年賀状の習慣を止めて10年以上になるが、それでも頂ける年賀状だけには返信する。筆不精で手書きの文字は下手くそな私には、パソコンとプリンターが実にありがたい。のだけれども、年賀状作成に限らず、最近パソコンの作動がどうもおかしい。当初のWindows8は起動も早く操作性に不具合はなかったが、抵抗しても抵抗しても画面に現れる「Windows10」へのバージョンアップ画面に毎回拒否をしていたが、いつの間にか勝手にWindows10へOSが切り替えられてしまった。問題はそれから生じた。
◆「押し付け」アップデートの不快
要らないから拒否しているのに無理やりの「押し付け」に、まず不快な思いをさせられたが、不快な思いにとどまらず、不具合まで不随して押し付けられるはめになったから始末におえない。まず起動が遅い。といっても何分もかかるわけではないから、これは我慢すれば実用問題ない範囲ではあるが、以前より「のろくなった」のは気分がよいものではない。そして困ったことにWordなどの初歩的なソフト利用中に、しばしばフリーズ(画面が白くなり固まる)が発生する。毎日のように駄文を綴っているが、こんな現象はWindows10へ「強制連行」されるまでは経験がなかった。コンピューターに詳しい方に話を聞くと、どうやらこの現象は私に限ったことではなく、多くの人が同様の不具合に手間を割かれ迷惑しているとのことだ。
面倒くさいし、細かいことは解らない。そもそも理解しようという意欲がないから、私にとってパソコンはもう進歩して頂かなくて結構だ。いや私だけではなく、人類全体にとってもこれ以上の情報処理技術進歩は幸せをもたらすものではないだろう。ソフト会社の方々は新たなソフトやOSを開発しないと商売にならないのだろうけども、もうこれ以上は要らない。人工知能も予想変換も音声入力も、便利かもわからないけれども、つまるところ人間が体と頭を使って行うべき動作や思考をアウトソーシングしているわけであり、そんなことを当たり前に続けていればますます、生物として人間の感覚や行動域、思考が退行してゆくのではないか。
◆利便性や幸福をもたらすために科学技術が常に進歩するわけではない
利便性や幸福をもたらすために科学技術が常に進歩するわけではない。科学技術の進歩は無思想であり、利益と打算、直近の成果が開発者にとっては尺度である。であるゆえに、世紀の大開発ともてはやされる「iPS万能細胞」にも私は疑念を持つ。困難な病に日々苦しむ方々が新薬や「iPS万能細胞」に期待を寄せておられることを承知の上でも疑念は消せない。
万能細胞と遺伝子組み換え技術を軍事的な視点から合体させたらどうなるだろうか。これは夢想ではない。第二次大戦中にヒットラーは北方優越民族(純血のゲルマン人)を創出するために、体格、外見がゲルマン民族として優れた若者を秘密裏に交接させ、「スーパーゲルマン」創出を実際に行っていた。
敗戦によりその目論見は短期間で終了したけれども、今日の為政者の立場で試考してみればどうだろうか。科学技術自体は無思想だが、その開発に関わる人間には思想がある。世界から注目を集める山中伸弥京都大学iPS細胞研究所所長が月刊『HANADA』に登場し、櫻井よしこに歴史を尋ねている。歴史を尋ねる相手がなぜ、極端な歴史修正主義者の櫻井よしこなのか。山中氏はその行為をなぜ全く躊躇していないのか。私には合点がいく。
◆テクノロジー依拠は最小限にとどめる
パソコン、スマートフォン依存による退行は既に散見される。高校の英語の授業では電子辞書が当たり前のように使われているし、タブレットやスマートフォンに向かって「この近くで美味しいランチ」などと急に横で声を出されると、びっくりすることがある。電車の中で携帯電話の通話をするな、というのがこの国の標準的なマナーとされているけれども、小声ならべつに構わないんじゃないか。大声で井戸端会議をやるおばさんたちの規制の方が優先順位は先だと思うが、間違いか。
「近くの美味しいランチ」を探すのはかまわないが、それくらいはタイプしてもたかが数文字じゃないか。音声入力に慣れた方にとっては、たかが数文字のタイピングが面倒なのだろうか。私にはよくわからないけれども、利便性をまとった人間の機能低下を生じさせるテクノロジーの接近にはかなりの注意が必要だと感じさせられる。
と言いながら上記主張とは正反対に、年賀状の作成をパソコンに委ねる私が、何を言っても説得力は無きに等しいか。今年は老化を痛感する身体を、それでも最大限に使ってゆかなければならない、そうでなければ「顰蹙を買う文章を書け!(松岡氏から賜った私の使命)」すら果たせなくなるかもしれない。吠え続けるためにテクノロジー依拠は最小限にとどめようと思う。
▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。