2016年5月14日土曜日。水道橋に所在する〈たんぽぽ舎〉にて催された講演会「地震列島日本の今・そしてこれからは?」(「地震と原発」連続講座第1回)に参加してきた。地震と原発に関する連続講座の第1回として展開された今回の講演会。ゲストとして招かれたのは、地震学者・地球物理学者・評論家として活躍する島村英紀氏だ。1941年、結核の権威である島村喜久治を父として生まれ、東京大学理学部物理学科を卒業。同大学院地球物理学博士課程修了。北海道大学助教授、北海道大学地震火山研究観測センター長を経て、現在は国立極地研究所所長、武蔵野学院大学特任教授として学問に従事している。
2016年4月14日以降、熊本県や大分県を中心に大きな地震が相次いで発生していることを受け、地震に対する世間の関心はいっそうの高まりをみせている。ここでは、島村英紀氏による2時間の講義の内容をより平易に再構成しようと思う。この知識が皆様の生活の一助となるよう尽力する。
◆海溝型地震と内陸直下型地震
──プレートの動く速さは「爪が伸びるスピードよりも速く、髪の毛のそれよりも遅い」
日本で起きる地震には〈海溝型地震〉と〈内陸直下型地震〉の2種類がある。〈海溝型地震〉はプレートとプレートの境で起きるもので、2011年に発生した東日本大震災はこれにあたる。プレートの境というのは海底に存在するため、津波を生むことが多いのも特徴だ。
一方の〈内陸直下型地震〉は、ゆっくりと押し進められてくるプレートによって日本列島が歪んだりねじれたりすることに原因がある。その歪みやねじれが溜まり、岩が我慢できる限界を超えてしまったときに地震が発生する。地震の規模としては一般に〈海溝型地震〉よりも小さいが、人の住む陸地の直下で起きるため、被害が大きくなる。阪神淡路大震災はこちらのタイプであった。
日本列島は、〈ユーラシアプレート〉〈北アメリカプレート〉〈フィリピン海プレート〉〈太平洋プレート〉という4つのプレートが交わる地点であり、その分地震が多発する。プレートが交わる地域は地球上でも限られている。4つものプレートが関係する日本は、それだけでもかなり特異な特徴を有しているといえる。ちなみに、プレートの動く速さは「私たちの爪が伸びるスピードよりも速く、髪の毛のそれよりも遅い」という。
◆中央構造線
──この活断層群が地震を起こし、その被害を実際に“目にした”のは今回がはじめてだった
今回の熊本地震は典型的な内陸直下型地震だが、もうひとつの特徴がある。それは、日本最長の断層帯である〈中央構造線〉が起こした地震だということだ。〈中央構造線〉は長野県に始まって名古屋の南を通り、紀伊半島を横断し、四国の北部をかすめ、九州、東シナ海へと横断する活断層群で、長さは1000kmを超える。
地質学的な研究から〈中央構造線〉が過去に数百回以上の地震を起こしたことが分かっているが、この活断層群が地震を起こし、その被害を実際に“目にした”のは今回がはじめてだ。日本人がこの列島に住み着いたのは約10000年前、記録を残しているのはせいぜい直近2000年ほどなので、この大断層が地震を繰り返してきた時間の長さに比べて、あまりに短い間でしかないのだ。
◆活断層とはなにか?
──地震が起きてみないと断層を確認できない場合は多い
活断層は一般に枝分かれしていたり、途切れたりしているため、活断層の長さをどのように認定するか、というのは学者によってその方法が異なる。原子力発電所を作る前に“活断層の長さ”を決めてから“その場所で起きる地震の最大震度”を求めているが、“活断層の長さ”は学者による任意性が大きいためこの手法には強い疑問が出されている。
また、活断層はその定義が“地震を起こす断層のうち、地表に見えているもの”であるから、首都圏や大阪、名古屋など、川が土砂を運んできたり、海の近くだったりして堆積層が暑いところでは断層が見えないため、“活断層は存在しない”ということになってしまう。阿蘇山の近くのように厚い火山噴出物をかぶっているところでも、やはり断層は見えない。今回の地震では、事後、初めて活断層が確認された。国内の他所においても、実際に地震が起きてみないと断層を確認することができない場合が多い。
◆地震の連鎖について
──東への連鎖が続けば愛媛県沖、西南への連鎖が広がれば鹿児島へ
熊本での地震によって、その部分の地震エネルギーは解放された。しかし、それは隣の〈地震候補〉との間の留め金が外れたことをも意味するものだ。もし隣の〈地震候補〉が、いまにも地震を起こすだけのエネルギーを蓄えていれば、支えを失って連鎖的に地震が発生する可能性がある。
こうして、熊本に続き阿蘇山の下で、さらに大分でと地震が続いた。東へ連鎖が続けば愛媛県沖の瀬戸内海、西南へ連鎖が広がれば鹿児島に入る。ともに原発が所在する地点だ。この連鎖が連続するかどうかというのは、隣の〈地震候補〉にどのくらいのエネルギーが蓄えられているかによる。しかし、現在の科学ではその量を確認することができない。
◆原子力発電所の安全基準値
──益城町で1580ガル、原発設計基準は最大500~700ガル
内陸直下型地震の特徴として、地面の〈加速度〉が大きいことを挙げなければならない。地震が発生した際建物にかかる力は、そのものの重さに〈加速度〉をかけることで算出することができる。加速度が大きいほど、そのものに大きな力がかかり、場合によっては倒壊したり破損したりする。
今回の地震では、益城町で1580ガル(ガルは加速度を表す単位。詳細な説明は割愛する)という加速度を記録した。かつては“980ガルを超える地震動はあり得ない”とされていたが、阪神淡路大震災以後、多くの観測機が設置されたことにより今まで見落とされていた大きな値が記録されるようになった。
各地の原子力発電所は、ここまで大きな加速度を想定していない。いままでの設計基準では、せいぜい500~700ガルを最大として想定しているため、それを超える地震動を受けたときに発電所がどうなるかということは分からない。
以上、配布されたレジュメをベースに講義の内容をまとめてみた。生活を支える知識として役立てていただければ幸いだ。論調が個人的情緒に拠ったものであると、趣旨が見失われてしまう。こうした態度を反省させるような島村氏の淡々とした語り口(あまりに淡々としているために聴講者の笑いを誘うこともしばしば)に、非常な説得力を感じたものである。
▼大宮浩平[撮影・文]
1986年東京生まれ。写真家。
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◎5/26(木)「地震と原発」連続講座(第2回) 広瀬 隆さん
「熊本大地震と原発…九州電力川内原発大丈夫?」
日時:5月26日(木)18:30開場、19時より21時 会場:「スペースたんぽぽ」(ダイナミックビル4F)
問い合わせ:たんぽぽ舎 TEL 03-3238-9035 参加費:800円
◎5/28(土)槌田ゼミ第18回原発基本講座 槌田 敦さん
「4/25四国電力との公開ヒアリングの報告と今後の方針」
日時:5月28日(土)14時より16時 会場:「スペースたんぽぽ」(ダイナミックビル4F) 参加費:800円
◎5/29(日)学習会 浅野健一さん(元共同通信記者)
「日本でえん罪がなぜ多発するか
日本の司法には正義を実現する構えがない、日本には三権分立がない、裁判官・弁護士・検察官は三位一体」
日時:5月29日(日)14時より16時 会場:「スペースたんぽぽ」(ダイナミックビル4F) 参加費:800円