攻撃やシリア内戦で政府軍が実戦使用している。中国は独自開発、朝鮮にはスカッドミサイルが配備されていると推測されるが、弾道ミサイルの弾道部分を軽くして、最近の自家用車にも搭載されているGPS機能を搭載することはいともたやすい技術である。
また、「なお巡航ミサイルならばピンポイント攻撃能力がありますが、北朝鮮は保有していません」では、意図的に中国が巡航ミサイルを保有していることへの言及を避けている。政府は答弁で中国と朝鮮の脅威を語っているのだ。政府意見の擁護を試みるのであれば中国を度外視しては反論にならない。
さらに、「核弾頭を保有しているなら原発を狙う必要がない」という、攻撃側の意図を勝手に限定した見出しの文章の中では、「ロシアや中国の場合は核弾頭を大量に保有しており、核弾頭を積んだ弾道ミサイルを相手の都市部に落とせば確実に大被害をもたらせるので、原発へのミサイル攻撃を行う意味がありません。核弾頭をまだ大量保有していない北朝鮮にしても、弾道ミサイルの弾頭に高レベルの放射性物質を搭載するという方法があります」と、議論の本質から逸脱した主張を行っている。
「そんなことは、わかっとるちゅうの!」の一言だ。前提が違うだろう。山本議員の質問は「原発にミサイル攻撃があって被害が出たらどうするか」を政府に尋ねているのだ。「原発へのミサイル攻撃の必要はありません」というのは勝手だけれども、これを書いた「JSF/軍事ブロガー」なる人物は中国や朝鮮の政府や軍の責任者に「日本攻撃作戦」の手の内を取材したことがあるのか。
◆安倍政権の矛盾だらけの政策を代弁しているだけ「JSF/軍事ブロガー」
そして道理を外れた憶測・推測を重ねている割には、「原発への攻撃は戦時国際法違反となる」といきなり真っ当なジュネーブ条約を持ち出してくる。しかし以下の文章は何が言いたいのだろう。
「このジュネーブ条約第1追加議定書は日本の仮想敵国であるロシア、中国、北朝鮮も締約しています。これらの国が戦時国際法を遵守するという保証はありませんが、重大な違反行為と規定されていることを破るとなると、大きなリスクを背負うことになるでしょう。また仮にアメリカが、同盟国の稼働中の原発へ攻撃が行われた場合は大量破壊兵器の使用と同等と見做し核報復を行うと宣言した場合、強力な核抑止力が発生します」
え? 仮想敵国は「ジュネーブ条約に加盟している」けど「遵守するか」どうかはわからない? 「また仮にアメリカが・・・強力な核抑止力が発生します」は全く論理が通っていないぞ。「アメリカが報復攻撃を行うと宣言しなかった」らどうなるのだ。米国はジュネーブ条約加盟国だけれども、イラクやアフガニスタンで数々のジュネーブ条約違反を犯している事を帰還兵が告発している国でもある。一旦核戦争が起これば「ジュネーブ条約」もあらゆる国際法も吹っ飛んで、世界は破滅に向かうことを想像できない発想力の低さには恐れ入る。
極めつけは、「ミサイル対策よりもテロ対策」として、「もしも『可能性が低くても原発への弾道ミサイル攻撃の対処が必要だ』とした場合は、自衛隊がミサイル防衛システムを用いて迎撃する、あるいは地下原発・海底原発といった防御力が強固な施設への転換を図るという選択が考えられますが」と、どうあっても原発を継続しないと気が済まないらしい。
要するにこの「THE PAGE」の記事は現政権の矛盾だらけかつ無謀な政策を代弁しているだけで、しかもその抗弁も国会答弁並に「穴だらけ」で説得力がないということだ。
クソ暑いのに余計に不快指数が上昇する。
▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。
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