2016年は原発広告が完全に復活し、しかも新たなプロパガンダ手法まで展開された年だった。年末にはもんじゅの廃炉決定という核燃サイクルの歴史的転換が起きたものの、原発ムラの野望はいささかも揺らいではいない。再び国民を騙そうと、陳腐な広告出稿を全国で展開中である。今回はその確認をしておこう。

◆青森、新潟、福井、静岡──原発広告を定期・不定期で出稿している4地域

2016年6月14日付東奥日報記事

現在、原発広告を定期・不定期で出稿しているのは以下の地域だ。

青森県  日本原燃を中心とした新聞・雑誌広告、テレビ・ラジオCM
新潟県  東電による新聞・雑誌広告、テレビ・ラジオCM
福井県  関電による新聞広告、シンポジウム実施
静岡県  中部電力による新聞広告、テレビ・ラジオCM
 
このほかの地域でも散発的な広告出稿はあるが、継続的な出稿が確認できているのは上記の県になる。

2017年1月5日付日本経済新聞記事

◆東奥日報──青森県や原燃と二人三脚で原発推進

各県の特徴を簡単に説明すると、青森県の東奥日報は311以前と全く変わらず、原発推進を社是としているとしか思えない新聞社で、青森県や原燃と二人三脚で原発広告や推進記事を掲載し続けている。

福井新聞と共に311以前から原子力産業協会(原産協)に加盟しており、ある意味全く原発推進姿勢のぶれない新聞である。広告だけでなく、女性読者限定の勉強会と称して原発関連施設見学会を定期的に開くなど、ヨイショ的なPR活動も積極的に行っている。

2016年2月11日新潟日報に掲載された東京電力15段広告

◆新潟日報──東電HPから消された15段広告

東電は現在、TEPCOの社名でインターネットのバナー広告などを打つ以外は、新潟県内に限って新聞・雑誌、テレビ・ラジオ広告を展開している。東電黒字化の切り札と言われる柏崎刈羽原発の再稼働を狙っているからだが、昨年10月に実施された知事選で、再稼働に反対の米山隆一氏が当選したことによりその可能性はかなり遠のいた。

それでもしぶとく広告出稿を続けているのだが、これに対しては県民及び福島県からの避難者からの強い抗議に晒されている。多くの人々から広告出稿中止を求められてもやめないのだから、東電という集団の傲慢さが非常に如実に表れている。

しかし、彼ら(新潟本社)のホームページを見ると、面白いことに気づく。

このページには過去の広告が全て掲載されているが、昨年2月11日に新潟日報に掲載した15段広告(別添)だけが欠けているのだ(出稿直後は掲載されていた)。福島第一原発の事故発生を防ぐことが出来なかった企業が『更なる「安全」を胸に』というキャッチコピーを使うのはおかしい、と私が『NO NUKES voice』はじめあちこちのメディアで批判し、東京新聞や朝日新聞でも記事掲載されたから、あまりに体裁が悪くて削除したのではないかと思われる。連中もある程度は批判を気にしているということだろう。

2017年1月5日付福井新聞記事

◆福井新聞──関電、原研、文科省と共犯する原発翼賛キャンペーン

福井県では関電が散発的に広告出稿しているが、前回も報告したように、原発翼賛シンポジウムなども積極的に行っている。それを福井新聞が紙面で紹介するのだから、同社も立派な共犯である。

そういえば、昨年末に廃止が決まったもんじゅの運営元である原研や文科省は、運転停止処分中で廃止がほぼ決定的だった2015年も、「改革の総仕上げに向けて」と題する15段の新聞広告を福井新聞に数度掲載していた。だが運転停止処分を平然と「改革」という言葉に置き換える鉄面皮でも、廃止を免れることは出来なかった。

中部電力ホームページより

◆静岡新聞──浜岡原発再稼働を目指す中部電力の広告出稿額は年間1億円超

そして昨年、原発広告の出稿が全国で一番多かったのは、静岡の浜岡原発再稼働を目指す中部電力である。主に静岡新聞への15段や7段広告シリーズの掲載、テレビ・ラジオCMの実施などで非常に目立っていた。もちろん、シンポジウムなどの実施にも余念がない。静岡新聞への出稿金額は年間1億円を超えていると思われ、同社にとっては大変有難い広告主になっている。

実際に静岡新聞は、東海地震や南海トラフ地震関連の記事は頻繁に載せるものの、最大の懸念材料である浜岡原発については事実報道のみで批判的な記事はほとんど載せていない。つまり中部電の広告掲載は、相手の批判力を削ぐ役目を立派に果たしているのだ。

東京電力ホームページより

◆「電力自由化」広告で巻き返しを図る電力会社の地元紙への「賄賂」

上記にあげたように、日本全国の原発所在地で原発広告は復活しているものの、現在その頻度は311に比べて少ない。しかし、実は隠れた懸念材料が他にある。昨年の電力自由化を口実に、電力各社が広告活動を活発化させているのだ。つまり、原発をテーマにした広告は少ないが、電力自由化がテーマの広告は激増している。そうすることによって、またもや「広告費」と称する「賄賂」が堂々と電力会社から各地域のメディアに流れる図式が復活しているのだ。

電力会社がメディアに大量の広告費を払えば、原発がテーマであろうがなかろうが「優良スポンサー様」となり、そこから出るカネを失いたくないメディアはまたぞろ311以前のように、電力会社に不利な報道を自粛するようになる恐れがある。今年も各地の原発広告や電力会社の広告展開を厳しくウオッチしていきたい。

◎[参考動画]「記憶すべき年となる」東電・数土会長が年頭挨拶(2017年1月4日ANNnewsCH)

 

▼本間龍(ほんま りゅう)
1962年生まれ。著述家。博報堂で約18年間営業を担当し2006年に退職。著書に『原発プロパガンダ』(岩波新書2016年)『原発広告』(亜紀書房2013年)『電通と原発報道』(亜紀書房2012年)など。2015年2月より鹿砦社の脱原発雑誌『NO NUKES voice』にて「原発プロパガンダとは何か?」を連載中。

タブーなきスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2017年2月号

『NO NUKES voice』第10号本間龍さん連載「原発プロパガンダとは何か?」新潟知事選挙と新潟日報の検証!