社会の耳目を集めた未解決事件については、毎年、事件が発生した日が近づくと、マスコミが捜査の現状や関係者の近況などを報道するのが恒例だ。そんな中、10月は重大な未解決事件がとくに多い月であるように筆者は感じている。
たとえば、警察庁が現在、捜査特別報奨金制度の対象にしている事件だけでも、
(1)2004年10月5日に起きた広島県廿日市市の女子高校生刺殺事件
(2)2009年10月26日に被害者が行方不明になったことに端を発する島根県立女子大生バラバラ死体遺棄事件
(3)2010年10月4日に起きた神戸市北区の男子高校生刺殺事件
と、3件がある。
また、あまり有名な事件ではないが、1999年10月2日に東京都目黒区の目黒不動尊の境内やその周辺で会社経営者の男性のバラバラ死体が見つかった事件や、2000年10月5日に札幌市豊平区でタクシー運転手の男性が刺殺されて現金を奪われた強盗殺人事件なども現在のところ未解決。それぞれ警視庁と北海道警のホームページで情報提供が呼びかけられている。
一方、世間一般には「解決済みの事件」と認識されているが、実際には未解決の事件もいくつかある。警察が犯人ではない人を間違って検挙し、そのまま有罪が確定してしまった冤罪事件がそれである。この「冤罪未解決事件」についても、実は10月に発生した事件は少なくない。
◆「冤罪の疑い」が指摘されている大量放火殺人犯
たとえば有名なのが、先日当欄で「再審取り消し決定のパクリ疑惑」を紹介した大崎事件だ。 1979年10月15日、鹿児島県大崎町で男性の死体が牛小屋で見つかり、原口アヤ子さん(88)ら親族4人が殺人などの容疑で検挙されたこの事件では、懲役10年の判決を受けた原口さんが一貫して無実を訴え、現在は鹿児島地裁に第3次再審請求を行っている。共犯とされる親族3人の信ぴょう性を欠く自白以外には有罪証拠は事実上存在せず、その再審請求活動の現状はマスコミでもしばしば取り上げられている。
一方、世間一般ではあまり知られていないが、密かに冤罪の疑いが指摘されている重大事件もある。2008年10月1日、大阪市の浪速区で起きた個室ビデオ放火殺人事件がそれだ。
店内にいた16人が死亡する惨事となったこの事件では、火災発生時に客として店にいた小川和弘が殺人や現住建造物等放火の容疑で検挙され、裁判では無罪を訴えながら2014年3月に最高裁に上告を棄却され、死刑判決が確定した。確定判決では、小川は自分の現状を惨めに思い、衝動的に自殺を思い立ち、持参していたキャリーバッグに火をつけたとされた。しかし、めぼしい有罪証拠は捜査段階の自白だけ。しかも現場の個室ビデオ店では、火災発生時に小川が滞在した18号室より、その近くにある9号室のほうがよく燃えており、火元は9号室だったのではないかという疑いが指摘されていたのだ。
実を言うと筆者は、最高裁の判決が出る半年ほど前、大阪拘置所に収容されていた小川と面会したことがある。マスコミ報道では、顔がやつれて、目がうつろな写真ばかりが紹介されていた小川だが、実際に会ってみると、顔はふっくらし、精悍な顔つきの人物だった。
「はっきり言うて、冤罪ですから。最高裁にも『火元が違う』言うて、(上告審の)弁護士さんが鑑定書出していますからね」
小川は面会室で筆者にそう言い切ったが、何らやましさを感じさせない堂々とした態度に、やはりこの人、冤罪なのではないか……という心証を抱いたものだった。
もうすぐ10月は終わるが、ここで紹介した事件が解決したというニュースは今年も聞かれなかった。容疑者が検挙されていない事件はもちろん、無実の容疑者が捕まっている事件も一日も早く真犯人の検挙に至って欲しいと願うばかりだ。
▼片岡健(かたおか けん)
1971年、広島市生まれ。早稲田大学商学部卒業後、フリーのライターに。新旧様々な事件の知られざる事実や冤罪、捜査機関の不正を独自取材で発掘している。広島市在住。
◎再審取り消し決定文書にもパクリ疑惑!──冤罪説が根強い鹿児島「大崎事件」
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