ジュニアキックで経験を積んだ15歳の少年が世界王座に挑んだのはWMCの最軽量級ながら今後の成長に繋がる節目の挑戦でした。

◎ムエローク 2016.4th
11月13日(日) 新宿フェイス17:30~20:40  主催:尚武会 / 認定:WMC

◆WMC世界ピン級タイトルマッチ 5回戦(100LBS=45.359kg)

前チャンピオン.シューサップ・トー・イッティポーン(17歳/タイ/47.1→46.7kg)
VS
挑戦者.吉成名高(エイワスポーツ/アマチュア17冠王/45.1kg)
勝者:シューサップ / 判定3-0
主審:チャンデー・ソー・パランタレー 副審:シンカーオ50-47. ノッパデーソン50-47. ナルンチョン50-47

シューサップは計量失格でこの時点で“前チャンピオン”となります。こういう事態がここ数年増えたのは、「日本での試合を軽く見ている」という意見をよく聞きます。あえて擁護するなら、17歳という若さで外国に出向き、体の成長や気候の変化に対応できなかったこともあるかと思いますが、それでも1.3kgオーバーはデカ過ぎですね。この辺の対処はプロボクシングと同じ、吉成名高には挑戦者として、勝利した場合のみチャンピオンとなり、シューサップが勝っても王座は空位となります。

15歳での世界戦は力大きく及ばずで、ジュニアキックで力を付けていても、やはり人生経験がまだ15年というところも成人との認識の違いがあったでしょう。シューサップも17歳で若さで似たところあれど、ムエタイそのものの経験は豊富。やはり後半にピッチを上げてきたシューサップは後半、首相撲技で繋ぐ膝蹴りや崩しで見た目にも大差が付いた印象がありました。吉成はアマチュアといえど数々の王座制覇してきた自信で、試合終了まで視線はしっかり強気な表情は変わらず、崩されても立ち上がる諦めない挑戦でした。

吉成名高vsシューサップ。吉成のジュニアキック出身の技量はしっかり披露。今後に期待

◆セミファイナル 63.0kg契約 5回戦

DAIJU(尚武会/62.9kg)vsNKBライト級チャンピオン.大和知也(SQUEA-UP/63.0kg)
勝者:DAIJU / TKO 4R 1:40 / タオル投入による棄権
主審:ナルンチョン・ギャットニワット

NKBから大和知也が出場。戦う相手の範囲が広まった中で、より活きのいい試合を続けているのも明るい事実です。

DAIJI(だいじゅ)は大和知也からハイキックでダウンを奪って攻勢を続けTKO勝利。大和は第4ラウンド途中から古傷の左腕が動かしにくい状態で劣勢の中、タオルが投入。6月の試合での負傷箇所を再び傷めた様子。序盤はスピーディーなパンチとローキックで優勢気味だった大和知也にとっては悔しい負傷。来年の奮起に期待したいところです。

大和知也(右)の得意の右ストレートがDAIJUを捉えるが、逆転は難しい段階だった

  
◎M-ONE 2016 4th(FINAL)
11月23日(祝・水)ディファ有明16:00~20:30  主催:ウィラサクレック・フェアテックス / 認定:WPMF

会場前には建物上部からの、10月13日に崩御されたプミポン国王画の肖像画と、館内にも肖像画と記帳スペース、喪に服す黒の正装のタイ人関係者が目立ち、セレモニーでは王室唱歌と98秒間の黙祷も捧げられ、タイの国民性が現れたセレモニーでした。

石井達也は日本タイトル返上後、なかなかビッグマッチのチャンスが回って来ない中、今回M-ONEからWPMF世界戦出場のチャンスが舞い込むも、ゴンナパーは在日選手として日本人の前に立ちはだかる壁は健在でした。

◆WPMF世界スーパーライト級タイトルマッチ 5回戦

チャンピオン.ゴンナパー・ウィラサクレック(タイ/63.5kg)
VS
石井達也(元・日本ライト級C/藤本/63.5kg)
勝者:ゴンナパー / TKO 4R 1:39 / ドクターの勧告を受入れレフェリーストップ
主審:チャンデー・ソー・パランタレー

毎度のことながらゴンナパーの上下へのパンチとキックの使い分け、その蹴りが重く鋭い。石井の強打が遅れがちになり、その差が大きく見えてしまうが応戦する石井も強い蹴りとパンチを返す中、熟練ゴンナパーのヒジ打ちで切られた額のドクターチェックを3回受けた後、レフェリーストップ。敗北より最後まで戦いたかった表情の悔しい敗戦となりました。

どこを狙うか分からないゴンナパー(左)の蹴りは“ハイ”だった瞬間

切られ、蹴られ、ゴンナパーの上手さが続く中、劣勢の石井はこれでも諦めてはいなかった

高橋一眞(左)と鷹大の強打者の攻防。この後、戦略勝ちの鷹大の攻めが勝る

◆59.0kg契約3回戦(アンダーカードから抜粋)

鷹大(元・WMC世界&WPMF日本SB級C/WSR・F西川口/59.0kg)
VS
NKBフェザー級1位.高橋一眞(真門/58.95kg)
勝者:鷹大 / TKO 3R 2:40 / カウント中のレフェリーストップ
主審:ヌンポントーン・バンコクストアー(現役時名)

こちらもNKBで活躍する高橋三兄弟の長男・一眞の登場。9月14日にKNOCK OUT発表記者会見試合で、森井洋介にパンチで倒されたばかりながら、前回よりは冷静に試合を進め、攻勢もあったものの、再びパンチで2度のダウンを喫してKO負け。鷹大もチャンピオン経験を持つ強者。高橋は経験値上回る相手との試合が続きますが、他団体出場に恵まれた現在、この試練を乗り越えて欲しいところ。短期でのノックアウトの連敗は心身ともに休養も必要です。

日本のトップを争う、終り無きトーナメントが続く中、一歩前進の鷹大の勝利

  
◎NJKF 20周年記念スペシャルマッチ開催!NJKF 2016 7th
11月27日(日)後楽園ホール17:00~21:35
主催:ニュージャパンキックボクシング連盟 / 認定:NJKF、WBCムエタイ日本実行委員会

国内下部王座から段階的に上位を目指さなければならないシステムからWBCムエタイのインターナショナル王座決定戦に挑んだのは同組織日本王座を持つ健太。スウェーデンの強豪、サモン・デッカーは頑丈な体格で怯まず前進する圧力があり、これを崩せずに終る。

◆WBCムエタイ・インターナショナル・ウェルター級王座決定戦 5回戦

健太のハイキックにもたじろがなかったサモン・デッカー

世界12位 健太(日本同組織同級C/29歳/E.S.G/66.68kg)
VS
世界13位 サモン・デッカー(24歳/スウェーデン/66.6kg)
勝者:サモン・デッカー / 判定0-3
主審:多賀谷敏朗  副審:大沢47-49. 水谷48-49. 少白竜48-49

サモン・デッカーはかつてのラモン・デッカー(オランダ)の再来と言われる存在で、ムエタイ修行経験も豊富なファイタータイプの選手。とにかく頑丈な体格で蹴りの威力あり、下がらない圧力に健太は主導権を握れないまま、5ラウンドにはヒジで切られる劣勢が響きました。今後、タイ選手以外の強豪が日本人の前に立ちはだかるのも面白い展開でしょう。

両者ガッチリした体格ながらサモン・デッカーのハイキックに圧力を感じる攻防

◆セミファイナル 62.0kg契約3回戦

宮越慶二郎のハイキックを避ける羅紗陀。この日は宮越の動きが機敏だった

WBCムエタイ・インターナショナル・ライト級チャンピオン.宮越慶二郎(拳粋会/62.0kg)
VS
羅紗陀(元・WBCムエタイ日本SFe級、L級C/キング/61.8kg)
勝者:宮越慶二郎 / 判定3-0
主審:竹村光一  副審:多賀谷30-26. 水谷30-26. 少白竜30-26

NJKF20周記念スペシャルマッチとして組まれたカードでした。羅紗陀は右足腓骨骨折の負傷から5月に2年3ヵ月ぶりに復活。しかし後に腰の状態を悪化させ7月興行は欠場に。今回の半年ぶりとなる復帰第2戦で宮越慶二郎との対戦が実現となりました。

父親が昭和の新格闘術連盟で活躍した内藤武である宮越は、その父譲りの変則気味の動きが活かされた展開。羅紗陀は父親が元・日本ウェルター級チャンピオン.向山鉄也で、その父親譲りの激闘威力が少なかった印象。第1ラウンドにスリップ気味のダウンに加え、第3ラウンドはまともに右ストレートによるダウンを奪った宮越が大差判定で勝利。怪我やブランクの影響がまだ続いている感じもあり、完全復活にはもう少し時間が掛かりそう。宮越はマッチメイクに難航し、来年2月に延期された王座防衛戦を目指します。

逆転を狙う羅紗陀のヒジ打ちは空振りだが、迫力ある攻防

◆取材戦記

三つの興行をまとめると、アンダーカードをほとんど割愛しなくてはならない事態となってしまいました。ひとつずつ興行を拾うとかなり先延ばしになってしまうので、ちょっと纏めることも出てきた最近ですが、格闘技専門サイトでもないので、本来アンダーカードまで拾う必要もないかもしれませんが、融通利く限りは少しでも選手の活躍を、試合結果だけでも世間に出してあげようと思う次第です。

その試合結果も絶対に間違えてはいけないプレッシャーもあります。自分の書き留めた記録だけで判断しないことで勝者敗者を間違えないこと、その為にも公式記録の開示を各興行ごとにお願いしている場合があります。この点もまたひとつのテーマとして今後、書き上げたいと思います。

[撮影・文]堀田春樹

▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

タブーなきスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2017年1月号!

『反差別と暴力の正体――暴力カルト化したカウンター-しばき隊の実態』