明日から、地獄の上にさらなる地獄を強いられる人々がいる。福島第一原発事故の避難指示解除地域に住んでいて自主避難していた方々への住宅補助が本日31日で打ち切られるのだ。28日には、関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)について、大阪高裁(山下郁夫裁判長)は、大津地裁が出した運転差し止め仮処分決定を取り消し、運転再開を求めて保全抗告していた関電側の訴えを認めた。「安全性が欠如しているとはいえない」と判断した。この決定を受け、関電は近く運転停止中の高浜3、4号機の再稼働に向けた手続きを進める方針だ。
◆二つの現実を前に──徹底した「無答責」が行き渡っている
ことには軽重がある。この二つの現実を前に私たちはどちらを優先的に思慮し行動すべきか。軽重があってもやはり双方を無視するわけにはゆかない、との凡庸な回答しか私の貧弱な頭脳からは引き出せない。
避難者にとっては既に原発事故は起こってしまっていることで、それにより流浪生活を強要されている。どうして加害者が勝手に補助の打ち切りを決めることが許されるのか。それはおそらく、この島国には法の支配がなく、徹底した「無答責」が行き渡っているからであろう。
だとしても法哲学議論の前に「生活をどうしてくれるのだ」との問いに為政者や東電は答えねばならない。しかし彼らは答えない。おそらく答えないのではなく、答える「能力がない」と言ったほうが適切だろう。
◎[参考動画]日本テレビ「町には戻れない」避難解除の町の“苦悩”(FujioTv 2017年3月28日公開)
◆山本太郎議員が問うたJCOレベル4と福島レベル7の対応矛盾
一貫して原発問題を追及する山本太郎参議院議員が3月21日復興特別委員会で質問を行っている。質問で茨城県のJCOで1999年に起こった事故を引き合いに出している。鋭い注目点だ。この事故では臨界を目にするという、恐るべき体験をした被害者が亡くなり、1ミリシーベルト以上の被爆をした人が政府発表で119人茨城県の調査では666人出ている。事故はレベル4と認定され、茨城県はその後、3億円の基金を設け被曝した人々、または不安を感じる人々対して、健康診断が無料で受診できる体制を整える。そして1999年生まれの新生児には生涯無料での受診の権利を与えている。
果たしてこの対処が充分なものであるのかどうかには議論があろうが、他方レベル7事故で住処を追われた人々には「勝手にしろ」と言い放つのがこの島国の政権である。1ミリどころか、「20ミリシーベルト以下ならば大丈夫」なのだから、もう理性も科学も論理も倫理も何もない。住宅支援を打ち切られた避難者には失礼に当たるが、国際的にも伝わるように「原発事故難民」とでも名付けてはどうだろうか。
◎[参考動画]山本太郎議員 東日本大震災復興特別委員会質疑(山本太郎事務所2017年3月21日公開)
何の落ち度もない被害者が避難先では、無知と無意識という名の悪意により差別され、子供がいじめの対象になっている。子どもの態度は大人社会の合わせ鏡で、言葉では決して罵倒したり、けなしたりしはしないが、政策的に「棄民」される人々には絶望か怒りのほかにどのような感情の選択の余地があるというのだ。これはまがうことなき行政による「緩慢な殺人」行為であり、殺されようとしている人々を傍観している者もまた同罪だ。いわんや、東京オリンピックだの原発輸出だの妄言を吐いている連中には早晩罪状が言い渡されるだろう。
◆東芝の崩壊で新年度を迎える日本の経済界
東芝はその露払い役として、実に1兆円の損失を出し、実質上崩壊を迎える。三菱、日立にも同様の宣告がなされる日が必ずやてくる。「経済界」は東芝の崩壊をどう考えるのだろう。人格や人間性を失った「大企業利潤追求唯一主義団体」の経団連は、連鎖倒産を想像しないのか。それによる大不況の心配はないのか。さしあたりの利潤確保以外にお前たちには関心事はないのか。
JRは本気で日本アルプスの下に長いトンネルを掘り、リニアモーターカー運行ができると考えているのか。乗車運賃が新幹線の1.5倍になると言われる延々と続くトンネルの中で安穏と過ごす乗客がいると本気で思っているのか。
日常に埋没してゆく理性や人間性が表面上悪意なさそうに「緩慢な殺人」を支える。こんな社会の一員でいることに恥を感じなければ理性ある人間とは言えないと、新年度を迎えるにあたり自戒を込めて断言する。
◎[参考動画]東芝が米原発子会社WHの破産申請承認受けて記者会見(THE PAGE 2017年3月29日公開)
◎[参考動画]株主「上層部だらしない」東芝巨額損失に怒りの声(ANNnewsCH 2017年3月30日公開)
▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。