今年の新日本キックボクシング協会は、年間11回興行があり、興行はジム持ち回りですが、後楽園ホールだけで8回、定期興行において各チャンピオンが随時出場する安定した団体です。興行のひとつを受け持つビクトリージムは共催ながらリーダーシップを持って年1回のディファ有明で興行を打ち、「Kick Insist」という興行タイトルで東日本大震災復興チャリティーイベントとしての5年目を迎え、そのスケールも年を重ねる毎に大きくなってきました。
Kick Insist 5 / 11月15日(日)16:00~20:25(主催:ビクトリージム、治政館ジム / 認定:新日本キックボクシング協会)
◆元・日本ウェルター級1位の大塚隼人引退式
今回のイベントのひとつは、元・日本ウェルター級1位の大塚隼人(ビクトリー)が引退式を行ないました。2012年10月、当時の日本ウェルター級チャンピオン、緑川創(目黒藤本)に挑戦も3-0の判定負け。その緑川創選手が今回快くエキシビジョンマッチの相手となって対戦に応じてくれました。
大塚は試合から遠ざかり、“太った”という言い方は正しいとは言えませんが、ドッシリとした体格に変貌。悔いなくお互いが激しく打ち合いました。引退式は興行を開催するジム会長との信頼関係が伺える、最後の勇姿を披露させて頂けるリング。大塚は協会役員に囲まれ、伊原信一協会代表から労いの言葉を受けたセレモニーの後、引退テンカウントゴングを聴きました。
大塚隼人もビクトリージム坂戸支部を任される立場となって第2の人生を歩み出しています。王座挑戦は2度。2014年7月には、緑川創が返上して王座決定戦となって、同級2位の渡辺健司(伊原稲城)に2-1接戦の判定負け。恵まれた環境で、入門からタイトル挑戦まで育ててくれた八木沼広政会長への恩返しを果たすため「絶対チャンピオンになります」と言って挑んだいずれの試合も敗れ去ってしまいました。
しかし、2010年6月には日本人キラーだった元ラジャダムナン系スーパーライト級チャンピオンのガンスワン・Bewell(タイ)をパンチでグラつかせると一気にノックアウト勝利し、2012年2月には過去にKO負けを喫した相手、元ラジャダムナン系ライト級チャンピオンのソーンラム・ソー・ウドムソン(タイ)に狙ったカウンターヒジ打ちで切ってリベンジTKO勝利。チャンピオンにはなれませんでしたが、これを超えなければ世界に行けないという“日本人の壁”となって立ちはだかったムエタイボクサー2人に貴重な勝利を挙げている大塚隼人選手でした。
そんな中、日本人の壁の向こうにある本場の試合を披露しようと、ビクトリージムの八木沼会長が、頻繁にタイ国のムエタイジムを回り、選手を選抜して招聘された今回のビッグカードが実現。
◆メインイベント56.0kg契約5回戦
タイ国ルンピニー系バンタム級チャンピオン=クワンペット・ソー・スワンパッディー(タイ/56.0kg)
VS
タイ国ムエスポーツ(プロムエタイ)協会バンタム級9位=ペップンソーン・ペッチンダー(タイ/55.4kg)
勝者:クワンペット・ソー・スワンパッディー / TKO 5R 1:44 / 主審.ノッパデーソン・チューワタナ(タイ)
一流ムエタイボクサーの簡単には崩れないバランスいい体幹と技。その関節柔らかい蹴りの躍動感が美しく、ムエタイの神秘さが冴え渡ります。序盤は静かな展開から、ややクワンペットが好戦的に、日本人でもわかりやすいパンチと蹴りで次第に優勢に進めている印象。第4ラウンドには攻めの圧力が増していき、その勢い維持したまま第5ラウンド途中、レフェリーが突然試合を止め、クワンペットのTKO勝利を宣言。攻防の差がつき、ペップンソーンの勝ち目は無いと判断されてのストップ。日本では相当の劣勢にならないと止めず、ダメージが深くなければ最後までやらせるのが普通でしょう。タイでは実力均衡する対戦が多く、接戦を展開し、ギャンブラーを唸らせる試合が圧倒的ですが、“接戦”という範疇から外れ、試合を止めてしまう展開も珍しいことではないようです。「何で止めたのだろう」という疑問も残りつつ、タイからのレフェリーに対する抗議も無く、堂々としたレフェリー裁定に貫禄すら感じた観客の様子でした。
◆セミファイナル63.0kg契約3回戦
WKBA世界スーパーフェザー級チャンピオン=蘇我英樹(市原/62.8kg)
VS
元・ラジャダムナン系フェザー級6位=セーンアティット・ワイズデー(タイ/62.4kg)
勝者:セーンアティット・ワイズデー / TKO 3R 2:24 / 主審.桜井一秀
5年連続のKick Insistに出場し、激戦を繰り広げる蘇我英樹は、第3ラウンドにヒジで切られてTKO負け。セーンアティットが一枚上手な蹴りと、蘇我の攻めを見透かす中、諦めない捨て身の攻めはいつもの蘇我。5月に爆椀・大月晴明に劣勢に立たされるも、倒すか倒されるかの好ファイトを展開して判定で敗れ、8月には元・ラジャダムナン系スーパーバンタム級チャンピオンのペッシーニ・ソー・シリラットにも激戦の末判定で敗れましたが、ムエタイ第一線級の倒しに来るタイプとの対戦を好む試合ばかり。激戦の末、倒して勝つことも多く人気を誇るが、現在はこれで3連敗と今後の巻き返しロードの展開が注目されます。
◆55.0kg契約3回戦
日本バンタム級チャンピオン=瀧澤博人(ビクトリー/55.0kg) VS チャンプアレック・ゲッソンリット(タイ/55.2kg)
勝者:瀧澤博人 / 3-0 (主審.椎名利一 / 副審.仲 30-27. 桜井 30-26. 和田 30-28)
瀧澤博人は200グラムオーバーで来たチャンプアレックに危なげない圧倒。来年1月には世界へ向けたビッグマッチが予定されます。
◆52.0kg契約3回戦
日本フライ級チャンピオン=麗也(高松麗也/治政館/51.8kg) VS クックリット・ゲッソンリット(タイ/54.0kg)
勝者:麗也 / 3-0 (主審.仲俊光 / 副審.椎名 30-27. 桜井 30-26. 和田 30-27)
麗也は2kgオーバーで来るクックリット・ゲッソンリットにパンチでダウン奪って判定勝利。倒しきれなかったことに不満の表情ではありましたが、2kgオーバー相手に圧勝。
ビクトリージムから出場した選手は6名で2勝3敗1分。ランカー以下は負けが多かったようですが、日本フェザー級3位.石原将伍(ビクトリー)は元・ルンピニー系フェザー級チャンピオンのナコンレック・エスジム(タイ)にKO寸前の計3度ダウン奪うも、ナコンレックも強いパンチで油断ならない捨て身の反撃あって大差判定勝ち。瀧澤博人と共に2人が勝利を挙げました。日本vsタイ国際戦としては3勝1敗でした。
◆『CHACHACHA』『LAMBADA』の石井明美さんがミニコンサート
休憩の合間にもうひとつのイベント、石井明美さんのミニコンサートで過去ヒット曲の『CHACHACHA』と『LAMBADA』を唄いました。テンポのいい曲とまたちょっと懐かしい曲に休憩時間ながら、観衆も聴き入っている人が多く、終わった後も拍手がたくさん鳴り響いていました。
「昔から、お父さんがキックボクシングを見ていて、テレビでは(私も)観ることあったんですが、こうやって実際にまさか自分がリングの中で唄えるとは。どのようなタイムテーブルになるのかなと見てみたら、唄う場所は“リングの中”と聞いてから気分が高まっています。」という石井明美さんでした。現在もテレビには昔ほど頻繁ではないですが、歌番組に出演されているようです。
今年最後の興行は、12月13日(日)に後楽園ホールでの目黒藤本ジム主催興行、日本ライト級チャンピオン.勝次(目黒藤本)の初防衛戦、3位.春樹(横須賀太賀)の挑戦を受けます。先日のNO KICK NO LIFEで黒田アキヒロ(フォルティス渋谷)に逆転負けを喫した勝次のメンタル面と技術の建て直しがどういう展開に持っていくか興味ある一戦となります。
[撮影・文]堀田春樹
▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない。」
◎キック新時代を牽引するRIKIXジムの「NO KICK NO LIFE」
◎ルール変更の紆余曲折から辿る日本キックボクシング界の栄枯盛衰クロニクル
◎新日本キック「MAGNUM39」──トップ選手のビッグマッチと若いチャンピオンたち
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