「ガサ入れ」、「勾留理由開示公判」、「公妨」、「警備法廷」……。ご存知の方には耳慣れた言葉でも、興味のない方には何のことやらさっぱり意味が解らないかもしれない。でも、この島国に住む全ての人々がこれからは上記の言葉の意味を理解していなくてはならない時代になった。

◆9月16日国会前冤罪逮捕、24日不当ガサ入れに続き、25日は勾留理由開示公判!

9月16日国会前で「戦争推進法案」に反対して集まった多くの人びとの中から、まったくの「冤罪」で13名が逮捕される事件が起こった。

24日被逮捕者に関係する数か所が警視庁公安の「強制捜査」(ガサ入れ)を受け、私もそのうちの1か所「りべるたん」で公安警察と名乗る「暴力集団」の狼藉の一部始終に付き合った(24日付記事参照)が、25日は東京地裁310法廷でまだ釈放されていない6名のうち2名の「勾留理由開示公判」が行われた。

秋雨が降り一気に肌寒さを増す悪天候ながら、開廷予定10時の1時間前には約30名の支援者が集まり、支援集会が開かれた。今回の法廷は悪名高い常時警備法廷である「429号」法廷の隣、「430号」法廷だ。「429号」法廷には33席の傍聴席があるが、「430号」法廷には20席しか傍聴席がない。

傍聴者の数を制限しようとする、裁判所の悪意は明白だったので、事前集会でもそのことへの追求や糾弾発言が相次いだ。午前9時30分、傍聴券の抽選が行われた。日頃行いの悪い私は今回も抽選から外れてしまったが、支援者の皆さんのご協力で傍聴券を譲って頂き法廷内に入ることができた。

「経産省前」でやはり不当逮捕された3名の「勾留理由開示公判」は「429号」法廷で開かれたが、その時以上に裁判所は警戒度を高めていたのだろう。

傍聴券を手にして法廷に入ることが出来る20名の他、支援者たちも地裁4階に集結し、「どうしてもっと大きい法廷で開かないんだ!」、「裁判所は傍聴させろ!」と開廷時間前から裁判所職員に抗議の声をぶつけた。この日、午前10時から「429号」法廷では何の審理もおこなわれていないことが判明したので、抗議の声はより高まった。

◆傍聴者全員を犯罪者扱いするような金属探知機による身体検査

東京地裁(高裁)は建物に入る際に金属探知機で全員が「身体検査」を受けるが、「警備法廷」傍聴の者は、筆記用具以外全ての荷物を裁判所に預けなければならないという「身勝手」なルールがある。私は傍聴できない方に全ての荷物を預かって頂き、多くの職員の間を通り法廷前に進んだ。ここでまた改めて「金属探知機」による身体検査がある。まるで犯罪者扱いだ。

そして「430号」法廷の前に移動するが、傍聴に入った人が、「430号」法廷向かいの法廷の傍聴席に3名が着席していることを発見した。向かいの法廷は今日審理の予定が張り出されていない。つまり誰もいるはずがない、いてはならない場所に照明がともり「何者か」(警察の疑いが濃厚)が控えていることが判明した。

「おかしいじゃないか」の声が上がる。「開廷予定のない部屋に照明がともり不審者がいる。中を調べろ」と裁判所の職員に要求するが、一向に取り合う気配はない。開廷予定は午前10時であったが、弁護団の1名が他事件の接見で到着が遅れたために、開廷時間は30分ほど遅れた。到着した弁護士に、支援者が早速不審者が控えている旨を伝える。

定刻から約40分遅れで傍聴者の入廷を許されたが、開廷前にもかかわらず裁判官は「私語や拍手などあれば即退廷を命じます」と威圧的な発言をした。

◆拍手をしただけの傍聴者を法廷外へ排除する有賀貞博裁判官

この裁判官の名は「有賀貞博」 。そうだ。経産省前で逮捕された3名の「勾留事由開示公判」の際にも法廷を仕切り、多数の「退廷命令」を乱発し、挙句の果て「閉廷後の全員退廷命令」まで出した「退廷専門裁判官」だ。10時40分、被逮捕者が入廷してきた。拍手をした傍聴者に早速「退廷命令」が出される。まだ有賀は「開廷」を宣言していないのに、体格だけ大きくて暴力が大好きな裁判所職員が傍聴者1名を取り囲み、無理矢理法廷外へ排除した。

すかさず弁護団が「おかしいじゃないか、開廷も宣言していないのに何で退廷なんだ!」と抗議するが有賀は無視。続いて10時41分、被逮捕者に「頑張れ!」と声をかけた傍聴者がまたしても数人の「乱暴者」達により抱えられて無理矢理法廷外へ連れ去られた。

前回傍聴した「勾留理由開示公判」で有賀は弁護団の求釈明にほとんどまともに回答しなかった。この日も入廷して以来、1分に1度くらいの割合で法廷後部の壁に掛けられた時計をしきりに見ている。有賀には身柄を拘束されて非道な扱いを受けている冤罪被害者の「勾留理由」を説明するつもりなど最初からまったくなく、ただ形式的に弁護団の求釈明に「答えません」、「先ほど話した通りです」を繰り返し、この場を乗り切ろうとする姿勢がありありとうかがえた。しかも有賀の物言いは極めて高圧的だ「静かにしなさい」、「被疑者は黙りなさい」と命令口調に終始する。「お前は何様だ!」と怒った弁護士もいた。

不当拘束をされ、まともに「勾留理由」を開示しようともしない有賀に、被逮捕者が怒るのは当然だろう。何度も被逮捕者は有賀を糾弾する言葉を投げつける。

検察からは3名が出て来ていた。「全員名前を名乗れ」との弁護団の要請を、有賀は「発言した検察官に限り名前を名乗るように」と、裁判所=検察癒着体質を露わにする。そもそも「勾留理由開示公判」で検察が出廷していようとも発言することは稀だから、名前を名乗るチャンスはほとんどありはしないのだ。唯一「吉田純一」という検察の中でも「公安事件専門」と言われる検察官が苗字だけ名乗ったが、弁護団の「姓名を名乗れ」の要求を有賀は「その必要あありません」と却下した。

吉田のフルネームが判明したのは、傍聴席にかつて吉田に取り調べを受けた経験のある人がいたからだ。

弁護団は「求釈明を項目ごとに読み上げるので、その都度、理由の説明をして欲しい。そうでないと被疑者の人も傍聴席の人も訳が分からなくなる」と有賀に要求するも、有賀は「全て読み上げた後に回答します」と答えるのみだ。どうせ、「先ほど述べた通りです」、「これ以上は答えません」以外にこの裁判官という名の「国家権力の犬」(弁護団の表現)は語るつもりはないのだ。

私が知る限り、有賀の語彙は「前に述べた通りです」、「これ以上は答えません」、「被疑者は静かにしなさい」、「退廷を命じます」だけだ。

これだけの語彙で「裁判官」という職業は務まるらしいのだから、司法試験なんか不要なんじゃないか。有賀と同じ采配と発言なら私にだってできる。それほどこの男は許しがたく被逮捕者や傍聴人を冒涜する。本質的な意味において「悪人」である。

◆逮捕勾留は「弾圧のための見せしめ」だった!

11時06分、大した発言もないのにまたしても傍聴者に「退廷命令」が出される。

弁護団が緻密に用意した求釈明に有賀は一切まともに答えなかったのでその間のやり取りは割愛する。

が、ここで珍事が起きた。被逮捕者の両側に座り警備をしている警察官のズボンの中の携帯電話が鳴り出したのだ!

おいおい!法廷内には携帯電話持ち込み規制されて、傍聴者は全員入り口で預けさせられているんだぞ。お巡りさんよ。慌てふためく警察はどこのポケットに携帯電話が入っているのか探るがなかなか見つけられない。間抜けな呼び出し音が鳴り続ける。

おい!有賀!この警察官に何故「退廷命令」を出さなかったのだ!

百歩譲って、被逮捕者の警備が業務の警察官が携帯電話を持っていることまでは認めるにしても、法廷内で傍聴者の僅かな発言には「退廷」を命じるなら、少なくとも「携帯電話の電源を切るように」くらいの命令をすべきだろうが。

9月24日「りべるたん」ガサ入れの際に示された、被疑事実「被疑者は背中で機動隊を押した」には腰を抜かしそうに驚いたが、25日「勾留理由開示公判」に出廷した2名の被逮捕者の方々の嫌疑も、ほぼ同様に「背中で機動隊を押し暴行した」と有賀は冒頭勾留理由を読み上げた。

人権蹂躙と税金の無駄使い、そして不要な国家権力による暴力はたいがいにしろ!としか言いようがない。機動隊の虚偽の申告以外に証拠はないし、目撃証言もない。どう考えたって起訴できるわけがない! つまり、この逮捕勾留は「弾圧のための見せしめ冤罪逮捕」以外の何物でもない。

弁護団の意見陳述では3弁護士の怒りが爆発した。「話にならない。有賀!お前は裁判官であるまえに権力の犬だ!」との発言には私も思わず「よし!」と声を出しそうになったが、退廷を食らっては取材が続けられないのでぐっとこらえた。有賀の視線は相変わらず時計を追うばかりだ。

被逮捕者お二人の意見陳述は見事だった。お一人は裁判官ではなく傍聴席に向かって「今日ここに集結された全ての労働者・学生その他の皆さん!」から始まり、「犯罪者を切り捨てるような視点で平和や社会問題を語ってはならない、それは犯罪を犯さずにはいられないところまで社会から追い詰められた人を切り捨てることになる」ときわめて多くの示唆に富む内容だった。

もうお一方は着席のまま淡々と今日の社会情勢を読み解き、何故この逮捕事件が起きたのか、そしてその意味は何かを極めて高い格調でかたっておられた。

有賀の一本調子と全くの好対照が印象的だった。

閉廷の予感が近づくと傍聴席から多くの声が飛び出した。被逮捕者も裁判所職員に阻まれそうになりながらも、笑顔で傍聴席と握手やガッツポーズを交わす。

有賀はもたないだろう。今日釈放でほぼ間違いないだろうと私は確信した。

その時、「全員退廷」命令が出された。有賀得意技だ。私は検察官の態度が許せなかったので、少し彼らにアドバイス(?)を送った。そうすると若手二人の検察官は泣き出さんばかりにおののいている。何を怖がっているのだ。私如き善良な市民に。

◆私を足蹴りで転ばした東京地裁職員たちこそ暴力集団!

気が付いたら天井が見えていた。裁判所暴力職員に足蹴りで転ばされたのだ。「おい!暴力やないか!」と反撃すると3人がかりで手足を掴んで立ち上がらせようとするが、その際明らかに1名が私の脇腹を(強くはないが)殴ってきた。さすがに私もキレてしまった。それ以降の発言は私の人格に対する誤解を招くので割愛するが、25日の有賀及び東京地裁暴力職員の横暴を私は決して忘れない。

そして、その様子は法廷外でも多くの人びとが直接、間接に見聞きして知っている。この写真は傍聴できなかった人から提供頂いたものだが、閉廷後も抗議の声は暫く止まなかった。

13時から記者クラブで学生を中心に記者会見が行われた。20近いメディアが取材を行った。

14時30分頃、被逮捕者釈放の報が支援者に届き、歓声があがる。その後拘留されていた残り5名全員の釈放決定の連絡が入った。

釈放は当然と言えば当然すぎる。だが愚かにして罪深い警察、検察、裁判所よ。そしてその最終責任者である安倍よ。お前たちの妄動はこのように自立した個と、豊かな個性、人格とその連帯によってことごとく粉砕されていくことを心しておけ。

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▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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