2016年3月12日、3・11甲状腺がん家族の会が設立された。設立時の正会員は5家族7人、代表世話人には河合弘之さん(弁護士)と千葉親子さん(元会津坂下町議)が就いた。これまでほとんどタブー視されてきた福島での被曝被害の核心を伝える貴重な設立会見を7回に分けて詳報する。第3回は内科医で同会世話人の牛山元美さんの談話。
◆福島原発事故以前、小児甲状腺がんは非常に少なかった
私は神奈川県内の病院に内科医として勤務しております。福島原発事故当時は、被曝を心配して、当時、小中学生だった二人の子供を九州の親せき宅に避難させました。事故後は、福島県内や関東で健康相談会や保養に参加し、子供を持つ親たちの不安を直に耳にしてきました。また、福島県内の医師不足を知り、2012年11月から福島県内の病院で、月一回の当直支援を始めました。
福島県の健康調査により、原発事故当時、18歳以下だった子供たちに甲状腺がんが多発していることが明らかになっています。この5年間で、県が把握しているだけでも既に116人が手術を受けています。甲状腺がんは、進行度も遅く命に関わることはない、悪性度も低い癌だといわれていますが、実はそれは中年以降の女性にみられる成人の甲状腺がんについての話です。2011年の福島原発事故以前、小児甲状腺がんは非常に少なく、診療経験のある医師は、日本の甲状腺専門医の中でも非常にまれでした。
◆スクリーニング効果、過剰診断とはそぐわない事実
チェルノブイリ原発事故後に、7000例増えたとされる小児甲状腺がんは、腫瘍が小さくてもリンパ節や肺に転移を引き起こしやすく進行しやすいといわれています。今回、ほとんどの方を手術された福島県立医大の報告を見ると、手術を受けた方の90%以上は、腫瘍の大きさが既に手術適応基準を超えていたり、または小さくても、リンパ節転移や肺転移を引き起こしていたり、甲状腺の外に拡がり進行していたものであったり、すぐに手術することができて良かったという症例でした。
これは、たくさん甲状腺がんが見つかったのは検診のせいだ。スクリーニング効果だ、それは過剰診断だという意見とはそぐわない事実です。では、なぜこれだけの甲状腺がんが福島の子供たちから見つかったのか。未だ全く解明されていません。放射線の影響かどうかも、県の検討委委員会の中ですら意見の相違があり「(原発事故の)影響とは考えにくい」とか、「(原発事故の)影響を否定するものではない」とか、非常にあいまいな表現がされています。
◆相談に応じる医療機関が福島県内にはほとんどない
患者さんやご家族は、今回、診断された甲状腺がんがなぜ起こったのか、とても悩んでおられます。お母さまは、すぐにおっしゃるのですが、「あの頃の食事が悪かったからなのでしょうか?」「放射線汚染を気にせず食べ物を食べさせたから、だから癌なったのでしょうか?」「外で遊ばせたのがいけなかったのか…」高校生の子は、「自転車で通学したからいけなかったのか」、皆さん自分を責めています。また、遺伝的なものなのか。そんな風に本人も、親御さんも、自分がいけなかったのかと、とても悩んでおられます。
実は手術を受けて、その後再発された方も複数おられます。再手術前、治療方法についてセカンドオピニオンを気にする方も当然いらっしゃるわけですが、福島県内では「それは県立医大に行くように」と言われ相談に応じる医療機関もほとんどなく、実現が困難な状態です。より良い医療を受けたいという、患者として、またその親として当然の願いを実現させたいと思います。担当医師とのコミュニケーションもうまく取れていない、それをうまく取れるようにお手伝いもしたいと思っております。
◆福島の健康相談会では放射能という言葉すら口にしにくくなっている
甲状腺がんというものについて、忌憚のない意見の交換や適切な情報の共有をし、出来る限り、その不安を取り除いてあげたい。また、日常生活でも健康に関する疑問に気軽に答え、より安心でき、健康的な生活を楽しめるようサポートをしたいと思っております。
また、叶えばですが、患者さんがご自身の経験を活かせるよう、例えば手術の経験を、また新たに患者さんになった他の方に伝えることができる、そんな手助けもしていきたいと思っております。最近では、福島に健康相談会に行っても放射能という言葉すら口にしずらくなっています。また、福島県内では、放射能という問題は過去の話になっています。
◆問題を解決できるよう力を貸してください
そんな今、臨床医としてやれること、やるべきことがあるのではないかと思っております。私は原発事故当時、ちょうど18歳以下であった子供を関東で育てている母親でもあります。また、病気を抱えている患者さんの日常生活への助言や様々な不安を軽減することが主な任務の一つである内科の臨床医でもあります。その様なことを使命感に持ち甲状腺がん家族会の世話人になりました。
甲状腺外科医たちが、今回、家族会のアドバイザーになってくれています。甲状腺がんという病気になっても、より良い治療を受け、不安を減らし、安心して幸せに生活できるように医師として力を尽くしたいと思っております。どうぞ、甲状腺がんと診断された福島の子供さんやご家族の方が一人でも多く、この家族会に参加され、つながり、力を合わせ、問題を解決できるよう力を貸してください。以上になります。ありがとうございました。
◎[動画]20160312甲状腺がん患者家族会設立記者会見(UPLAN三輪祐児さん公開)
▼白田夏彦[取材・構成]
学生時代に山谷、沖縄などの市民運動を訪問。その後、9・11同時多発テロ事件をきっかけにパレスチナ問題の取材を開始。第二次インティファーダ以降、当地で起こった非暴力直接行動を取材。以降、反戦や脱原発などの市民運動を中心に取材。現在、業界紙記者。