2月22日本コラムで高浜原発4号機の一次冷却水漏れ事故を大雑把に紹介した。抗議行動中に目前の原発内で「事故」が起こっていることを抗議行動参加者はもちろん誰も知り得なかったし、それは私も同様だった。

ただ、1.7キロほどのデモ行進の間に横を歩く男性に「もし今大きな事故が起こったら私たちはどうすればいいんでしょうか。逃げようにも1本しかないトンネルは片側車線に警察車両が並んで駐車されているし、海は冷たいから凍え死ぬでしょ?」と問いかけたら「心配せんでも皆いかれてまう(死んでしまう)から大丈夫や」と笑顔で返された。そのとおりだ。

◆中央制御室で警報が鳴り響いても外部には緘口令が敷かれる

想像してみる。中央制御室で警報が鳴り響く。4号機建屋内の線量が急上昇している。異常個所はまだ特定できない。中央制御室の関電社員から4号機内の作業従事者へ「異常発生個所を特定せよ」の指示がアナウンスされる。防御服を着た下請け作業員の方々が線量計と懐中電灯を頼りにあちこちへ散らばる。関電社員は上層階の壁際(いつでも逃げ出せる場所)で形ばかりの指示を送り報告を待つ。異常発生場所が発見された。漏れている!「漏れてるぞ!」の声がモーターや動力器の音にかき消されそうになる中、順々に伝えられる。関電社員は作業従事者へ「そこに留まるように」指示をして自分は建屋から走り出る。

中央制御室では「重大事故」を矮小化するための密議が始まる。中央制御室だけではなく事務棟にも「事故発生」は伝えられるが「外部へは一切連絡をしないよう」緘口令が敷かれる。

正面ゲート前からは再稼働反対に集まった人々叫びが聞こえる「再稼働反対!」、「ポンコツ原発を動かすな!」、「事故が起きたら関電はどうやって責任をとる!」、「若狭の自然を汚すな!」うるさい奴らめ!こっちはそれどころじゃないんだ。漏えいだよ!漏えい!しかも1次冷却系だ!運転中なら原子炉が暴走を初めてもおかしくない場所。再稼働前で助かった・・・。制御棒を抜く前に気が付いてよかった。あと数日遅れていたら4号機は運転停止どころか、抜け穴だらけの規制委員会もさすがに運転は許さないだろう。

あんな場所でどうして水が漏れたんだ? 配管が一段と薄い場所だから小さな亀裂が入っていた可能性が高い。他の場所はどうだ?一々全部の配管を調べ直す? 馬鹿な。まっすぐに伸ばしても何十キロ、あるかわからない複雑な配管の全ての強度検査なんか出来る訳ない。上層部もやるつもりはないだろう。時間と金がかかりすぎるし、そもそもそんな検査は技術的には不可能なんだ。とにかく再稼働にさえたどり着けばそれでいい。あとのことは知らない。4月からは本社勤務に移れるんだ。毎週金曜日には反対派の連中がやかましいらしいけど、若狭に居て事故処理に直面させられたらたまったもんじゃない。東電だって福島現地は戦場だったけど東京本店は結局無傷だったじゃないか。

あ、そうだ。いざという時のために購入してある豪州行の1年オープンチケット(ビジネスクラス)の期限がもうすぐ切れる。今年は使わなかったけど高浜4号が再稼働すれば必要性はますます高まるから早めに購入しておこう。

といった気分なんじゃないのか。関電の社員は。

◆今から考えるとわずかに異変が起きていた

2月20日高浜原発正面ゲート前から見渡せるゲート近くの建物内には今から考えるとわずかに異変が起きていた。通常抗議運動でそこそこの人が集まるとゲート前に警備員や警察が立つだけでなく、建物の中からもこちらを眺めている関電社員の姿が必ず確認できた。20日は天候が悪く社屋の中には照明が灯っていたのでより内部の様子ははっきり確認できたが、この日は建物の中からこちらを眺める社員の姿は(私の記憶に間違いがなければ)1人も確認できなかった。

それがおかしいなとは感じたが内部で事故が起きていようとは思いいたらなかった。あそこにいた時間確実に抗議する私たち、警備員、警察官の全てが「平等」に被曝していたのだ。原発は差別的だけれども「放射能」は極めて平等だ。反対派も事業者も警備員も機動隊も平等に「被爆」させる。

原発の安全を確立するのは無理だ。普段は気軽には使わない言葉だけれども「絶対」に無理だ。逆に原発が事故を起こすシナリオは際限なく想定できるし、今回の冷却水漏れも関電に言わせると「目の届きにくい場所」で起きたそうだ。そんな場所いくらでもあるだろう。

整備不良の自動車、特にブレーキの利きが悪い自動車を泥酔した人間が運転する。場所は通行人の多い狭い道路。こんな例えが適切かもしれない。泥酔者は「私は酔っている」とは言わない。「あー酔った」と言えるのはまだ理性が残っているうちだ。足元がふらついて、呂律が回らない泥酔者に「大丈夫か」ときけば10中8、9「大丈夫、酔ってない」と答えるものだ。

◆何十万人の人の生活を蹂躙しても「原発」には罰金すら課されない

原発は新しかろうが、古かろうが「整備不良の自動車」、電力会社は「泥酔者」、私やあなたは狭い道を歩く通行人だ。問題はこの事故発生確実な状況を修正しようとする公的な意思が皆無であること。実際の泥酔運転は「事故」を起こさなくとも免許取り上げと罰金50万円が課されるが、事故を起こしてたくさんの人を殺し、何十万人の人の生活を蹂躙しても「原発」は罰金すら課されない。

仕方がないからあれこれ知恵を絞って私たちが電力会社と「原発」を懲らしめるしかない。さあ、『NO NUKES voice』7号が発売された。私たちは福島を中心とする被災地に寄り添い、原発立地にも可能な限り出かけて行きながら微力ながらも全力を尽くす。
「われわれは連帯を求めて、孤立を恐れない。力及ばずして倒れることを辞さないが、力尽さずにくじけることを拒否する」(『NO NUKES voice』編集部)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

2月25日発売!『NO NUKES voice』Vol.7!