「え、嘘だ……」とまた全身の力が抜けた。

布川事件の冤罪被害者、杉山卓男さんが先月亡くなっていたからだ。そういえば、昨年の夏頃以来、杉山さんから電話やメイルが来ることはなかった。それ以前は飲みに行った先から「田所さん、遠いだろうけど今綺麗な女の子と飲んでるから来ませんか」と、関西在住の私にいたずらメイルがときどき飛んで来ていた。深夜に関西から首都圏に行けるはずなどないのに。

私は布川事件を知ってはいたけれども、杉山さんや桜井昌司さん(杉山さん同様に逮捕有罪判決を受けた冤罪被害者)の支援活動を別段していたわけではない。杉山さんとはたまたま冤罪被害者を支援している方を通じて知り合うことができ、明け透けな性格とお互いの容姿にちょっとした共通点があったことから、親しくお付き合いさせていただくこととなった。

映画『ショージとタカオ』(右が杉山卓男さん)(2010年井手洋子監督作品)より

◆『冤罪』食らったからって、聖人君子じゃないよ!

杉山さんは自分が「不良だった」と飲むといつも語っていた。本音ではないだろうが「おらさ、刑務所に入っていてよかったと思ってるんだ。娑婆に居たら何してたかわかんねーからな」と何度も口にしていたのが印象に残っている。たしかにその可能性は低くはなかったのかもしれない。そこそこ飲んで気持ちよくなると、あの大柄で色白の男の茨木弁からは、書くにははばかれるセリフを連発していた。

でも、杉山さんは身近な人なら誰でも知っている、頭の切れる人だった。ご自身の冤罪の再審請求も獄中で裁判資料を見直す中からきっかけを見つけたというし、私が「冤罪被害者は国による犯罪の被害者だけれども、全員が清廉潔白な人格の持ち主というのは間違っている。普通の人が『犯人』に仕立て上げられたのだから、色んな人がいるんじゃないですか」と酔いにまかせて語った時、冤罪被害者を含めその場にいた人はみな沈黙してしまったが、杉山さんだけはすぐさま「そうそう、田所さん、ええこというねぇ。ズルい奴もけっこういるし、立派な人もいる。『冤罪』食らったからって、聖人君子じゃないよ!」と同意して下さった。

嘘半分、本当半分のあの茶目っ気にあふれたメイルが来なくなったのは、報道によると昨年夏ごろから病気療養されていたからだったのだろう。短い時間だったけれども杉山さんは私の心を開いて、なんでも楽しく話しをさせて頂ける貴重な方だった。事件の経緯やその後の騒ぎについて、時々話題にすることはあったけれど、本音をいえば私にはあまり興味はなかった。それよりも目の前にいる杉山さんの人格の豊かさがいつも楽しい気分にさせてくれた。ご家族内の相談や「選挙権を手に入れたけど、どこにいれたらいいんだ」ということまで、時に電話を頂いていた。

あああ、また最近経験したのと同じ後悔だ。杉山さんから連絡が無くなった時にこちらから、お伺いの連絡をしておくべきだった。

杉山卓男『冤罪放浪記 布川事件 元・無期懲役囚の告白』(2013年7月河出書房新社)

◆獄中にいた人々へ向ける杉山さんの非凡な視座

杉山さんは若いころ「不良」だったそうだ。間違いないだろう。しかし「冤罪放浪記」(2013年河出書房新社)の中で、永山則夫さんとの交流、袴田巌さん、金嬉老さんをはじめとする獄中にいた人々へ向ける杉山さんの視座は、凡人のそれではない。永山さんの思想性を切り捨て、金さんの傲慢ぶりを平然と暴く。実際のところがどうだったのかはわからないが、杉山さんは様々な「支援しますよ」と近寄って来る人にある種の「教唆」をされても、自身が納得をしなければ受けつけなかったそうだ。逆境でも独立した「個」を持ち続けた意思の持ち主だった。

そして30年の貴重な年月を、この島国の唾棄すべき司法によって奪われた杉山さんの思いは「冤罪放浪記」の帯に記されたことばに集約されるだろう。

「裁判官の皆さん、検察、警察の皆さんに対しては、『私への謝罪は必要ない』ということを、この場を借りて言っておきたいと思います。謝られても、許すつもりはありません。  杉山卓男」

杉山さんは怖い人だった。そして底抜けに優しい人でもあった。彼の薬指には指輪のような刺青があった。「それどうして、彫ったんですか?」と聞いたら「これはね、19の時に悪さして、もう母親には迷惑をかけないように、って誓ってね。それで彫ったの」と杉山さんは答えてくれた。本当かどうかは分からないけど、お母さんへの思いはいつも語っていた。

杉山さん、私がそっち行ったらまた飲みましょう。


映画『ショージとタカオ』予告編(2010年井手洋子監督作品)

◎『布川事件』えん罪被害者支援会HP=http://www.fureai.or.jp/~takuo/fukawajiken/

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

◎「反社会勢力との取引」を拡大解釈する銀行の「口座開設拒否」は人権侵害だ!
◎「一期限り」を公言しながら再選狙った村田前学長が同志社大学長選で落選!
◎挙句の果ての「1億総活躍」──狂気、矛盾、悪意、恫喝づくしの安倍暴走政権
◎NO NUKES! NO WAR! 板坂剛と松岡社長がデモの先頭で「反原発×反戦」を叫ぶ!

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するな戦争!止めろ再稼働!『NO NUKES voice vol.5』創刊1周年記念特別号!

昭和天皇が崩御し、バブルの終焉とともに日本社会は全国的な不況に陥った。カネはないが遊びたい、という客たちが繁華街に溢れた。このあたりからであろうか。キャッチが風俗雑誌を切り抜き、パウチ加工したものを客の目の前でチラつかせて足を留めさせ始めたのは。客は面白いように釣れた。

◆ぼったくりの温故知新──iPadで客引きする歌舞伎町のキャッチたち

平成になると、キャッチのアイテムはさらに進化する。パソコンやアイコラを駆使し、自家製のフライヤーや小冊子を作っているキャッチもいた。そして、今やiPadを所持するキャッチが増えている。

二次元の画像だったものが、iPadの普及により三次元の動画で紹介できるのである。ネット上には、世界各国の動画や画像が氾濫している。取り放題、見放題、使い放題である。これほどの規模の宣伝媒体は、過去に存在しない。

「ウチの店ではですね。こんな娘が……」
キャッチが示すiPadの画面に、目を釘付けにする 客、客、客。ネット社会らしい、新手の客引き法である。

古典的な手法で、客から法外な料金を獲るぼったくり店。時代の先端を担うiPadを駆使し、客引きに利用するキャッチたち。まさに、『温故知新』という故事がそのまま当てはまるのが、ぼったくり店とキャッチの現状なのだ。

◆「確認しなかったのは、アナタの責任でしょ」──ぼったくり店の相場は1人最低5万円前後

歌舞伎町ーセントラル通り(撮影 小林俊之)

店側としては、きちんと「客の了解」をとっている。了解をとった以上、それは「正規のオーダー」であり、これを踏み倒せば無銭飲食だ。客さえ入店すればしめたもの。あとは売上を上げるだけである。

一例をあげれば、セットを1万円程度に設定しても、チャームやオードブル、フルーツを一品、女の子のドリンク代などを加算していく。他にも、タイムチャージなどがある。基本的に、ぼったくり店は自動延長だ。自分から帰る意志を告げないと、延長料金が発生し続ける。タイムチャージと称し、30分毎に延長料金5千円~1万円は取るだろう。

そして、これら算出された小計にサービス料40~60%。テーブルチャージ10%、ボックスチャージ10%、ミュージックチャージ10%などを累計で加算していく。当然、消費税も加算される。一番安く見積もっても、小計金額の2・5倍以上となる。(※店により若干異なる)

現在のぼったくり店では、座った時点で小計が1人最低5万円前後になるように設定されている。メニュー通り5万円の小計で計算すれば、1人あたり12万5千円。4人ならば50万円。しかも、この金額設定はメニューにきっちりと明示されているのだ。だから、違法性はないと突っ張れるのである。

「お金に余裕がないなら、オーダーをだす前にメニューを確かめればいい。女の子に料金システムを尋ねればいい。確認しなかったのは、アナタの責任でしょ」

店側の言い分である。だから、モメた客を警察に連行して払わせる、ということが可能だった。ただし、今年の6月1日からは交番にぼったくり被害客が駆け込むと、被害者、加害者ともに新宿署に連れて行かれ、刑事事件と同様の扱いを受けるようになった。くわえて弁護士が夜9時から歌舞伎町に待機、2万5千円の料金が派生するが店と交渉してくれる『歌舞伎町ぼったくり110番』が東京弁護士会によって6月26日から稼働しているなど、状況は変わりつつある。[つづく]

(小林俊之+影野臣直)

小林俊之+影野臣直!強力タッグの短期連載ルポ[全8回]
新宿・歌舞伎町ぼったくり裏事情──キャッチ目線で見た「警察の対応変化」
《1》「ぼったくり店」はどうやって生まれるのか?
《2》なぜ銀座のクラブにはゴタがないのか?
《3》メニューに金額明示があれば違法性はない?
《4》東京五輪を前に警察が浄化作戦を始動? [近日掲載]
《5》御一人様51万円「クラブ・セノーテ」事件の衝撃 [近日掲載]
《6》ベテランキャッチが語る「ぼったくり」の世界 [近日掲載]
《7》「ガールキャッチ」復活と増えるプチぼったくり [近日掲載]
《8》警察の弾圧が盛り場の「食物連鎖」を増殖させる [近日掲載]

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するな戦争!止めろ再稼働!『NO NUKES voice vol.5』創刊1周年記念特別号!

11月6日、任期満了にともなう学長選挙が同志社大学で行われ、第33代学長に理工学部の松岡敬(まつおかたかし)教授が選ばれた。この学長選挙には4年前に「大学長になっても一期しか学長は勤めない」と公言していたはずの村田晃嗣(むらた こうじ)も立候補していた。

7月の衆議院平和安全法制中央公聴会で「戦争推進法案賛成」を明言し、私立大学学長としては実質的に日本の歴史上初の「戦争推進発言」を行ったファシスト村田は、同志社大学が築いてきた「リベラル」、「良心教育」の歴史を完膚なきまでに踏みにじり、同志社の名を地に落とした。

◆落選したからといって国会で大学長として行った発言の罪が消えるわけではない!

もう学長とは呼ばれなくなる村田。しかし戦争推進発言の罪は消えない

その村田が学内外の良心的な人々から強い指弾を受けながら、恥知らずにも「公約」であった「一期限り」をかなぐり捨て、厚顔無恥にも再び学長選挙に出馬した。学長選挙の候補者になるためには推薦人が必要だが、恥ずかしくも「戦争推進」を公言した村田を支持する人間が同志社大学には一定数存在していたわけだ。

しかし、声を挙げない、行動しないように見えた教職員の中にも「最後の良心」は残っていた。橋下徹同様「公約破り」を平然と行い、同志社に限らず全国の若者を戦場に送り込む最悪法に賛成の意を示した村田。大学人としては万死に値する倫理的大罪を犯しながら、その後も平然と「良心学」の講義の教壇に立っていた村田。本来は任期満了を待たずに、国会での発言直後に「打倒・追放」されるのが村田には当然の報いであったが、よくも再度学長選挙に立候補などできたものだ。奴には「戦争推進法案賛成」の引き換えに、自民党から「ご褒美」が用意されていると、私は見立てていたが、自民党から約束を反故にされたか。それとも大好きな米国(とりわけCIA)から離縁されたのか。

落選したからといって学長として国会で行った発言の罪が消えるわけでは決してない。同志社大学関係者はこの選挙結果に安堵することなく、「村田発言」への責任追及は断乎継続しなければならない。


◎[参考動画]戦争法案【賛成】公述人=公明党推薦・村田晃嗣=同志社大学学長(2015年7月13日)

◆同志社の村田打倒から大阪のファシスト橋下打倒を!

スクラップ・アンド・スクラップで間もなく崖から落ちる橋下徹(2015年10月31日おおさか維新の会 結党大会後の記者会見にて)

そして、関西ファシズムの元凶橋下とその断末魔「政治団体大阪維新の会」(政党ではない)候補の出馬する、大阪市長、大阪府知事陵選挙で、何としてもファシスト橋下=「政治団体大阪維新の会」を最終的に完全撃沈させよう。

私たちはいったいどれほど多くの貴重なものを奴に奪われたことだろうか。村田打倒から橋下打倒へ! 大阪府民、市民の皆さんの決起を強く呼びかける!

 

 

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

◎奨学金地獄と高すぎる学費──揺るぎなき教育貧困国・日本
◎沈黙する大学の大罪──なぜこんな時代に声を上げないのか?
◎「人文社会科学系学部」ではなく、まず文科省を廃止せよ!
◎福岡教育大学「粛清」事件──安倍の弾圧に過剰適応する大学の罪

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10月25日の新日本キックボクシング協会・伊原プロモーション興行「MAGNUM.39」に於いて今後のビッグマッチが期待されるチャンピオンクラスが出場。

日本チャンピオンから一歩上の“東洋クラス”での戦いを重ねる、新日本キックの“殿堂チャンピオン”と言われる元日本チャンピオンの石井達也(目黒藤本/ライト級)、緑川創(目黒藤本/ウェルター級)、喜多村誠(伊原/ミドル級)の3人と、メインイベンターを務めたWKBA世界スーパーバンタム級チャンピオンの江幡塁(伊原)とツインズ兄・睦含め5人は、今後進むステージが険しいものとなろうとも挑まなければならない最高峰が立ちはだかっている。しかしその出番がいつなのか待ち構えるのも辛いものがあるかもしれない。

◆江幡塁 VS プラーップラーム(タイ)

毎度の江幡ツインズの相手は未知数のテクニシャンで苦戦を強いられる試合が多い。今回の江幡塁(伊原/24歳)も56.0kg契約ノンタイトル5回戦で、無名ながらプラーップラーム・バーンボー・ウィッタヤーコム(タイ)のしなやかな蹴りとスピードに「被弾する、攻め倦む、ラウンドは長引く」といった流れを予想してしまうが、被弾も覚悟でパンチとローキック主体にいろいろな攻めパターンを試し、ボディブローで弱点を突き、見事2ラウンド2分33秒KO勝利に導いた。

「新日本キックに新しい伝説を導きます。その為にもラジャダムナン王座獲りにいきます。」
いつもマイクを掴むと大きな声で滑舌よくアピール。早口でも下手なリングアナウンサーより聞き取りやすいのが見事な声量。兄・睦とともにツインズでムエタイ王座同時奪取となれば新たな歴史に名を残すところ、一昨年、そのチャンスに挑んだツインズだったが揃って敗戦。2年前より更に成長したツインズ。伝説を作るには今後のチャンスを逃がすわけにはいかない。

江幡塁(右)vsプラーップラーム戦。カミソリのような切れ味、効くというより "バシッ"と痛そうな塁のローキック

◆重森陽太 VS 内田雅之

日本フェザー級タイトルマッチは、1位.重森陽太(伊原稲城/20歳)が2階級制覇。チャンピオンの内田雅之(目黒藤本/37歳)を判定で下す。重森は1年前の昨年10月、減量苦から瀧澤博人(ビクトリー/24歳)に2-0の判定で敗れ日本バンタム級王座を明け渡すも、今年3月、フェザー級に上げての初戦で内田雅之と59.0kg契約ノンタイトル戦で対戦し、鋭い蹴りで優位に立ち、判定で僅差ながら3-0判定で勝ってしまった。当然今回、王座挑戦資格を持って再戦。内田雅之も、チャンピオンのプライドを懸けての5度目の防衛戦。通常、再戦はチャンピオンが修羅場を潜り抜けてきた経験値で上回り、挑戦者を退けるパターンが多いが、重森の成長度は著しく、そうはいかないパターンだった。重森の鋭い蹴りは早々から主導権を奪い、その優勢を守りきり、3-0(50-48、50-48、50-47)で第9代日本フェザー級チャンピオンとなる。試合後、内田は第2ラウンドに重森のミドルキックを受けて左腕を骨折していたことが発覚。内田はセコンドにも告げずラウンドを重ねた。4度防衛の経験値で最後まで諦めない戦いを貫いた内田雅之であった。

内田雅之(左)vs重森陽太。長い足を利した重森の伸びあるハイキック、今後の脅威となるか

◆緑川創 VS ジン・シジュン(韓国)

緑川創(目黒藤本/28歳)は韓国の突貫ファイター、ジン・シジュンが前に出てくるところを左ヒジ打ちを合わせ、額をカットし3ラウンド28秒TKO勝利。ここ3戦は勝っても負けてもヒジ打ちで切ったり切られたり、接近戦の賭けが明暗を分けるスリリングな試合で、その勝負度胸を持って目指すはラジャダムナン・スーパーウェルター級王座、タイ現地スタジアムに“単独で渡ってでも挑戦したい”構え。喜多村誠との先手争いも見もの。

緑川創(右)vsジン・シジュン。単なる打ち合いはではない、肘打ちか首相撲を視野に入れた前段階

◆喜多村誠 VS ファン・セチョル(韓国)

その喜多村誠(伊原/35歳)はこの春、日本ミドル級王座を返上して、5月に現地ラジャダムナンスタジアムでのスーパーウェルター級王座挑戦もチャンピオンのアーウナーン・ギャットペーペーの厚い壁に撥ね返される判定負けで、今回の再起戦。韓国ファイターを1ラウンドでローキックで弱点を掴むと2ラウンド1分10秒、しつこくローキックで倒すTKO勝利。再度、ムエタイ王座に挑みたい構え。年齢的にはこちらが急ぎたい構えだろう。

喜多村誠(右)vsファン・セチョル。心折れずとも、足が麻痺してへたりこむしかない喜多村の重いローキック

◆石井達也 VS ソン・スター(韓国)

石井達也(目黒藤本/33歳)も韓国ファイターを最終第3ラウンド終了間際にヒジでカットしTKO 勝利。「そろそろベルトを巻きたいです。見たいですよね?」とマイクアピールでファンに同意を求めた。「WKBAでもWBC(ムエタイ)でもチャンスがあれば何でも来い」という、ムエタイ殿堂王座に限らず、いけるものなら“権威有る世界”と名の付く王座挑戦へステップアップ宣言した。

石井達也(左)vsソン・スター。ビッグマッチを想定した前哨戦、試合展開にもゆとりが出てきた石井達也

◆アトラクションは伊原代表 VS 斗吾

アトラクションにおいて、伊原信一代表を相手にミット蹴りを披露した日本ミドル級新チャンピオンの斗吾(伊原/26歳)。先月、王座決定戦で4位.今野明(市原/32歳)をKOし、念願の王座奪取したばかり。自信を持つとより一層激しい蹴りを観客に披露する威力が増したミドル級の重みが響く。観客の前では毎度、伊原代表も選手以上に現役時代のような強い蹴りを披露する。64歳とは思えない重く速い蹴り。しかし疲れを誤魔化さずタイ人トレーナーにミットを渡し、息を整え観客の笑いを誘う。

伊原代表(左)&日本ミドル級C.斗吾。64歳とは思えぬほど、毎年激しさが増す蹴り合いのパフォーマンス、スタミナだけキツそうな伊原代表

新日本キックには他に日本フライ級チャンピオンの麗也(治政館/19歳)も5月にHIROYUKI(=茂木宏幸/目黒藤本/20歳)からKOで王座を奪った。その後HIROYUKIも再起戦を飾り、今後の更なる成長が楽しみなヤングチャンピオン達。日本ライト級チャンピオンの勝次(=高橋勝次/目黒藤本/28歳)も3月に王座奪取したばかりだが、虎視眈々とムエタイ王座に標準を定めている。といった具合に、ステップアップを果たしたい選手が希望通りチャンスが回って来るか、または若い世代に足を掬われるか、過酷な興行継続も注目となる新日本キックボクシング協会の展開である。

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない。」

◎群雄割拠?大同小異?日本のキックボクシング系競技に「王座」が乱立した理由
◎9.27WBCムエタイ戦──強豪たちの本気の対戦がムエタイの権威を高める!
◎倒すか?倒されるか?日本キックボクシング連盟「大和魂シリーズ」vol.4報告

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そもそもぼったくりとは、どのようなものなのか。

店の料金の設定権は店側にある。日本が資本主義国家である以上、個人や法人は経営において利潤の追求を第一の目的とする。当然、経営はボランティアではない。客を喜ばせるために、赤字経営になってはならないのだ。

まず、店を開店するにあたって投資した、敷金・礼金や不動産仲介料などの償却。毎月、支払わなければならない家賃に人件費。その他、管理費や水道・電気・ガス等の光熱費。酒代やおつまみ等の仕入れなども、大きな出費である。店のマットやトイレのタオル、カラオケがある店なら機械などのリース代。名刺代や伝票・領収書などの文具代。細かいものなどを合わせれば相当な金額がかかる。その出金を営業日数で割り、1日の最低必要経費を算出する。さらに、それを入店客数で割ったものが、最低限必要な個々の客単価となる。

◆客引きが入店に介在して、はじめて生まれる「ぼったくり被害」

何度もいうようだが、店の営業は慈善事業ではない。必要経費が1日10万円で、1日10人の客が見こめるなら、客単価は1万円以上でなければ利益は計上されない。2人の客しか入らないなら、客単価5万円以上は欲しい。1人の客しか入らないなら、客単価は(損益分岐として)10万円以上となる。銀座の高級クラブなみである。

だが、 銀座のクラブにはゴタがない。一晩で何百万円請求されても、客はぼったくりだと非難しない。銀座という土地柄なのか。歌舞伎町との格差なのか。否、客が自分の意志で店を選んでいるからである。つまり、客引き(=キャッチ、ポン引き)が入店に介在して、はじめてぼったくりが生まれるのだ。

キャッチの甘言に惑わされ、低料金だと思って店に入店する。そこで、自己の想像の範疇を超えた料金を請求されたとき、人は「ぼったくり被害に遭った」ことを認識するのである。[つづく]

歌舞伎町ーセントラル通り(撮影小林俊之)

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1991年の暴対法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)成立以降、暴力団(ヤクザ)に対する社会の締め付けが強まった。指定暴力団の構成員であることがバレると銀行で個人名義の口座を開くことは出来ないし、生命保険や損害保険に入りことも許されない。さらに借家を探そうにも不動産屋が指定暴力団の構成員だとみなせば、住居の紹介すら受けることが出来ない。

たしかに、暴力団(ヤクザ)は非合法のシノギ(金儲け)を収入源にしていることはあるだろうが、こんな扱いを受けたら一般的な社会生活すらおくれなくなるのではないだろうか。仮に組織を抜けて「堅気(カタギ)」に戻ろうにも、勤務先で給与の振込先を聞かれて「銀行口座がありません」と答えれば、不審に思われるのではないだろうか。それが原因で「不採用」になりはしないか。

◆暴対法で無法化する公安警察──市民に危害を加えるのは「ヤクザ」でなく「半グレ」「チンピラ」

暴対法は過剰だと思う。公務員として身分が保証され、昼間から日がな一日乱闘の訓練ばかりしている公営組織暴力団(機動隊)とは裏腹に、民間のヤクザには犯罪を犯していなくとも、基本的生活権が認められてはいない。だからヤクザの構成員数は右肩下がりで、「シノギ」も合法的な企業体を装わなければ、即座に警察から「中止命令」を食らってしまう。

でも、「ヤクザ」はどの時代にでも、どこの国にでも必ず必要とされる、緩衝材のような存在ではないか。日本語で「暴力団」と表記すると物々しいけれども、非合法部分で社会の緩衝材的役割を果たす組織は世界を見回しても相当多くの国や地域に存在する。日本の「ヤクザ」だって、戦後の混乱期、警察力が不足していた頃は正式に警察の依頼を受けて労働争議の弾圧や治安維持に加わっていたことは動かしがたい歴史である。時に権力の走狗となり「泥仕事」を請け負うのも「ヤクザ」の役割であった。

そして、警察や総務省、法務省が広報するほど、今日「ヤクザ」は一般市民に危害を加えることはない。そりゃぁその筋の人の集まりの近くに行けば、逃げ出したくなるような独特な雰囲気はあるし、どう真似しようとしたって私如き善良な市民(?)には模倣できない雰囲気はある。だからといって彼らが「おいおっさん、なにメンチ切っとるんじゃ!」と私に絡んできた経験はない。そういう言いがかりをつけてくるのは組織の人ではなく、いわゆる「チンピラ」だ。

「ヤクザ」と比較にならない厄介な存在が一部で「半グレ集団」と呼ばれる暴対法の網にはかからない、実質上の「犯罪集団」だ。最近個人的に「振り込め詐欺」を追及していたら、その元締めがかなり有名な「半グレ」集団であることが判明した。被害拡散防止の為に警察にその旨を連絡したが、相も変わらず警察は即応しない。「貴重なご意見ありがとうございます。情報は必ず上にあげておきます」と言うばかり。いったい何を仕事にしているのだ刑事警察は。

公安警察は頼みもしなくとも、でっち上げ逮捕した人の家に令状を示す前にズカズカ窓から入って来るほど、仕事には過剰に熱心だが刑事警察の程度の低さには、毎度呆れかえるばかりである。

◆冤罪を前科とみなし口座開設を拒否する銀行の姿勢は人権侵害にほかならない

そして「暴対法」や「反社会勢力」との取引を慎重に、という流れの中でお門違いにも被害をうけるのが、「暴対法」や指定暴力団とは何の関係もなく、刑法により有罪を受けた多くの人びとだ。例えば日本には「名誉棄損」の刑事事件で逮捕、勾留された経験を持つ存命の人物が1人だけいる。190日を超える拘置所での勾留がなぜに「名誉棄損」で必要だったのか。まったくもって理解できない扱いを受けたその人は、何と銀行で定期預金を開こうとしたら断られたのだという。因みにその方が定期預金開設を申し込んだ銀行とは長年商売上も、個人的にも取引があり現在も個人名義の普通口座は保有しているという。

どうして定期預金が開設出来ないのかを銀行に尋ねたところ「総合的に判断して」と馬鹿にした答えが返ってきたそうだ。「総合的に判断して」この言葉は企業や役所が「痛いところ」を突かれて明確な回答を出したくない時に利用する常套句だ。私も3ヵ月に1度くらいの割合で取材しているとこの言葉を返される。「総合的に判断して」の裏には、必ず確信の持てない、いい加減な判断や社会には出せない裏事情がある。

上記のケースでは金融機関に義務づけられている「反社会的勢力との取引禁止」を誤解、拡大解釈して、あってはならない「無辜の市民」を「反社会勢力」と断定することにより、失礼千万な口座開設拒否という暴挙に出ている訳である。当該人物を「反社会勢力」と断定するのであれば、これまで続けてきた取引をどう説明するのだ。現在も開設されている普通預金を放置しておいてよいのか。銀行に詳細を尋ねたが納得のゆく説明は得られなかったという。

これは明らかに銀行側が「暴対法」を拡大解釈し過ぎ、金融庁の顔色を忖度し過ぎた大失態であると同時に、無原則かつ説明の出来ない恣意的な「口座開設拒否」は明らかな人権侵害問題だ。

仮に何らかの罪で服役し、刑期を終えて社会復帰した人が銀行口座を開くことが出来なければ、居住場所を見つけることが出来るだろうか。就職先を探し出すことが出来るだろうか。

有罪が確定しても、裁判で確定した刑期を刑務所で過ごしたり、罰金を払えば、その罪は償ったことになるはずじゃないのか。それでも民間社会でさらに「制裁」を受け続けなければならないというなら「法の支配」はこの島国には存在しないことを意味する。

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◎挙句の果ての「1億総活躍」──狂気、矛盾、悪意、恫喝づくしの安倍暴走政権
◎さっそく検挙者を出した「マイナンバー」という「トラブルシステム」
◎NO NUKES! NO WAR! 板坂剛と松岡社長がデモの先頭で「反原発×反戦」を叫ぶ!
◎安保法採決直後に若者弾圧!ハンスト学生への「不当ガサ入れ」現場報告

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旧日本育英会ほか数団体が統合され発足した日本学生支援機構が貸与する奨学金がようやく世間でも問題化しはじめた。現在同機構が貸与する奨学金には2種類あり、1種は無利子で、2種は有利子だ。1種を申請すると成績や保護者の収入で借りられない場合があるが2種はほぼ無条件で貸与を受けることができる。

但し、貸与開始の際には連帯保証人を立てなければならないし、学費支弁者(多くの場合は親)以外にももう一人の保証人に印鑑を突いてもらわなければならない。債務者は学校を卒業した後の学生本人だが「とりっぱぐれ」の無いように「簡単に貸すが回収(取り立て)も厳しくいく」という体制が出来上がっている。サラ金のようなありさまだ。

◆「日本学生支援機構の奨学金(2種)≒ローン」という本音を吐いた中谷防衛大臣

「奨学金」は本来、その語句が示す通り「学びを奨めるための資金」であったはずだけれども、そこに「利息」を付加したことにより性格が大きく変容した。先の国会参議院特別委員会で中谷防衛大臣は「徴兵制」への懸念についての質問を受けた際に、「学資ローンを受けている学生」という言葉で答弁している。舌が滑ったのだ。本当は絶対に口にしてはならない本音が防衛大臣の口から出た。日本学生支援機構の奨学金(2種)は実質的に「ローン」だということを中谷大臣は告白してしまった。

同機構に問い合わせてこの発言についての見解を聞いたが「奨学金はあくまで奨学金で、ローンとは考えていません」との回答が返ってきた。そりゃそうだろう。実質国の機関なんだから、実態が「ローン」でも「奨学金」と言い張らないと体面が維持できない。

この失言を私は複数の野党議員に伝えたが、その後「中谷教育ローン」発言を追及する質問はなかったようだ。

◆平均給与所得世帯でさえなんらかの借金をしなければ子供を大学にやれない劣化社会

そもそも、学校に通うのに「教育ローン」を借りなければならない社会とはどんな世の中なんだ。高等教育に限れば今日私立大学理系の学費は150万円をゆうに超えるし、国立大学だって50万円以上かかる。国税庁によると2013年全給与所得者の平均給与は約414万円らしいが、一人の子どもを私立理科系大学にやれば、年間収入の3分の1以上を割かなければならない。

仮にその大学が自宅から遠隔地で一人暮らしをすることになれば、さらに生活費が少なくとも月に8万から10万はかかるだろう(多くの場合それ以上だろうが)。とすれば平均給与を得ている世帯では、他の原資(奨学金や親戚知人からの援助もしくは借金)に頼らなければ子供を大学にやることすら無理だという計算になる。

わかりやすい例を挙げよう。学生が学費を納める「大学」に勤務している人、すなはち大学教員や大学職員の給与は大学によって異なるものの、概して一般企業よりも高い。戦争推進法案に道を開いた畏くも偉大なる村田晃嗣氏が学長を勤める同志社大学教員60歳時の給与は額面で約1600万円だ。税金や社会保険の天引きがあるから手取りはおそらく1200-1300万円といったところか。

しかしこれだけの収入があっても、年の近い子供を下宿させている教員の中には「生活していくのに精一杯ですよ。3人の学費と仕送りで我々の生活費は年間300万は残りません」と語ってくれた人がいる。

おかしくはないか、この構造は。

額面1600万円といえば、給与所得者としては結構な高給取りだと思うが、そんな人ですら子供が3人同時に大学へ通うと、生活に余裕がない社会。こんなザマのどこが「先進国」なんだ。何が世界有数の経済大国だ。

◆高等教育無償のドイツとは雲泥の差──政府が執拗に進める日本の教育貧困国化

この島国と同じような狂信的な過ちを犯した歴史を持つドイツという国がある。ドイツでは食べ物など日用品の物価は日本より安い。そして大学の学費は無料だ。付け加えれば医療費も無料である。その一方最低時給は全国一律8.5ユーロ(約1129円)だ(日本の最低時給は都道府県別に決定されるが、2015年は最高でも東京都の907円で、鳥取、宮崎、沖縄は693円)。ドイツに限らず欧州の多くの国では高等教育を含めすべての教育機関の学費が無料である。その対極をなすのが英国・米国や日本、韓国などのアジアの国だ。

教育を「国が提供する当たり前の行政サービス」と考えるか、「市場原理で競争させる収益事業」と考えるかの違いが如実に現れる。この時代の日本では、大学に子供を通わせるのは所帯にとって一大事業だけれども、そんな心配や苦労を一切しなくてもよい国が世界には多数あることはもっと知られるべきだろう。それを多くの人が切実に認識すれば、「おい、この社会構造基本がおかしいんじゃないか」と疑問が湧くだろう。

「フロンティアスピリッツ」だの「自由と民主主義の国」といった虚飾にまみれた修辞を冠されることがさすがに近年少なくなったが、矛盾の集約形は米国において明らかだ。「99%の我々」というスローガンが米国で誕生したのには理由がある。世界一の経済大国であっても、庶民の生活が決して「世界一豊か」では全くなく、むしろ「貧困大国」と称されるのが実態であるということだ。だから米国の若い軍人の中には「大学入学するための資格と資金を得るために」入隊する者が多いし、一度軍人として籍を置いた人々には様々な社会的優遇措置がある。

かような「国のありよう」により近づこうとして、敢えて奨学金地獄を放置し、来るべき「徴兵制」の地ならしを政権は着々と進めているのだ。

ろくに内実にも詳しくもないのになんでもかんでも「外国はいい」という「外国かぶれ」の方がいるが、世界はそんなに一様ではない。でもこの島国で大学に行くことはこれほどの経済的負担を保護者にかけ続けている、そして負担が益々増加している様はもっと深刻な反発を招いてもおかしくはないのではないか。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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新宿・歌舞伎町では、今年に入り、月平均で約200件の「ぼったくり被害相談」が新宿署にかかってくる。まさに「日本一、ぼったくりの多い町」だ。

「ぼったくり店」はどうやって生まれるのか。あなたが長年勤めた会社を辞め、夢にまで見た独立を決意したとしよう。商売の基本原則は「薄利多売」である。最初の3カ月は赤字でもかまわない。「先行投資」だ「出血大サービス」だと、集客効果を上げるために盛り上げる。店が繁盛すれば値上げを考えるという、確固たる自信を持って店はオープンした。

歌舞伎町ーセントラル通り(撮影 小林俊之)

開店後の1週間は友人知人が集まり、なかなかの盛況だった。だが、10日目を過ぎたあたりからバタッと客足は遠のき、2週間目に入ったころには店内に閑古鳥が鳴いた。頭をかかえ悩んでいた、ある日、顔見知りになったキャッチが、1人の客を連れてきてくれた。

「社長。この人、どこかそのへんのぼったくりバーでボラれたらしいんですよ。あまりに気の毒だから、3万円ぐらいの予算で飲ませてやってください」

3万円といえば、この店の客単価の3倍である。思わぬ新規の客の出現に、店はホステス総出でもてなした。店内は、華やいだ嬌声で溢れかえる。客も、終始笑顔で飲んでいた。

「ごちそうさま。楽しかった、また来るよ」

気持ちよく飲めたからなのか、店側の上にも下にも置かぬサービスが功を奏したからなのか。客は満足そうに店をでた。満面の笑みで、見送るホステスたち。客はヨタヨタと千鳥足で、歌舞伎町の雑踏の中に消えていった。

「社長、どうもすんませんでした。ウチの店でゴタ(=料金トラブル)った客です。いつまでもキャッチを探して、ウロウロしているので仕事にならない。仕方がないので、良心的な社長のお店に捨てさせていただきました」

歌舞伎町ーセントラル通り(撮影 小林俊之)

キャッチは悪びれずに言った。捨てるとは、トラブった厄介な客を別な店に入れてしまうことである。客も喜んで帰ったのだから、彼の計算どおりにことは運んだ。社長の目が険しく、キャッチを睨む。「また、あんな客がいたらお願いしますよ。今度は、ちゃんとお礼はいたします」

キャッチの意に反し、思いがけない言葉が返った。この店は、客引きを使い店が生き残るべき活路を見いだしたことになる。

「わかりました。ある程度の予算は聞いておきますけど、多少は高く獲ってもいいですよ。ボクら、客の状況やサイフの中身は把握しているんで。もちろん、おとなしい客ばかりで、厄ネタ(=面倒な客)は連れてきませんから……」

キャッチは、エレベーターのボタンを押す。そして、 振り向きざまに、思いだしたようにこう言った。
「あっ、社長。ここはカード使えますよね」
「はい、もちろん」
「それなら、バッチリですよ。ただ、どんな客でも店をでるときは連絡をください」
「わかりました」

店を出た客は、ぼったくられた恨み辛みをキャッチにぶつける。だから店としては、キャッチを逃がさないといけない。

クレジットカードは、コンビニのATMで現金をキャッシングできる上、限度額さえ残っていれば店での支払いにも使える。キャッチは、ニヤッと笑ってエレベーターに乗り込んだ。かくして新たなぼったくり店が、歌舞伎町に誕生する。[つづく]

(小林俊之+影野臣直)

小林俊之+影野臣直!強力タッグの短期連載ルポ[全8回]
新宿・歌舞伎町ぼったくり裏事情──キャッチ目線で見た「警察の対応変化」
《1》「ぼったくり店」はどうやって生まれるのか?
《2》なぜ銀座のクラブにはゴタがないのか? [近日掲載]
《3》メニューに金額明示があれば違法性はない? [近日掲載]
《4》東京五輪を前に警察が浄化作戦を始動? [近日掲載]
《5》御一人様51万円「クラブ・セノーテ」事件の衝撃 [近日掲載]
《6》ベテランキャッチが語る「ぼったくり」の世界 [近日掲載]
《7》「ガールキャッチ」復活と増えるプチぼったくり [近日掲載]
《8》警察の弾圧が盛り場の「食物連鎖」を増殖させる [近日掲載]

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するな戦争!止めろ再稼働!『NO NUKES voice vol.5』創刊1周年記念特別号!

10月25日(日)の早朝6時50分頃、東京渋谷区のトルコ大使館前で、11月1日のトルコ総選挙の在外投票に来た人たちの間で乱闘が起きた。時事通信によれば、乱闘は断続的に発生。鼻を骨折するなど7人が重軽傷を負い、制止に入った警察官2人も負傷した。トルコ人とクルド系トルコ人の対立とみられ、同署は公務執行妨害と傷害容疑で詳しい経緯を調べる。(2015年10月25日付時事通信)

◆激化するクルド人とトルコ人の軋轢

この乱闘事件は大手マスコミでも盛大に報道されたので事件自体はご存知の方が多いだろうが、「いったいどうしてあんな騒動になったんだ?」とその理由や背景については、消化不十分な思いを抱いておられる方が多いのではないだろうか。

機動隊まで出動した、この派手な乱闘を単純化して解説すれば、トルコ国籍を持つ人たちが在外投票に大使館を訪れたのだが、そこで「トルコ人」と「クルド系トルコ人」が衝突を起こしたのだ。

我々から見ると外見ではなかなか区別しにくいが、クルド人はトルコ国籍を持っていようと独自の言語・文化を保持する民族だ。トルコでは今年6月7日に実施された総選挙(総議席数550)で、与党「公正発展党」(AKP)が第一党の285議席は確保したものの、初めて獲得議席数が過半数を下回った。

一方、公認候補を初めて擁立したクルド人の民族政党である「国民民主主義党」(HDP)は得票率13%を得て80議席を確保している。合法政党の進出もさることながらクルド人とトルコ人の軋轢は激化するばかりだ。

◆3000万人のクルド人──世界最大の「国家を持たない民族」

トルコは親日国として知られている。原発事故後の日本と原子力協定を結ぶほど、日本と仲が良い。7800万人ほどの人口を抱えるこの国には多彩な民族と宗教が混在するが、これまで西アジアでは比較的「治安の安定した」国と評価され、日本から観光で訪れる人も数多い。だが、トルコには長年に渡り頭の痛い問題がある。それがクルド人への対応だ。

A collection of photographs by the famous photographer Pascal Sebah on the occasion of the universal exposition in Viena in 1873.

クルド人。世界でおそらく最も悲劇的な歴史を背負って来たこの「国家を持たない民族」は約3000万人がトルコ、イラン、イラク、シリアなどを中心に世界中に分散しながら生活をしている。近現代史を少し紐解けばこの民族の足跡は悲哀に満ちていることがわかる。歴史と言わずとも、現在だってトルコ、イラン、イラクなどでは露骨な弾圧が加えられている。

クルド人の念願は勿論クルド人国家の設立だ。そしてそれは過去短期間ではあるけども実現したことがあった。1946年1月現在のイラン、西アゼルバイジャン州マハーバードを首都として「クルディスタン共和国」が独立を宣言する。ソ連からの援助を受けていたとはいえ、カーズィー・ムハンマド(Qazi Muhammad)を大統領とする「クルディスタン共和国」樹立はこの民族悲願の達成であった。

しかし、イラン政府(ならびに国際社会)は独立宣言から1年も経たない同年12月15日に武力で「クルディスタン共和国」を打倒する。大統領カーズィー・ムハンマドはチャール・チュラ広場で公開絞首刑となり、以降クルド人はひっそりと狩猟を中心とした生活を強いられることとなる。

しかし、西アジア、アラブ各国に広がるこの民族は独立国家の設立を諦めたわけではない。イラン・イラク戦争中には双方が相手国に居住するクルド人に支援を与え内からの弱体化を試みたのを契機に、散発的な武装蜂起がイラク、イラン両国で何度か発生した。

しかし、両国政府は自国に在住するクルド人弾圧の手を緩めることはなかった。とくにイラクでは毒ガス兵器によるクルド人爆撃が大規模に幾度も行われた。確認されている最初の攻撃は1988年3月17日ハラブジャ地方のクルド人居住地域に多量の毒ガス(マスタードガス、ブタンガスなどの混合と見られる)が撃ち込まれ、3700人の死者が出た。

また91年の第一次湾岸戦争後には欧米が「フセイン政権打倒」をイラク国内の反体制勢力に呼びかけたことに呼応する形でイラク国内での少数派シーア派と同時にクルドは蜂起するが、この時またしてもフセイン政権は毒ガス爆撃をクルド人居住地域に対して行っている。

◆沸き起こる心の発揚を抑えない硬質な闘争心に満ちた群衆の姿

90年代後半、私は出張で数日、オランダに滞在した。アムステルダムの目的地に歩いて向かっていると石畳の上を早足で迫ってくる数百人の群衆、否正確にはデモ隊に遭遇した。彼らは背格好がオランダ人ではない。「ひょっとしてクルド人か」との予想は外れていなかった。偶然にも当時少数民族問題に興味を持ちクルド、タタール、チベット、東ティモール、バスクなどの情報を集めていたこともあり、突然目の前に現れたクルド人デモ隊には、鮮烈な衝撃を受けた。

デモ隊は英語で書かれた横断幕も複数持っていたが、叫んでいる言語はクルド語だ。だから、そこで何を叫んでいたのかを私は正確には理解していないけれども、前述のような歴史を知る者として、彼らの叫びと石畳を踏み鳴らす音響には震えを覚えた。

これが沸き起こる心の発揚を抑え切れない(抑えない)硬質な闘争心に満ちた群衆の姿だと、しばし私は彼らの発するエネルギーに黙して見入っていた。

国土を持たない(実質的に歴史上も持ったことのない)分散された民族。その悲しみを私自身がしっかりと共有できているなどとは、おこがましくて言えない。そんな背景を持った人々が東京で見せた露わな姿。

ただ、騒動があった、と片付けてしまうには重たすぎる命題を私たちは示された。独立への指向、民族自決の要求は不当なものだろうか。それが末端では小競り合いや殴り合いという形で現れようが、歴史と現実から目をそむけてはならない。解決策はあるのか。国連は何をやっている。それらをこの島国の住人が少しでも知ろうとするところかしか、話ははじまらないだろう。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

◎アフガニスタンの「ベトナム化」を決定づけたオバマ米大統領の無法
◎「内閣改造」幻想論──安倍政権が続く限り、自民党に「希望」は微塵もない
◎NO NUKES! NO WAR! 板坂剛と松岡社長がデモの先頭で「反原発×反戦」を叫ぶ!
◎安保法採決直後に若者弾圧!ハンスト学生への「不当ガサ入れ」現場報告

唯一無二の特報記事を同時多発で怒涛のごとく!タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』!

 

落語が大好きなわたしですが、最近気になるのは何といっても歌丸師匠の体調です。「笑点」大喜利の進行も病欠がしょっちゅうですし、腸閉塞や床ずれにもなっていらしゃるようです。

それでも笑点に出演した時は、天敵、円楽から「まだ生きてる!」、「歌丸死んだ!」ネタをこれでもかと投げかけられます。それを見て笑ってるんですから、わたしも残酷なもんだなーと反省したりします。でも、聞いたところによると円楽と歌丸師匠の間ではこの「自虐ネタ」を推奨しよう!という協定がかなり前に結ばれていたそうです。

『座布団一枚! 桂歌丸のわが落語人生』(2010年9月小学館)

その歌丸師匠、10月18日には東京新宿で行われたイベントに車いすで登場されたそうです。体調は?と聞かれたら「ダメです」と即答されて、笑いをとっていました。さすが噺家ですね。

そして10月19日の朝日新聞にはこんな真面目な話も出ていました。

今や、芸歴60年以上。落語芸術協会の会長にもなった歌丸さんが「だいぶ後で気がついた」ことがある。「人間、人を泣かせることと人を怒らせること、これはすごく簡単ですよ。人を笑わせること、これはいっちばん難しいや」。涙や怒りはあっても、「人間にとって一番肝心な笑いがないのが、戦争をしている所」と感じている。

今の日本の政治家は「怒り顔」や「ぼやき顔」が目立ち、「油断できない」と話す歌丸さん。最近は、メディアで自身の戦争経験を語る。「今、日本は色んなことでもめてるじゃないですか。戦争の『せ』の字もしてもらいたくないですよね。あんな思いなんか二度としたくないし、させたくない」
(「涙や怒りはあっても笑いがない、それが戦争 桂歌丸さん」2015年10月19日付朝日新聞)

◆円楽の「歌丸殺し」ネタは残酷なようで愛情に満ちている

本当は歌丸師匠、こんな話したくはないんだと思います。だって「人を泣かせることと人を怒らせること、これはすごく簡単ですよ。人を笑わせること、これはいっちばん難しいや」とご本人がおっしゃっているじゃないですか。笑わせたいはずですよ。

一方「歌丸殺し」常習犯の円楽は、短いやり取りの中にもにも冴えを見せますね。昔ビートタケシが「権力批判で笑いがとれるか」と開き直ったことがありましたけど、権力批判だって、頭脳と芸があれば笑いの対象にできることがタケシには判らなかったのでしょうね。タケシは円楽の足元にも及びません。

円楽の「歌丸殺し」ネタは残酷なようで愛情に満ちている、だから見ている人間も笑えるんです。だってもう本当に死にそうな人に向かって「死ね」っていって笑わせるのは、愛情と冴えがなければ無理ですよ。

それに対してタケシは非情というか、この人の笑いは対象を貶めるのが一つのパターンですね。自分が馬鹿やる芸もできますけど。基本権威主義者なんですよね。タケシは。だから映画の監督なんかをやりたがる。

貶める「笑い」をタケシが確立して、世間も肯定しちゃってから、お笑い芸人の質が落ちましたね。「とんねるず」や「ダウンタウン」を「新しいタイプの芸人だ」なんて、とんちんかんな評価がありましたけど、こいつらの芸は基本「貶め」ですよね。タケシが敷いた路線の上を安全運転しているだけ。

悪いけどわたし「とんねるず」と「ダウンタウン」を見て、一度も笑えたことがないんですよ。いや本当に(「中川家」の方が数段面白いとおもいます)。「ダウンタウン」の松本が、クソ偉そうに「遺言」を出版した時に立ち読みして、やっぱりこいつは芸人じゃない。わかっていないなと思いました。「遺言」書くほどの仕事してもいないくせに一流気取りの松本。笑えるのはその己知らずのアホさ加減だけです。

さんまなんか最低ですね。今年は本物のさんまも不漁らしいですけど、この男自分で笑うしか芸がない。あんな低俗な笑い方につられた大竹しのぶには落胆したものでしたが、こいつもわたしが死ぬまでに1度くらい面白い芸をして欲しいものです。

さて、歌丸師匠の真面目なお話しが、ちょっと気にかかるんです。遺言のように聞こえてしまうのはわたしだけでしょうか。歌丸師匠は何回死んでも本当には死なないんです。

面白くもない「お笑い芸人」を張り倒す勢いの歌丸師匠の話にはジーンとさせられました。

(伊藤太郎)

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