世には様々な伝説、予言が存在する。週刊誌の後ろに載っている恋占い、神社のおみくじから辻占(つじうら)まで。キリスト教新約聖書には千年紀の最期にイエスが降臨し、すべての死者がよみがえり神が王国を築くとある。
ノストラダムスを引き合いに出すまでもなく、こうした予言は大抵が戯れ言であり、実現したとしても「これは、あのことだったんだ」とつじつまをあわせる程度である。しかし、疑いがつけいる余地もなく、絵に描いたように予言が実現したら、どうだろう?
◆ジョヨボヨ王が12世紀に予言した「白い人」と「黄色い人」の戦い
インドネシアには「ジョヨボヨ王」の予言が伝わっている。 ジョヨボヨ王(Jayabaya ジャヤバヤ)とは、12世紀に現在のジャワ島、クディリ王国で実在の人物である。ジョヨボヨ王が書き残した民族叙事詩『バラタユダ』として伝えられ、東南アジアで多く上演される「ワヤン・クリ」(影絵人形劇)で取り上げられるエピソードも多く含まれている。
ジョヨボヨ王の予言の中にきわめて興味深い文言が見て取れる。
「わが王国に混乱が生じる。どこからか現れる白い顔の人に長期に支配されるであろう。彼らは魔法の杖を持ち、離れた距離から人を殺すことができる」
予言には〈支配からの脱出〉として、2つの部分で触れている。
「北の方から黄色い人が攻めてきて、白い人を追い出し、代わって支配するが、それはトウモロコシ一回限りの短い期間である」
「私たちが苦難に陥った時、天から白い布をまとった人が舞い降りてきて我らを救うだろう」
ここには暗喩も比喩も含まれない。
「白い人」とは、長きに渡って東南アジアを支配したオランダ人であり、北から来た「黄色い人」は日本人である。
いかにもネトウヨや、エセが捏造しそうな話題であるが、英語でも明白に”Japan”と記載され、ジャワ語でも記録が残っている。
◆ジョヨボヨ王の予言通り、日本軍はインドネシアから2年半で立ち去った
インドネシアは1602年のオランダ東インド会社の設立以来、植民地支配を受けた。オランダの支配は苛烈で、住民には教育を施さず、労働者として酷使し、高価な産出物を根こそぎヨーロッパに持って行ってしまった。
1941年、日本はオランダを含む連合国に宣戦を布告し、太平洋戦争が始まった。太平洋戦争の目的は幾つもあげられるが、その一つにインドネシアの石油産出地帯確保があった。
開戦の翌年、2月14日、日本軍はスマトラのパレンバンに対して空挺作戦を実施した。パラシュート部隊である。降下するのに大砲や機関銃のような大型の火器は持って行けない。約430名が拳銃や、手榴弾などの小火器でもってパレンバンを守る英蘭兵に立ち向かった。英蘭は戦車、機銃などを装備した500名の兵で対抗したが、わずか3日で壊滅させた。
文字通り「白い布をまとった人たち」が天から降臨したのである。
熱帯の真っ青な空を降りて来る純白のパラシュートを見て、インドネシア人は「ジョヨボヨ王の予言」を思い出して狂喜したという。日本軍は3月にはジャカルタを占領。歓呼の声と、後にインドネシア国歌になる「インドネシアラヤ」で迎えられた。350年を持ってしたオランダ支配は日本軍の攻撃、わずか1ヶ月で終焉を迎えたのである。
戦局が日本不利になり、太平洋戦争が終結して2日後、8月17日、インドネシアは独立を宣言。オランダは再進出を計画したが「かつて猫のようだったインドネシア人は虎になっていた」と苛烈な抵抗によって独立国としての地位を勝ち取った。
ジョヨボヨ王の予言通り、2年半で日本はインドネシアから立ち去ったのである。
ある国を「反日国」「親日国」と分別するのは無意味であるし、時には危険でもある。だが、日本が国政として「親米国」であるように、インドネシアは政治的にも親日的であるし、人心も日本派が多い。
◆千年前の予言で繋がる
日本が抱える国際的な問題として、いわゆる従軍慰安婦問題がある。韓国では国際問題として取り上げ、オランダでも問題視する議員がいる。日本軍占領地であったインドネシアも同じ問題を抱えていたが、1995年に設立された元総理・村山富市の「女性のためのアジア平和国民基金」により解消してしまった。
これは被害者が特定された場合、首相の「おわびの手紙」とともに、一人当り200万円を渡し、不確定の国には、その国に対して基金の支援により女性関連施設や機関が作られた。韓国、オランダなどではこれを拒否したケースがほとんどだったが、インドネシアではスムースに進み、トラブルには発展していない。
また、伝説ではあるが、2004年、13万人の死者を出したスマトラ沖地震で、各国の支援部隊が現地へ入り、救護、治療に当たっていた所に自衛隊がテントを設営すると「日本軍が助けに来てくれた」と被救護者が集中してしまったという。
1997年、アジア通貨危機でも日本は一国でIMF(国際通貨機構)を上回る援助をアジア諸国に与え、日本のいわゆる「失われた20年」の間にもインドネシアは年間5%の経済成長を続け工業国へと変貌を遂げつつある。
日本人からすればインドネシアは東南アジアの一国に過ぎないが、現実は人口2億4,000万人。インド、中国、アメリカに次ぐ人口大国であり、世界最大のイスラム教国にして、有数の親日国なのである。
その奥底には千年も前の「ジョヨボヨ王」の存在があったのは、インドネシアにとっても、日本にとっても幸いである。
(伊東北斗)