与党間で合意されている来年の消費税10%への引き上げに際して、「軽減税率」が生鮮食料品や加工食品に適応される方向で調整がまとまりつつある。

「軽減税率」と聞くとあたかも「消費税が安くなる」かの如き誤解も抱かされるが、与党の意図する「軽減税率」は、あくまでも「消費税を8%に維持する」ことのみを意味するのであって、現在よりも税率が下がることではない。

外食は「軽減税率」の適応外だ、テークアウトは適応だなどと些末な議論がかしましいけれども、そもそも消費税が10%に引き上げられる不当性についての議論はあまり見当たらない。

◆「社会福祉目的税」という騙し文句で導入された1989年の消費税

上がる上がる、どんどん上がる。賃金や社会保障費と逆にいったいどこまで引き上げれば気が済むのだろうか、庶民の敵=消費税。現在のところ見え隠れする最終目標値は経団連が示唆する19%だそうだ。

「社会福祉目的税」つまり社会保障以外には使いませんよ、との騙し文句で導入されたのが消費税だった。そんなものは嘘っぱちに決まっている、と少しでも大蔵省(当時)の恒常的欺瞞性を知っている人は、導入された1989年から危惧はしていた。消費税がそのまま社会保障費に充填されるなら、5%から8%に税率が引き上げられた際の増収分、社会保障費は増えていないと理屈に合わないが、第二次安倍政権発足後だけで、社会保障費は3900億円減額されている。

さらに馬鹿げた議論は「軽減税率」を導入するとそれを埋め合わせる「財源が不足する」という世論誘導である。各新聞がそろって報じる「財源不足」論。これから行う「増税」に対して財源が不足するというのは初歩的な論理破綻であって、それほどまでに「消費税の引き上げ」は社会的承認を得た「不可避の選択」だと言わんばかりだ。

新聞が「軽減税率」とその適応範囲の報道のみに熱を上げ、「消費税増税の不当性・逆進性」への議論が皆無と言ってよいほどに封じられているのには理由がある。民主党政権時代に日本新聞協会は政権と消費税引き上げの際(本当は5%から8%へ引き上げられたタイミング)で「軽減税率」の恩恵を受ける、との「密約」があったからだ。

活字離れ、部数減という厳しい環境は全国紙、地方紙共通の課題であり、この上消費税が上がれば定期購読者の減少は明らかだった。だから民主党政権が続いていれば新聞には既に「軽減税率」が適応されていたはずであったが、ご承知の通り政権は自公へ移ってしまったので「密約」も反故にされた。

◆自公政権とマスコミが世論誘導するウソまやかし

公明党HPより

「今こそ軽減税率を」と公明党のポスターが全国の街角に溢れる。なにが「今こそ」だと、山口那津男代表の顔に聞き返してやりたいけれども、創価学会を中心とする全国800万の基礎票を維持するためには池田大作先生の「人間革命」と「聖教新聞」で連日「勝利!勝利!」と連呼しているだけではやはり心許なく、与党内にあって自民との違いを何か演出しなければ危うい。実際に「平和」を標榜する(彼らの言う「平和」がどのようなものかの議論はともかく)公明党としては、「戦争推進法案」強行採決にあたって、ついに国会前をはじめ、全国で創価学会員が「反党」活動を行い出したことを軽視はできないはずだ。

だからお得意の「与党内にあって」何かを演出することが公明党にとっては来年の参議院選挙を控え絶対的に必要な行動となる。

しかし、これらの議論は全てまやかしであり、論外だ。「直関税率の是正」や「福祉目的税」という欺瞞が完全に破綻を来たしている消費税の存置自体の議論が何故湧きあがらないのか。所得税の累進税率を下げ、法人税も連続的に引き下げ、ほぼあらゆる商品、サービスに課税される消費税を上げれば確実に低所得者の生活が苦しくなる。

そのことは自公政権も認めざるを得なく、非課税世帯に対して昨年度は1万円、今年度は6000円の給付を行っている。だがそんな一時金で低所得層の継続的困窮が救済される道理はないし、非課税世帯以外の低所得層は、要するにボッたくられっぱなしである。

◆今こそ消費税の廃止を議論せよ!

野党時代に首相に就任する前にスウェーデンを視察した菅直人氏が「素晴らしい社会保障システムだった」と発言したのに対して、時の政権与党自民党の幹部は「一面だけを見てモノを言っている。スウェーデンは『高負担高福祉』と呼ぶのが正しい」と揶揄したことがある。消費税は3%の時代だ。

消費税が8%に上昇しても「社会保障」は後退しかしないことを我々はすでに経験している。10%に上がってもさらに屁理屈を並べて年金や、生活保護、健康保険などが削られてゆくだろう。この島国ではいくら消費税が上がろうとも「高負担高福祉」社会が実現することなどない。

消費税などなくとも、国債を40兆円も乱発しなくとも財政の運営が過去可能だったのだ。「状況の変化」などを政治が言い訳にするのならそれは為政者の財政運営能力低下を意味するだけだ。ごちゃごちゃ細かい「騙し」の議論「軽減税率」などではなく、「今こそ消費税の廃止」を私は主張する。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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