7月25日(土)、長崎県長崎市で安保関連法案(戦争法案)に反対するデモが行われた。
主催の「N-DOVE(エヌ・ダヴ)」は長崎県内の10代?20代が中心のグループで、今年6月にSEALDsの活動に触発され、被爆地長崎から反戦の声を上げるべく発足した。
彼らは若者を「高校生から大学生、30歳まで」と規定しており、戦略的に良い判断だと私は思った。大都市以外では「若者」の間口を広げる傾向があるが、デモはアピールなので、見ている人々の目にどう映るかを意識した場合、「若者」を年齢で限定するのは得策とも言える。
[動画]戦争立法に反対する若者の緊急デモin長崎 – 2015.7.25 長崎市(3分4秒)
全国で一番最初に「安保法案の成立を求める意見書」を県議会で可決した長崎で、若者たちは声をあげることを決めた。非常に保守的なこの地で、彼らが自民党を明確に批判したシュプレヒコールを街に響かせたことは、地元議員にとっても相当衝撃的だったはずだ。
「なんか自民党感じ悪いよね!」
「強行採決マジふざけんな!」
「勝手に決めんな!」
「戦争したがる総理はいらない!」
こんな刺激的なコールを叫び、民主主義とは何かを問うている無党派の若者の出現を想像した人はいただろうか。長崎にも新たな風が吹き始めた、いや新たな風が彼らによって起こされたと言うべきか。
安倍政権が進めている国作りが国民に与えているインパクトは相当なもので、今回の「戦争法案」を受け、デモそのものが成熟しておらず勢いがあまりない地域でも次々と若者によるデモが企画され反対の声があがっている。無党派のデモがほとんど無い土地で、ほとんど見ることの無かった年齢層の人々が動き出していることは驚きだ。
全国のデモや抗議を4年以上、年間100回以上撮影している私でも、鳥取県・長崎県・大分県・熊本県の4県だけは今まで撮影ができずにいた。タイミングが合わなかったり、開催頻度が少なかったり、情報発信の充実度、行きやすさなど様々な理由があったが、それが今年7月の「若者デモ」の撮影だけで大分県以外の3県へ行くことができてしまった。なかなか伝わらないかもしれないが、すごいことが今日本で起きていると私は痛感している。
デモ出発前、長崎市中心部にある銕(くろがね)橋で1時間ほどの集会が開かれ、順番にスピーチが行われた。
「70年前の8月9日、たった一発の原子爆弾が一瞬にして7万人もの命を奪いました。
僕らは今、その彼らが眠る土の上に立っています。
僕たちには、もう二度と戦争を繰り返すなという、彼らの声なき声を受け継いでいく使命があります。
その声は、一内閣の解釈一つで変えられるほど、軽いものではないはずです」
「強行採決後、菅官房長官は『三連休を挟めば国民は忘れるだろう』と言いました。
僕たちが隣国の方々と共に歩んできたこの70年の歳月をたった3日間で忘れることはありえません。
3日休んだからと言って、平和への祈りは途切れることはありません。
国民をなめんな。
安倍さん、あなたは僕たちの平和への祈りを怒りへと変えました。
憲法も守れない。
国民への説明も尽くせない。
拡大の一途を辿るしかない武力では、平和を守ることができなかったのだという反省を踏まえた憲法9条の価値が分からない、そんな人にこの国の総理大臣でいる資格はありません」(N-DOVE 森爽さん 18歳)
若者たちがマイクを握り、「安保法案の成立を求める意見書」に反対をした民主・吉村正寿県会議員、社民・坂本浩県会議員、共産・堀江ひとみ県会議員もマイクを握る。70年前に原子爆弾による攻撃を受けた都市の老若男女が一致団結し、戦争法案に反対する声をあげた。この節目の年に長崎で行動を起こしたことは大きな意味を持つはずだ。
今回のデモは全長600m、普通に歩いて7?8分程度の非常に短いコースだった。出発時間になっても警察官が来ないのでどうしたのかと思ったら、長崎市のデモには警察が警備に来ないこともあるらしい。ちょうどこの日はお祭りがあって、長崎警察署も忙しかったのだろうという話も耳にした。そんなことで、今回は先頭に街宣車ありの車道通行のデモ行進が警察がいない状態で行なわれた。
公道を警察の警備なしに行進が行なわれていたのは、私が知るだけで長崎県長崎市・山梨県甲府市・宮崎県宮崎市の3ヶ所だけだ。私個人が取材に行った場のデータだけなので、恐らくはもっと存在しているのだとは思う。
警察がいなくても車道通行デモを行なうことは可能なのだが、参加者の誘導をきちんとしないと街の人々に迷惑を掛けてしまうことになるので注意が必要だ。デモに慣れている大人たちには、どう警備されたら安心して行進できるのか分かるはずなので、若者たちが表に立ち自らが理想とするデモのビジュアルを作ることに専念できるようにサポートに回るのが大人たちの役割だろう。
『ながさきみなとまつり花火大会』の会場が宿泊していたホテルのすぐそばだったので、夜はちゃっかり花火を見に行ってきた。台風の影響で2日目が中止になったので、初日に二日分の1万発を一気に打ち上げたので本当に凄かった。
花火が終わった後に特設ステージへ足を運ぶと、長崎出身の歌手・福山雅治さんの『クスノキ』を長崎市長ら大勢の人々が合唱していた。『クスノキ』は平和を願った歌として知られている。
お祭りでも平和を願う長崎は、昔から海外に開かれた異国情緒あふれる国際色豊かな街だ。安倍政権が進める戦争ができる国づくりにより、隣国との平和的な交流を妨げることにならないことを祈るばかりだ。
[2015年7月25日(土)・長崎県]
▼秋山理央(あきやま りお)
1984年、神奈川県生まれ。映像ディレクター/フォトジャーナリスト。
ウェブCM制作会社で働く傍ら、年間100回以上全国各地のデモや抗議を撮影している現場の鬼。
人々の様々な抗議の様子を伝える写真ルポ「理央眼」を『紙の爆弾』(鹿砦社)で、
全国の反原発デモを撮影したフォトエッセイ「ALL STOOD STILL」を『NO NUKES voice』(鹿砦社)にて連載中。
《ウィークリー理央眼》
◎《016》戦争法案に反対する若者たち VOL.10 津
◎《015》戦争法案に反対する若者たち VOL.9 熊本
◎《014》緊急寄稿・朝日新聞と冨永特別編集委員のおわび
◎《013》戦争法案に反対する若者たち VOL.8 福岡
◎《012》戦争法案に反対する若者たち VOL.7 甲府
◎《011》戦争法案に反対する若者たち VOL.6 国会前
◎《010》戦争法案に反対する若者たち VOL.5 鳥取