今回の取材は東京都内からワゴンでコンサート前日に千葉刑務所で設営と音合わせを行い、同日の夕食もご一緒させて頂いた。お二人はアルコールは嗜む程度にしか召し上がらないが、食欲は旺盛であった。
TVのインタビューや記者会見で2日の間に彼女たちが何度も強調していた言葉は、
「プリズンコンサートをするからには、『良い心のスイッチを押す』ことをしないと、やっている意味がないなと思いながらいつもステージに上がっています。ステージに上がるからには何かが皆さんの心にとどまって、社会に出る良いきっかけになるものをやらなければ意味はないなとずっと考えています」(Megumiさん)
「規則の中で思いを伝えていかないといけないので1時間ですけどエネルギーは凄く使うんですね。だから終わったあとは、いい意味でかなりの疲労感がありますね」(Manamiさん)
「言葉は出せないので、表情からよみとるしかないんですけど皆さんの表情の中からその人の人生を垣間見ることがあって、貴重な体験をさせて頂いているんだなぁと感謝の気持ちがあります」(Manamiさん)
「プリズンコンサートは心のキャッチボールやっている面があるので、皆さんの表情を見ないと、どういう言葉をかけたらいいのかわからないんです。最初の頃は皆さんも緊張感があるから、こちらも固くなっていたんです。でも回数を重ねるうちに皆さんの表情を読み取ることができるようになって、こちらにも余裕が出てきたのでコンサートが終わる頃には皆さんの表情が変わるのが感じられるようになりました」(Manamiさん)
「ステージに立っていると、そこから話しかけただけでも『上から目線』な距離感になるんです。それを無くすためにコンサートの中だけでも同じ気持ちになれるように心がけています」(Manamiさん)
ステージ上の二人は歌うだけでなく、語りも交え、しかも刑務所ならではの用語(報奨金、領置金、願箋)を交えたトークで場を和ませる。そして必ず鹿砦社から出版された『逢えたらいいな』に収められた、受刑者の家族からのメッセージが読み上げられる。内容から察するに、かなり重い罪を犯した受刑者の娘さんが初めて父親の面会に刑務所を訪れた際のエピソードだ。このエピソードを通じて受刑者の皆さんに、社会へ出ることの心の準備や、再犯を犯さない気持ちを喚起したいとお二人は考えているそうだ。
「400回は長かったような気もしますし、あっという間だった気もします。最初は30回が目標だったんですが、それが50回、100回となって。でも初期から回数だけを目標にはしていなかったのが良かったのかと思います」(Manami)
「はじめて1年くらいした時に、私たちの第一回のコンサートを見てくださった方が、出所されて、手紙を持って見に来てくれたんです。それでわざわざ会いに来てくれる下さったことで、ただ楽しませるだけじゃだめだと思って、メッセージをより込めるようになりました。感想文を頂きますが、それ以外に被害者の方からもメッセージを頂くことがあります。その中で私たちも色々考えて伝えるメッセージどうしたらいいか、追っかけて来ました」(Megumi)
Manamiさんは刑務所の施設や建物に詳しい。「奈良少刑(少年刑務所)は立派な建物だけど、来年で終わりになるんですよね」、「ある県の刑務所は署長さんがとても優しい方でしたが、施設管理が緩くって、これで大丈夫ですか?とお話していたら、そのあと脱走がおこっちゃって……。ちょっと気の毒でした」。
膨大な訪問経験がそうさせるのか、一目見て施設の弱点を見抜くのだからManamiさんの眼力は専門家並だといえよう。
Megumiさんはハードよりも人間や各地で起こったことを詳細に記憶(記録も)している。刑務所内の人間関係や雰囲気についての洞察が深く、Paix2二人の記憶と印象を合体させると、全国の刑務所像についての立派な論評ができあがる。事実刑務所に勤務する方、あるいは法務省関係者でも全国全ての刑務所への訪問経験のある方は彼女らをおいてはいないだろう。
今回の取材を通して印象的だったのは、彼女たちのハードワークと、ハートワークだ。限られた時間と規則の中に彼女たちが重ねる思いを詰め込む作業は、常人にはまねることのできない「荒業」ですらある。
そんな緊張感の逆にこんな本音があった。コンサート前日設営を終えて、音合わせをするお二人を、お手伝いの刑務官の方々が体を揺らしながら見ていた。
「こういういイベントは貴重でしょうか」と聞くと、
「いやー自分は大ファンでしてね。楽しみで楽しみで(この間表情崩れっぱなし)。2年ぶりに逢えて本当に嬉しいんですよ。自分は刑務官向いてないのかもしれません」。
「『受刑者のアイドル』と言われていますけど刑務官にはファンがたくさんいます『刑務所のアイドル』です」
私たちにもめったに見せない刑務官の方々の笑顔は、底抜けに明るかった。
コンサートを終え、ワゴンに乗り込み東京に向かって出発したのは13:00をまわっていた。当然皆さんお腹が空いている。千葉刑務所近くのファミリーレストランで昼食をとることになった。食事をはじめてほどなくManamiさんが切り出した「終わったから言いますけど、昨夜から熱があって、今朝も38度くらいあったんです」、「え!」と片山マネージャーと私は声を挙げた。
しかし、さすがというべきか、看護師の経験と資格を持つMegumiさんは常備している薬の中から適切な薬をManamiさんに朝服用させていたそうだ。「飲んだのが8時だから、そろそろ切れてくる時間だね。一応風邪薬も飲んでおいて」と漢方薬を手渡す。食後ぐったりするManamiさんの姿を見て「インフルエンザじゃないでしょう。インフルエンザならこんなに落ち着いてないはずだから」。見事なチームワークだ。
12月13日17:00から法務大臣による表彰が行われた。大臣室で金田勝年法相は彼女らの到着を待つ間に「『元気出せよ』は何年の発売だったっけ?」と、法務省職員に問いかける。「大臣お詳しいですね」と声をかけると、「代表曲だから知っとかないと失礼にあたるからね」とかなり詳しいご様子だ。
職員の方が彼女らの到着まじかになると、インストロメンタル版の「元気出せよ」を小音量で流し始めた。お堅い印象の法務省の表彰式にしては、粋な優しい心づかいだ。
正装したPaix2のお二人が大臣室に入室して早速表彰が行われた。大臣表彰などそうそう経験するものではないだろうが、実はPaix2にとってはこれが3回目でお二人も堂々とした様子だった。
Paix2の前人未踏の旅はまだまだ続く。「プリズンコンサート」から「矯正」の大切さへの周知をも視野に入れた活動は、大きな歓声や派手な観客のアクションのない中、受刑者の心の中に輝きをともし、感涙を誘う。地道な偉業には頭の下がる思いしかない。
▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。