“チャンピオン”を日本語に訳すと何と呼ぶでしょうか?
現・第13代選手権者.安田一平に6年前の第8代選手権者.岡田拳が挑んだ試合。
パンチの距離なら安田の強打が活きるが、それをさせない岡田のフットワークとローキックが安田の勢いを止める。ローキックが連打されても安田は崩れることはなかったが、結構戦力が鈍る様子は伺えた。岡田も攻めつつも安田の強打を被弾し、圧倒することは出来ないが主導権は岡田が握った展開。ローキックでダウン奪いたかったところ安田は強打と蹴り返して耐え切った。
岡田(=旧・岡田清治)は2009年12月26日に武笠則康(渡辺)から判定勝利で王座奪取、2010年4月24日に高橋賢哉(渡辺)に判定勝利で初防衛、2011年2月11日に栄基(M-TOONG)に判定負けで王座陥落しています。肩の怪我から昨年復帰し2連勝。今日で6年ぶりの王座奪回に成功、第14代選手権者となる。
村田裕俊は昨年(2016年)初頭にタイへ修行に向かい、過去2度KOで敗れている高橋一眞に、同年4月のNKBフェザー級王座決定戦で、判定で雪辱し王座奪取。12月には過去1勝1敗1分の優介(真門)をTKOに下し初防衛。ムエタイ修行の成果がはっきり現れる成長を見せ、今年2月にはトップクラスが集められたビッグイベントKNOCK OUT興行に出場。実績ある全日本スーパーフェザー級選手権者.森井洋介(ゴールデングローブ)と善戦の引分け、トップクラスに通用する実力を見せました。
今回の対戦も、村田の更なる台頭と高橋一家の逆襲がテーマとなって、6月25日に予定される村田裕俊vs高橋一眞(=長男)のNKBライト級王座決定戦に繋がる前哨戦として期待のカードでした。
1ラウンドから高橋聖人(=三男)は極力距離を詰め接近戦でも先手を打つ展開。2ラウンドに青コーナー側で足を払って崩してパンチを連打。この一年半での進化した村田の劣勢は意外な光景。3ラウンドにはようやく調子を上げていく村田、圧力掛け本領発揮かと思われた後半、聖人が左ハイキックをクリーンヒットさせ、またもコーナー付近に詰めてラッシュ。完全に主導権を掴んだ聖人。
ここまで来ると聖人は油断しない限り、多少被弾しても大きく崩れることはなくなる。4ラウンド以降、スタミナの消耗で両者のスピードが鈍るも聖人の優勢は維持。村田の経験値で優る隙を突いたパンチと蹴り技も鋭いが、大胆不敵な聖人もヒットを返していく中終了。予想を覆す高橋聖人の勝利に沸いた会場とその応援団でした。
NKBライト級王座は、大和知也(SQUARE-UP)が昨年負った怪我の復調の遅れで返上が決定。そこで村田裕俊vs高橋一眞の4度目の対戦となる、ライト級に移しての王座決定戦が決定しています。
前座の話題ながら、3試合連続同一相手となった、9戦1勝(1KO)7敗1分の岩田行央と2戦1敗1分の藤田洋道戦は第2ラウンドにパンチによる両者一度ずつのダウン(先に藤田がダウンを奪い、岩田が逆転のダウンを奪う)。第3ラウンドも打ち合いの中、岩田が2度ダウンを奪い大差を付ける。スリリングな内容ながらどちらもガードがあまく、技術で制した試合とは言えないが、前座3回戦の中で、こんな7連敗から注目の勝利者となった選手の話題を盛り上げてきた竹村哲氏の見所PICK UPも見事でした。
◎神風シリーズvol.2 / 4月15日(土)後楽園ホール17:30~
主催:日本キックボクシング連盟 / 認定:NKB実行委員会
《後半6試合》
◆NKBウェルター級選手権試合 5回戦
選手権者.安田一平(SQUARE-UP/37歳/66.5kg)
VS
挑戦者同級1位.岡田拳(大塚/31歳/66.5kg)
勝者:岡田拳 / 0-2 / 主審:鈴木義和
副審:川上49-49. 亀川48-50. 馳48-49
◆59.0kg契約 5回戦
NKBフェザー級選手権者.村田裕俊(八王子FSG/27歳/58.8kg)
VS
同級3位.高橋聖人(真門/19歳/58.8kg)
勝者:高橋聖人 / 0-3 / 主審:前田仁
副審:鈴木49-50. 佐藤友章47-50. 亀川47-50
◆70.0kg契約3回戦
NKBウェルター級8位.上温湯航(渡辺/25歳/69.6kg)
VS
釼田昌弘(テツ/27歳/70.0kg)
勝者:釼田昌弘 / 0-2 / 主審:川上伸
副審:前田30-30. 亀川28-30. 馳29-30
◆女子50.0kg契約3回戦
喜多村美紀(テツ/30歳/49.75kg)vs後藤まき(RIKIX/49.65kg)
引分け / 0-1 / 主審:鈴木義和
副審:前田30-30. 馳30-30. 川上29-30
◆ウェルター級3回戦
チャン・シー(SQUARE-UP/33歳/66.4kg)
VS
ちさとkiss Me(安曇野キックの会/34歳/66.5kg)
勝者:チャン・シー / 2-0 / 主審:佐藤彰彦
副審:馳30-29. 前田30-29. 佐藤友章29-29
◆フェザー級3回戦
岩田行央(大塚/37歳/57.1 kg)
VS
藤田洋道(ケーアクティブ/36歳/57.0kg)
勝者:岩田行央 / 3-0 / 主審:亀川明史
副審:馳30-27. 佐藤彰彦29-27. 川上30-27
他、5試合は割愛します。
◆取材戦記
最近のこと、ある捜し物をしていて1996年当時の私(堀田)が関わったレジャー紙のキックボクシング記事を見ると「WKBA世界スーパーライト級選手権試合」と書かれていた記事を見つけました。特に注目する問題ではありませんが、この頃の世間はまだ“選手権”が使われていたようです。
古い時代のファイティング原田さんらのプロボクシング世界タイトルマッチポスターも「選手権試合」と書かれていたものでした。輪島功一さんがチャンピオンの頃もそんな表記があったと思います。プロレスでも使われていました。
最近の人はほとんどがタイトルマッチはそのままですが、チャンピオンのことを“王者”と答えるのではないでしょうか。決して間違いではありませんが、やたらタイトルが多くて、選手紹介で過去保持したすべてのタイトルをリングアナウンサーが紹介する度に「元…王者、前…王者、現…王者」と“王者”が連発されることに何か違和感を感じることがあります。偏屈な意見ですが、ボクシングシステムを用いる競技的には“選手権者”が優先されるべきかと思います。王座を獲得した者を正確には“選手権保持者”となります。
高橋三兄弟はそれぞれが課題を抱えつつ成長を見せています。三男・聖人が村田裕俊に勝つとはちょっと驚きでしたが、そんなチャンピオンクラスに、早くに打ち勝つ素質は元からあったのかもしれません。今後はビッグイベントの「KNOCK OUT」から声が掛かることも予想されます。
[撮影・文]堀田春樹
▼堀田春樹(ほった・はるき)
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」