展開に期待がかかった不安のない序盤戦

ローキックを受け続け、テヨンの踏み込みが弱まる展開へ

「勝ったなんて言えないです」テヨンが答えた第一声。
序盤から中盤にかけて重い蹴りが交差する攻防から、そのあとテヨンがどう捌くか、テヨンのローキックがマシアスの動きを止められるか、パンチの連打でKOに導くのか、あるいは反撃を許さず、どう盛り上げるか期待の展開の中、テヨンの蹴り、パンチを受けてもマシアスが勢い衰えませんでした。

逆にマシアスのローキックがテヨンを苦しめていき、テヨンが劣勢に陥るほどの差はないが、マシアスが踏ん張った印象が残る展開でラストラウンドが終了。その直後、テヨンが足を引きずるような効いた様子を見せてしまいました。終了後の動きは採点に関係ないですが、悪い印象を与えかねないので気をつけるべきでしょう。

息子をリング上で抱き上げる撮影も増えた近年、責任感も増す一生もののツーショット

ラウンドマストシステムならテヨンが失ったラウンドは大きかったかもしれない、マシアスの踏ん張りが目立ったところです。テヨンが印象点を掴む連打が勝ちを導いたか、際どい判定でした。

「マシアスに申し訳ない、結果的に自分がベルトを巻いていますが、本当の勝者はマシアスです」と続いて語り、反省は残るテヨンですが、試合は観る側が力こもる見応えがある好ファイトとなりました(マシアス・セブン・ムエタイは同組織元スーパーフェザー級チャンピオン)。

TOMONORIは勝ちに徹し、無理せず距離をとって、シティバの攻めを空回りさせ、シティバに指導しているかのような風にも見える技術の差を見せ、2~3ポイントながらもっと大差を付けたような展開。過去2度失敗したインターナショナル王座挑戦に、「WBCのベルトはどうしても欲しかった」というモチベーションで38歳まで頑張ってきたTOMONORI、もう一段階上のベルトへ踏ん張れるでしょうか。

MOMOTAROは変則的に先手を打つ突進力で完全に主導権を掴み、正攻法で反撃する一戸は後手に回り、巻き返せず。MOMOTAROは初防衛。

3年前に3-0で白神を退けている宮越宗一郎は、互いに地位を上げ、インターナショナル王座を持つ宮越が一歩上位のWBC傘下のチャンピオンの肩書きを持つ同士で再戦。1ラウンドの白神のパンチのラッシュに宮越は一旦仰け反り後退するも、立て直して徐々に打ち合いの強さを発揮して密度濃い展開の中、僅差の判定勝利。

TOMONORIの左フックでシティバがこのあとダウン

◎NJKF 2016.5th / 7月23日(日)ディファ有明17:30~20:55
 主催:NJKF / 認定:WBCムエタイ日本実行委員会

◆WBCムエタイ・インターナショナル・スーパーライト級王座決定戦 5回戦

日本同級C.テヨン(中川勝志/キング/22歳/63.5kg)
.VS
マシアス・セブン・ムエタイ(イタリア/23歳/63.45kg)
勝者:テヨン / 2-1
(主審 篠原弘樹 / 少白竜 49-48. 松田 49-48. 小林 48-49)

先手を打って多彩に攻めるベテランの余裕

◆WBCムエタイ・インターナショナル・フライ級王座決定戦 5回戦

日本同級C.TOMONORI(佐藤友則/OGUNI/38歳/50.7kg)
.VS
シャリー・シティバ(ベラルーシ/34歳/50.55kg)
勝者:TOMONORI / 3-0
(主審 小林利典 / 少白竜 49-47. 松田 49-47. 篠原 50-47)

欲しかったWBCのベルトを巻いて涙。まだ上があるWBCのベルト

◆WBCムエタイ日本フェザー級タイトルマッチ 5回戦

チャンピオン.MOMOTARO(OGUNI/26歳/57.1kg)
.VS
WPMF世界Fe級C.一戸総太(WSR・F三ノ輪/29歳/57.0kg)
勝者:MOMOTARO / 3-0
(主審 少白竜 / 小林 50-48. 松田 49-48. 篠原 50-47)

◆WBCムエタイ70.0kg契約3回戦

IN・Sウェルター級C.宮越宗一郎(拳粋会/29歳/70.0kg)
.VS
日本同級C.白神武央(拳之会/28歳/70.0kg)
勝者:宮越宗一郎 / 2-0
(主審 松田利彦 / 小林 29-28. 少白竜 29-29. 篠原 29-28)

MOMOTAROがムエタイ修行の成果を発揮。一戸のリズムを狂わせた

◆WBCムエタイ日本バンタム級挑戦者決定戦 5回戦

1位.前田浩喜(CORE/35歳/53.5kg)
.VS
WPMF世界B級暫定C.林敬明(TSK Japan/32歳/53.45kg)
勝者:林敬明 / KO 1R 3:06 / 主審 篠原弘樹

◆WBCムエタイ日本フライ級王座決定トーナメント準決勝 3回戦

2位.大槻直輝(OGUNI/33歳/50.6kg)
.VS
3位.ローズ達也(ワイルドシーサー沖縄/36歳/50.8kg)
勝者:ローズ達也 / 0-3
(主審 小林利典 / 篠原 27-30. 少白竜 27-29. 松田 27-30)

◆ブランドが光るWBCベルト

WBCのベルトは確かにカッコいいですね。このベルトを目指す選手が増えているのも確かな現象です。価値と共にカッコいいのは他にもありますが、やっぱりWBCのブランドが光るのでしょうか。

初防衛を果たし、更なる上を目指すMOMOTARO、WBC認定式での顔ぶれ

午前から第2回WBCムエタイジュニアリーグが長時間に渡って行なわれた関係から予定通りですが、夕方の部のプロ部門は全6試合、計26ラウンドの長さ。それでも3時間半近く掛かりましたが、全試合の印象が記憶に残る、纏まりとして良い感じの長さでした。とにかくムエタイとして勢力を増した興行が増えています。世界王座となると曖昧な地位となってしまう業界ですが、現在の努力が将来に繋がるのは確かなところ、どの組織が生き残っていくかは誰にもわかりません。

テヨンはNJKF、WBCムエタイ圏内で順調に国内王座を制し、今回インターナショナル王座挑戦となりました。ヨーロッパ強豪という選手を観る度、強豪はタイ選手だけではないことを実感しますが、落胆している場合ではなく、「防衛してこそチャンピオン」を心に留め、次の防衛戦で名誉挽回へ結果を残して欲しいところです。

過去には内容に納得いかなくて、レフェリーの勝者コールを受けない、チャンピオンベルトを巻こうとしない選手もいました。勝者を支持したのは審判で、公正な競技として、観衆の前でその支持を受けてリングを降りなければなりません。そこで礼儀正しく認定セレモニーを受け、チャンピオンベルトを巻いたテヨンは当たり前ながら、立派でカッコよかったと思います。

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」