小池都知事の人気が高い。朝日新聞(2017年4月4日付)によると、

東京都内の有権者を対象にした朝日新聞社の世論調査で、小池百合子知事の支持率は74%だった。一方、7月の都議選で小池知事を中心とする地域政党「都民ファーストの会」が単独過半数を占めた方がいいか尋ねると、「占めた方がよい」と「占めない方がよい」が41%で並んだ。

都議選の関心度を尋ねると、「大いに関心がある」は37%、「少しは関心がある」は51%、「関心はない」は12%。このうち「大いに関心がある」層では、都民ファーストの過半数獲得について「占めた方がよい」は49%、「占めない方がよい」は39%だった。
朝日新聞(2017年4月4日付世論調査)

朝日新聞2017年4月4日付世論調査

◆「豊洲市場」効果

またしても、東京都民は過ちを繰り返すようだ。小池支持率をここまで高めているのはおそらく「豊洲市場」問題の影響が大きいだろう。汚染だらけの土地を東京ガスから購入して、手抜き工事を行った「豊洲市場」。築地から豊洲への移転には当初から疑念の声や反対が根強くあったが、「石原ファシズム先取り知事」を三度も当選させた都民の多くは、その問題に関心を寄せることはなかった。先日の百条委員会での石原の傲慢な態度。それを追求する議員の腰抜けぶり。あの場面こそ石原支配がもたらした負の遺産を不足なく物語っていた。

朝日新聞2017年4月4日付世論調査

朝日新聞2017年4月4日付世論調査

◆「小池塾」に見る「東の橋下徹」

「石原―猪瀬―舛添」と続く絶望的な選択を繰り返してきたここ数代の都知事に対して、小池が「豊洲市場問題」に取り組む姿勢は、表面上、新鮮に映る面はあろう。しかし、小池の本質は「東の橋下徹」である。7月の都議選に向けて「都民ファーストの会」なる会派を作り、都議を多数誕生させて、議会運営を掌握しようという意図にも4割強の都民が賛成している。

小池は都知事就任以来、「小池塾」なる集金、候補者選定マシーンをスタートさせる。男性5万円、女性4万円(なぜ性別で金額設定が異なるのか、不思議だ)、学生3万円もの「受講料」を取り、全6回の講演が行われる。この小池塾に4000人もの応募があった(まずはここで軽い眩暈(めまい)を覚えないことには話が先に進まない)。

この手法はそっくりそのまま大阪で橋下徹が大阪府知事に当選後、「大阪維新」勢力を立ち上げ、拡大していったやり口の二番煎じだ。橋下は政治家としてのバックグラウンドがなかったので、テレビを最大限活用し、また無節操極まりないテレビも「橋下なら数字(視聴率)が取れる」と、暴言を吐けば、吐くほど寄ってたかって橋下を持ち上げた。橋下は2010年4月1日「大阪維新の会大阪府議会議員団」設立に成功する。ただし、ここで注意を払っておくべきこことは、「大阪維新の会大阪府議会議員団」に参加した議員22名のほとんどは自民党所属議員だったことである。

その後橋下は知事から市長へと職を変えるが、全国における「維新」勢力の存在感は増し、とうとう国会にまで議員を持つに至ったことはご存知のとおりだ。

朝日新聞2017年4月4日付世論調査

◆小池新党をめぐる公明党の動き

小池は橋下ほど「エゲツナイ」手法をとる必要はない。閣僚経験もあり、防衛大臣まで歴任している(この点は再度要注意だ)小池には既に政界における定着した基盤があり、関西で起きたような破廉恥なパフォーマンスは必要ない。前都政の揚げ足取りの1つでもしていれば、都民を騙すことくらい朝飯前だ。

小池が新党を立ち上がれば、維新の東京版として都議選でかなりの議席を獲得するだろう。そしてその都議選で小池新党の本音(いったん自民党から離れたポーズで勢力拡大を図り、安定後は「圧力」を蓄えて政権に復帰する)が語られることも、都民に気づかれることもないだろう。

風見鶏ならぬカナリアの役目を果たす公明党の動きを見ていると、これまた大阪と同じ対応の変化が起きている。自公で仲良くやってきたが、自民党が力を失うと見るや公明党はいち早く距離をとる。そして、新しい勢力が力を確かなものにしたことを確認するや、十八番の「手のひら返し」で新勢力にすり寄っていく。大阪では自民党が見事に切り捨てられたし、都議会でも公明党の自民離れは既に既定の事実となっている。

朝日新聞2017年4月4日付世論調査

◆西も東も「自民党別動隊」が増える

さて、問題はその後である。橋下「院政」支配の維新は、もう少し時間がたってから自民党と合体するだろうと私は見立てていたが、ひょっとすると案外早い時期の合体があるかもしれない。もっとも合体しようがしまいが、維新と自民党の主張はほとんど変わらないのだから、維新を野党とカウントすることは間違っている。閣僚を出していないだけで、維新は自民党の別動隊に他ならない。

そこに、維新の東京版、小池新党が発足するのは、要するに「自民党別動隊」の分隊が増えるだけのことで、改憲、戦争に向けた勢力が増すことを意味するだけである。小池新党が、政界再編のきっかけになるのでは、と期待しておられる読者がおられれば、それは甚だ楽観にすぎる思い違いだとご指摘申し上げる。

きな臭い2017年度が始まった。真の変化の萌芽は、まだ見渡すところなさそうだ。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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