新聞の購読者数が減っている。前年度比で2015年前半は朝日、読売、毎日、日経、産経全ての全国紙が部数を減らしている。なかでも下落幅が大きいのは朝日で前年比4%以上の落ち込みで公称発行部数は679万部まで落ち込んだ。「1千万部発行」を売り物にしていた読売も前年比1.51%で1千万部を割り込み、毎日0.61%、日経0.51%、産経0.04%それぞれ部数を減らしている。(2015年08月19日付ガベージニュース)

朝日の部数減が際立っているが、これには昨年の「吉田調書」問題が大きく関係しているだろう。読売、産経や、週刊誌、はては政治家までが「弾圧」を加えてた「吉田調書」問題。朝日は謝罪などする必要は毛頭なかったのに筋違いの謝罪をしてしまった。その反響1月あたり5万部に相当する読者離れを引き起こしたのであろう。

しかし朝日以外の他の全国紙も全て部数を減らしている。この現象はどう考えればよいのだろうか。

◆20代~40代世帯のほぼ半数が新聞購読経験なし

解かりやすく一番明確な原因は、多くの人が「新聞を読まなくなった」ことだ。殊に20代-40代の所帯では新聞の宅配を一切経験したことがない、という人が半数近くに上る。必要な情報はインターネットで得るので新聞はほとんど読まないとう人も少なくなくなってきた。

また、紙ではなく電子版の普及が部数減につながっているという分析もある。電子版の販売部数を公表しているのは日経だけだ。それによると「朝刊(紙)販売数273万2989部、朝刊(電子)販売数39万0819部」だ。朝刊購読者のうち紙と電子の併読が18万4194部で、電子単独購読者が20万6697部となっている。

つまり従来の紙誌面の7%は電子誌面に取り込めているという計算になる。ただし全国紙の中でも日経は経済に重点を置く、やや特殊な新聞だから購読者総も一般家庭というよりは、ビジネスパースンが多く、彼らが出勤途中、タブレットなどで日経誌面をチェックする姿は想像に難くない。

◆紙面を広げられないから具合が悪い

一方、他の全国紙はどうだろうか。「紙ではなくなった新聞」に私は少なからず違和感を覚えるが、これから各紙とも電子化への移行が進むのだろうか。少なくとも電子化により部数減を食い止めたい、という新聞社の意向は明確のようだ。例えば朝日のホームページで記事を読んでいると記事の半分ほどで「無料登録をして先を読む」、「ログインして全文を読む」の選択肢が表示され、何もしなければそこから先は読めない。

朝日の商売下手なところは、ある程度以上の長さの記事になると、このメッセージをどの記事にも乱用しているところだ。インターネットで記事を読もうとした人は「ケチな奴だな」と感じることだろう。

読売のサイトは朝日とは異なり一応記事の要旨はまとまった所まで掲載されていて、その後に「読売プレミアムに登録済の方、記事の続きへ」と「未登録の方、新規登録へ」のタグが表示される。

これまで新聞を購読して来なかった人たちは、このようなタグが現れたら、おそらくその関連文字を検索エンジンに入力をして、他の情報源から知りたいことの内容を確認するのではないだろうか。

長年、何があろうと新聞を朝、夕ななめ読みする習慣のついている私にとって、新聞は紙でないと具合が悪い。なぜなら電子版では新聞を広げられないからだ。私にとって新聞は「何が書いてあるか」が勿論興味の対象ではあるが「何が書かれていないか」、「この小さな記事に隠れた意味は何か」を察知するのに欠かすことの出来ない情報源だ。

◆網羅的な情報に接する体験を失いつつある若者たち

そして新聞には、興味のない記事も多数掲載されている。それに無理から目を通すことが、私には貴重な情報インプットの源泉となっている。紙の新聞であれば仕方なく1頁づつめくって読んでいくけれども、電子版になれば興味のない記事には目もくれないだろう。新聞でなくたってインターネット上の情報の取捨選択には既にそのような習い性が多くの方の身に付いていることだろう。

今後新聞は衰退してゆくだろう。新聞的な情報の価値が下がったわけではなく、網羅的な情報に接することの貴重さを経験したことのない若年層が増加するからだ。スマートフォンやタブレットから拾える情報は無限大だろうが、新聞紙を広げてそこに「書かれていない」ことから世界を想像することも、それはそれで貴重な作業だとは思うが、時代遅れなのだろうか。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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