2月初頭、防衛省は導入予定の戦闘機、ロッキード・マーチンF35ライトニング2戦闘機の価格を当初の160億円から一機当たり6億円安く購入することになった、と発表した。第2ロット、第3ロットが低価格化することはあるが、すでに契約を終えた戦闘機が納入前に減額するのは空前の出来事である。

背後にはトランプ大統領がメーカー対して「F35は高すぎる」とクレームをつけたからともされている。アメリカでは大統領の指示を受けて米軍に提供する値段を下げた実績もあり、日本にも波及した形だ。


◎[参考動画]航空自衛隊F-35戦闘機・初号機の初飛行映像(USA Military Channel – 2016/09/30公開)

しかし、ことはそう簡単ではないと軍事ジャーナリストは言う。

「F35の日本への提供価格が異常に高いのは事実なのですが、それ以上にアメリカは自衛隊の『アメリカ機離れ』を嫌ったのではないでしょうか。日本がF35を購入すると決めたのは2011年でした。航空自衛隊は戦闘機としてF4ファントム、F15イーグル、日米共同開発のF2の3機種を運用しています。このうち、F4はベトナム戦闘時の機体でそろそろ交換しなければならない。F4の代替として、また場合によってはF15の一部と交替する戦闘機としてF35が採用されたわけです。ところが、実用化は遅れに遅れ、日本への第1号機の納入はいまだに実現していません。しかも、当初100億円程度と見込まれていたものが、160億円に膨れ上がる始末。採用時に防衛省はいくつかの機種を選んでコンペを行うのです、F35はコンペの候補にすら入っていなかった。というのももともとF35はアメリカが中心になってイギリス、オランダ、カナダ、トルコ、オーストラリア、ノルウェー、デンマークがスポンサーとなって開発していたんです。もし、日本がF35を買うとしても、完成機を受け取るのは10年以上先になる。政府としてはそんなに待てない、という判断があったわけです。しかも、当時F35はまだ不完全で日本としてはアメリカ製のF22ラプターという戦闘機を第一候補として考えていたのです。ところがアメリカはF22は新鋭機で海外には出せないとして代替機を提案してきた。中にはF/A18スーパーホーネットを推すバカバカしい提案もあったぐらいです。F/A18は、自衛隊がF15を採用した時に提案されて不採用になった機体です。日本もなめられたものです」

かなりアメリカ外交が脆弱な姿勢が見え隠れする。この国の首相は、トランプが大統領になる直前、急遽渡米して、「娘さんのピコ太郎動画を見た」とごまをするていたらくだ。兵器の輸入についての弱腰も推してしるべしだ。

「しかも、F35のような戦闘機は自衛隊としては使いづらい飛行機なんです。F22ラプターにしてもF35にしてもステルス性を活かして敵機を先制発見して長距離ミサイルで撃墜するのが目的です。ファーストルック・ファーストシュート・ファースト・キルという言い方をします。ところが日本の場合は国籍不明機が日本に接近してきたら戦闘機が出て行って警告を与えて追い返すのが主目的です。不明機が戦闘機であった場合、実際にミサイルを打つまでいかなくとも自分が有利な位置につかなければいけない。F22は空中戦能力が非常に優れているため長距離射撃だけでなく、近接戦闘にも強い。ところが、F35はJSF(ジョイント・ストライク・ファイター)とも呼ばれる単一の機種で複数のミッションをこなすのが目的です。実際、アメリカだけでもF16ファイティングファルコン、艦載機F/A18ホーネット、攻撃機A10サンダーボルト、海兵隊の垂直離着陸機AVー8Bアドバンスドハリアーを代替する計画を持っています。日本は制空戦闘機が欲しいのに戦闘攻撃機を押し付けられたわけです」 (同)

では、そもそもなぜF35が採用されたのだろうか。

「それこそ謎です。コンペ終了1週間前になっても本命はわからない。ヨーロッパ共同開発のユーロファイター「タイフーン」などはブラックボックスをつけない、という破格の条件を出してきました。一方、自衛隊はF22ラプターをあきらめない。いざ、発表されたところ、絶対にありえないとされていたF35が採用されていた。政治的な理由でアメリカが何としても自国機を売りたかったのでしょう。いずれにせよ、結果的にですが、日本国内にF35用のエンジンから、機体の組み立て工場までが建設されることになった。シンガポールや韓国、オーストラリアにも日本の工場で作られた機体が供給される予定です。アメリカと他の国との間にどのような交渉があったのかも不明です。ただ、政治的には中国との関係を考えたためともいわれています。アメリカは最終的にF35を5000機以上作る考えでいます。現代の戦闘機は機体とエンジンがあれば何とかなるようなものではありません。高度なレーダー、電波妨害装置、複数の通信装置、数種類のミサイルと機関砲を制御するファイアリングコントロールシステムが必要になります。結果的に大量の電子部品を調達しなければならない。その時、中国製でない電子機器を供給できる国は多くない。そこで無理やり日本にねじ込んだ、ともいわれています」

 では、なぜ今になって値引きをしたのか。

「一つは開発の遅れがひどすぎるという点。価格が高いと日本でもアメリカでも議会はなかなか承認しません。ですが、そんなことで採用数が減っては国防にかかわります。米空軍ではA10サンダーボルト2を退役させる予定でしたが、退役を中止して後付けのレーダーや、赤外線暗視装置をつけて使用を続けています。F35は一億ドルしますが、A10は1,000万ドルで、すでに支払いは終わっています。より悲惨なのは海軍で海軍用のF35Cが入ってこないので一旦退役させたホーネットを再整備して現役に復帰させました」 (同)

なんとなく「からくり」が見えてきた。軍事ジャーナリストが続ける。

「昨年、日本でも三菱F2の後継をどうするか、検討が始まりました。アメリカとしてはF35を売り込みたいところですが、F35の遅れによって日本が独自開発するとか、他の機種を採用する可能性が増えてきています。ミサイルの分野ですが、日本には前例というか、前歴がありますから。現在、アメリカ軍機の主要な空対空ミサイルはAIM-120、AMRAAMという機種で、射程距離おおよそ百キロという長距離ミサイルです。ところが、開発段階でAMRAAMは高性能すぎるため日本に売却されないのだはないか、という憶測が流れました。そこで、日本としては独自に九九式空対空誘導弾、AIM-4を自主開発しました。AIM120より若干大型ですが、対艦ミサイルを撃墜するため破壊力が大きくなっています。これを見て慌てたのがアメリカですよ。防衛省に対して必死の売り込みをかける羽目になったのです。その甲斐あってか、昨年、小数の調達が発表されました。AIM-4は大きすぎて、F35のウェポンベイに収まらないという説があります。おそらくF35用にAMRAAMを使用するのでしょう」

ミサイルがキーとなっていたのか。確かに日本のミサイル開発はものすごいスピードで進んでいる。軍事ジャーナリストが続ける。

「第二は性能的な問題です。現時点でアメリカはF15イーグルと、F16ファルコンを併用しています。F15イーグルは登場したとき「すべての戦闘に勝つ」ことを目的とした戦闘機でしたが、3,000万ドルとあまりにも高価でした。そこで比較的、危険度の低い戦場には安価なF16を投入して上空をF15が守る「ハイローミックス」構想で戦闘を組み立てました。この二機種は同じエンジンを使用していますが、F15は双発、F16は単発です。しかし性能的には段違いでF15一機で、F16五機から六機を相手にできます。実はF22ラプターとF35も基本的には同じエンジンを使っています。F35の方が新しいだけあってチューンされパワーは上がっていますが、性能差がどれぐらいあるのか公開されていません。他方ではヨーロッパで事件が起こります。クルージング中のF22ラプターを見つけたユーロファイターが模擬空中戦を挑みました。結果はラプターの惨敗です。もちろん、実際にレーダーを使用した戦闘ではステルス戦闘機であるラプターが全勝していますが、ラプターすら日本が求める格闘戦能力に劣る。劣化コピーであるF35ではどれぐらいの戦力になるのかという疑問が生じます」


◎[参考動画]F-35ステルス戦闘機の垂直着陸・在日米軍岩国基地(USA Military Channel – 2017/02/17公開)

要するにF35はアメリカから押しつけられた産物だというのだ。しかもいっぽうでロシアの軍事航空機の技術もかなり進んでいる。

「やはり、F35の遅れと、性能に関係してきますが、いわゆるライバル機の伸びも懸念されます。ロシアではミグ29フルクラムの性能向上型が実用化されています。エンジン出力を増加させ、電子機器を刷新した機体です。一時期、ミグ29は実戦で電子戦能力不足からアメリカ製機に後れを取っていましたが向上型で差を埋めたとみられます。また、F15イーグルのライバルとも言えるスホーイ27フランカーの性能向上型はすでに中国に輸出されています。イーグルは上昇性能、加速性能などあらゆる記録を塗り替えたレコードホルダーだったのですが、今では軒並みフランカーに破られています。さらにロシアは今年中にステルス戦闘機PAK-FAの実戦部隊を配備すると発表しています。PAK-FAの動画がすでに公開されており、こちらはフランカーの機動力と運動性を向上させたステルス機という趣きです。また、長距離ミサイルの開発ではロシアが先鞭をつけており、AMRAAMではかなわない、という見方もあります。普通、このような場合、アメリカは数で圧すのが通例なのですが、生産は遅々としてはかどらない。ずいぶん遠回りしましたが、アメリカは今作ることができる最高性能の機を何としても多数、そろえなければならない。そのためにはメーカーも薄利多売で行くしかない。日本の工場をフル稼働させるためディスカウントしたのだと考えられます」

そんなわけで外交の遡上にあがったトランプ大統領が押しつけてくるF35。果たして自衛隊が購入するのだろうか。ここでも安倍外交の実力が問われる。妻に学校の利権を貪らせている場合じゃないのである。

(伊東北斗)

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