「おや、これはムエタイだ」──。会場のディファ有明が見えてくると、外に大きな興行看板とスポンサー名の横断幕、国旗などがたくさん靡いていて、いつものキックボクシングとは違った趣に、本場のムエタイスタジアムを疑似体験する幻想を感じました。
会場ロビーにもムエタイグッズの数々の品が鮮やかに置かれた売店が広めに営業。開場時間になると入場客でいっぱい。こんな光景は珍しいことではないですが、ディファ有明はロビーが手頃な広さで、試合以外のパフォーマンスも可能で、使い勝手がいい会場であります。広すぎるとかえってお客様との心理的距離が遠のくので限度がありますが。
◆これまで以上に「ムエタイ」を強調するM-ONE
日本においての興行は主に、キックボクシング戦歴として記録が残り、ムエタイ戦歴という枠に振り分ける必要がないほど一体化して、ひとつの競技化となっています。にもかかわらず、過去にあった興行や試合のように選手が、あるいは主催者が「これはムエタイです」と言っても、どこの認定も受けておらず“ムエタイルールのキックボクシング試合”であって“自称ムエタイ”でしかない場合が多くありました。
この日はカード的に、また試合内容も他のキックボクシングと変わらない展開はあるものの、下地となる興行の構えが備わっており、試合でもこの日のレフェリー陣は5人体制で、内4人がタイ人の元選手たち。ムエタイを熟知したレフェリーが裁くレフェリングはさすがに威圧感と貫禄があり、ここが“ムエタイ”を重視した象徴でしょう。久々にウィラサクレック興行を訪れ、元々、ムエタイを掲げる興行ではありましたが、この日はそれがより強調されている印象を受けました。WPMF傘下であることも後押しされています。
SUK WEERASAKRECK XII(この日よりM-ONEに改名)
3月21日(月)ディファ有明16:00~
主催:ウィラサクレック・フェアテックス / 認定:WPMF本部、WPMF日本支局
◆60.32kg(133LBS)契約 5回戦
タイ国ラジャダムナン系ライト級チャンピオン.ヨードレックペット・ソー・ピティサック(タイ/59.8kg)
VS
国内レベルスムエタイ・スーパーフェザー級チャンピオン.ヤスユキ(=山本恭之/Dropout/60.32kg)
勝者:ヨードレックペット / 2-0
(主審 チャンデー・ソー・パランタレー(ネー)/ アラビアン 49-48. ウィティラム(マット) 49-48. 北尻 49-49)
昨年12月に梅野源治をヒジで破っているヨードレックペットと、いずれ梅野と対戦が予定されているヤスユキとの対戦は、僅差でヨドレックペットの勝利。ヤスユキの長い手足で蹴りは劣らず攻めるも、ミドルキックの蹴り合いは体幹もぶれないヨードレックペットが試合運びの上手さで勝利を導いた様子。
◆66.0kg契約 5回戦
WPMF世界スーパーライト級チャンピオン.ゴンナパー・ウィラサクレック(タイ/66.0kg) VS 健太(ESG/66.0kg)
勝者:健太 / 0-2 (主審 ナルンチョン・ギャットニワット / アラビアン 47-48. ウィティラム 48-48. 北尻 47-48)
日本人対戦10戦10勝(6KO)のゴンナパーが第1ラウンドから健太の右ハイキックに崩れ、ダメージを引きずったか、威力ある蹴りで追い上げるも完全な巻き返しに至らず。健太は自分の距離を見極めるとパンチでラッシュしたりヒザ蹴りを入れたり、主導権を譲らず。1ヶ月ペースで試合を続ける中での勢い付く勝利。
◆58.0kg契約 5回戦
WPMF世界フェザー級チャンピオン.一戸総太(WSR・F三ノ輪/58.0kg) VS TAaaaCHAN(PCK連闘会/58.0kg)
勝者:一戸総太 / 3-0 (主審 アラビアン長谷川 / チャンデー 49-48. ウィティラム 49-48. ナルンチョン 50-48)
ターチャンの派手な後ろ蹴りや飛び技をかわし、WPMF世界の2階級を制した一戸総太が重いパンチと蹴りの的確差で、国内JKIフェザー級チャンピオンのターチャンに、やや押され気味な場面もありつつ勝利を掴みました。
◆WPMF女子世界ピン級タイトルマッチ(100LBS)5回戦(2分制)
チャンピオン.伊藤紗弥(尚武会/45.0kg) VS Little Tiger(前C/WSR・F三ノ輪/45.0kg)
勝者:伊藤紗弥 / 2-0 (主審 北尻俊介 / チャンデー 49-49. ウィティラム 49-48. ナルンチョン 49-48)
昨年9月に16歳の伊藤紗弥が32歳のリトルタイガーから判定で王座奪取。その初防衛戦となった相手は再戦となるリトルタイガーに技のコンビネーションと素早さで優り、再び判定勝利で初防衛。リトルタイガーもWPMFとWMCで世界王座2階級制覇し、数々の王座奪取している名チャンピオン。しかし現17歳の伊藤紗弥がなぜ強いのかは幼少期から始めたムエタイが大きな要因でしょう。ここにもジュニアキック経験者の成長ぶりが伺えます。
◆WPMF日本フライ級王座決定戦(112LBS)5回戦
1位.隼也ウィラサクレック(WSR・F三ノ輪/50.8kg) VS 2位.矢島直弥(はまっこムエタイ)
勝者:矢島直弥 / 0-2 (主審 ウィティラム・サマート / チャンデー 48-49. アラビアン 49-49. 北尻 48-49)
矢島直弥が第5代WPMF日本フライ級チャンピオン。昨年9月同カードで王座決定戦が行われ、引分けにより王座は日本支局預かり、本日の再戦となりました。延長は行わない、これはプロボクシングでは規定のラウンドを超える延長は行わないルールであり、ムエタイでも同様のルール。キックでも本来あるべき在り方でしょう。第3代チャンピオンだった隼也は積極的に攻め、矢島も応戦。ほぼ互角ながら、後半矢島が追い上げた感がありました。
◆54.0kg契約 5回戦
WPMF日本スーパーバンタム級チャンピオン.KOUMA(WSR・F荒川/53.5kg) VS 知花デビッド(ワイルドシーサー群馬/54.0kg)
勝者:KOUMA / TKO 3R 1:16
ヒジによるカットでドクターの勧告を受入れレフェリーストップ / 主審 チャンデー・ソー・パランタレー
◆ウェルター級3回戦
WPMF日本ウェルター級チャンピオン.引藤伸哉(ONE’GOAL/66.5kg) VS ポームロップ・サコンシン(タイ/66.6kg)
負傷判定引分け / 0-0 / テクニカルデジション3R 2:00
(主審 ナルンチョン・ギャットニワット / 北尻 29-29. アラビアン 30-30. チャンデー 29-29)=場内アナウンスによる発表
両者ともに偶然のバッティングによる負傷があった模様。
◆他、5試合
WPMF女子世界フライ級チャンピオン.いつか選手の引退エキシビジョンマッチと引退式も行われました。ファンに感動与える涙の引退式でした。幾つかの団体やフリーのプロモーション興行に出場する梅野源治をはじめ、ヤスユキや健太も、またその他の出場選手も、タイ国トップクラスや日本のトップクラスとも実力が図れる戦いを続けることに、ファンの支持を集めている感があります。敗れてもまた声援が飛び評価は落ちず、ファンは「誰とどのように戦ったか」を重要視していることでしょう。
[撮影・文]堀田春樹
▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない。」