3月29日15時から東京地裁429号法廷でいわゆる「堅川SLAPP」訴訟(平成27年[ワ]第4562号 損害賠償請求事件、佐久間健吉裁判官)の判決言い渡しが行われた。判決は「被告に39,614円の支払いを命じる」という内容であった。
この裁判は原告である「地方公務員災害補償基金」が被告の園良太氏に対して、江東区の職員Kが「首を絞められた」として損害賠償請求を提起した裁判だ。
事件の背景や経過は、「堅川SLAPP訴訟をたたかう会(https://tatekawaslapp.wordpress.com/)」に詳しいのでご参照いただきたい。
極めて簡略な要約をすれば、園氏が江東区職員K氏の「首を絞めた」との原告の主張に対する民事の損害賠償事件である。しかし争いの事実が存在しているのであれば、本来園氏は刑事事件として「暴行」なり「傷害」なりで事件直後に取り調べの対象のなっていなければおかしい。
偶発的な「喧嘩」や「もめ事」で当事者同士が損害賠償を争う(民事係争や法廷外での示談交渉)ことは珍しくはないが、「地方公務員災害補償基金」という公的機関が職員を暴力行為の被害者に仕立て上げるのであれば、まず警察なり、検察なりに園氏が暴力を振るった事実を訴え出るのが筋だ。
事実として「傷害」なり「暴行」の犯罪があれば、公務員にはそれを告発する法的な義務がある(刑事訴訟法239条2項「官吏又は公吏(筆者注:公務員のこと)は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない。」)。これは訓示規定ではなく、したがってK氏(あるいは「地方公務員災害補償基金」)は刑事訴訟法上の義務を無視しながら、民事訴訟で損害賠償を行うという歪んだ行為をあえて意図的に行っていると解釈せざるを得ない。
原告から証拠として提出されたビデオ映像には、園氏が手を伸ばした場面は撮影されているものの「首を絞めた」場面はなく、法廷ではスケッチによる「証拠」が原告側から示されたという。しかしその内容や主張は度々変わっている。
本当に園氏がKの首を絞めた事実があったと私には到底思えない。判決後、園氏に見解を聞いた。
「この裁判は思想弾圧裁判の典型だと思います。被害とされる事実はそもそも存在しないのに、無茶苦茶な内容を押し付けてくる。証拠とされるスケッチは捏造され内容も途中で変わっていますが、判決文の中では裁判官は『それでも良い』というような表現をしている。証拠の不確実性を全く問題にはしていません。診断書があれば証言の変節も問題なしとしている。全く思考停止の判決です。この判決が適用されれば誰しもがこのような手段で弾圧を被る道筋をつけた。いつの行為かわからない、しかも事実がなくても権力に対する損害賠償を認めるという点で、この判決は権力が市民を弾圧しようとすればこんな無茶が通ると認めた点で深刻であり、全く不当な判決です」(園良太氏)
開廷を前に14:45から傍聴券が配布された。60名近くが傍聴券を求めて列をなし、東京地裁前には30名を超える公安警察があつまり、傍聴希望者の姿をビデオ撮影していた。
判決主文が言い渡されると被告の園氏は「不当判決を弾劾する!」と声をあげ、傍聴席からも次々に抗議の声が上がった。判決言い渡しであるから要する時間は数分であることは明白であるにもかかわらず、悪名高き東京地裁429号法廷(常時警備法廷)の入り口には多数の職員や公安警察が壁を作り、法廷内にも25名以上の職員が監視を行っていた。
この裁判を報じたマスコミはないだろう。しかし弾圧の水位は日常の中でじわじわと上昇していく。事実無根を根拠にした園良太氏への思想弾圧裁判は権力へ抵抗するものへの見せしめ以外の何物でもない。
▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。