今年2月6日付けのj-cast.comの記事「財政健全化、2020年度達成は絶望的 それでも安倍政権が慌てない事情」 がこんなことを書いている。

「政府の中長期の経済財政に関する試算で、財政健全化の指標である基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)について、黒字化を目指す2020年度に、逆に赤字が拡大するとの見通しが示された。2016年7月時点の前回試算では5.5兆円の赤字としていたが、2.8兆円膨らんで8.3兆円の赤字になるという。安倍晋三内閣は「2020年度黒字化目標堅持」と繰り返すが、達成は絶望的になったといえそうだ。」

◆為政者たちの経済感覚が理解できない

ものごころがついてこの方、大金を持ったこともなけれれば、大きな借金を抱える生活の経験もない。人に貸した金がいくら踏み倒されたのか、もう昔のことは忘れたけれども、少々でも「借金」ができると気にかかる。庶民的な生活則が身に染みたからかもしれないし、前世で借金には痛い思いをしたことがあるからかもしれない。

だからなのか、自分のささやかな経済生活もさることながら、目の前で進行している「破産」へむけて一直線に突き進む、為政者たちの経済感覚が私には全く理解できない。単年度予算はここ数年、破産直前の国レベルに国債依存率が高い。そこに追い打ちをかけるのが上記で紹介した、プライマリーバランス黒字化目論見の破綻だ。

◆2008年にはPB黒字化達成は2011年度だったが……

そもそもプライマリーバランスとはなんだろうか。

「公債費を除く経費と、公債や借入金などを除く租税収入などの歳入がバランスしていること。すなわち、過去の借金の元利払い以外の政策的経費を、公債などの新たな借金に頼らずに調達することを意味する。プライマリーバランスは、財政再建の過程において重要な政策目標とされている。平成13(2001)年の経済財政諮問会議の『骨太の方針』でも、財政再建の中期目標として、まずはプライマリーバランスを黒字にすることが適切だとされた。その理由は、第1に、世代間の公平という観点から、現在の公共サービス費用を将来の世代に先送りすべきではない、第2に、財政の持続可能性を回復するためには、債務残高を対GDP比で増大しないようにする必要があり、それには元利払い以上の借金を新たに行うべきではない、ということであった。07年6月発表の『経済財政改革の基本方針2007』ではプライマリーバランスの黒字化達成の時期を11年度と明示している。」
(神野直彦 東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授 /2008年|ブリタニカ国際大百科事典小項目事典)

簡潔化すれば、「国債などを除く収入(主として税収)の中で歳出を抑えられているかどうか」ということだ。

神野氏の解説は2008年に書かれたもので、「07年6月発表の『経済財政改革の基本方針2007』ではプライマリーバランスの黒字化達成の時期を11年度と明示している」とされているが、ご存知の通り11年度は東日本大震災のあった年であり、当然黒字化などは果たされていない。その後自民党に政権が戻り、民主党政権時代の一時的な予算配分から、旧来型の公共事業重視の予算に戻り、プライマリーバランスはさらに悪化の一途をたどる。

◆それだけではすまない

企業経営者や、株式取引に主たる関心をお持ちの方の中には、大企業の収益が上がっている、株価が上昇しているから、国の財政も好転しているだろうとお考えの方も少なくないに違いない。本来はたしかに双方は比例関係にあるべき関係であったのだけれども、大企業への過剰な税制優遇と逆進性の極み「消費税」率上げにより、どれほど大企業が好況でも、税収が比例して増加しない、との歪な構造が作り上げられてしまった。結果として2020年もプライマリーバランスは赤字必至との見立てが既に確定的だ。

この見立ては確定的だが、それだけではすまないだろう。もし予定通り東京オリンピックが実施されれば、施設建設費、大会運営費が当初の計画より必ずも膨張して、それが補正予算に組み込まれることになろう(すでにその兆候は新しい国立競技場建設費用などで顕著である)。

しかし根本問題はもっと深刻だ。そもそも2017年度予算総額は約97兆円だが、その中で歳入は国債に35兆円依存している。これは予算の3分の1以上を「借金」していることを意味する。しかもこの割合は一向に減る気配がない。企業業績の好調が税収増として反映することもなく、労働者の賃金が相応に上昇することもないから、どうあがいたって、いまの構造のままでは毎年の予算を組んだ時点で「借金」が増加し、さらに単年度収支(プライマリーバランス)もマイナスになるから、借金の元本は膨らんでゆくだけだ。

◆債務総額が資産を上回ってしまうと予算が組めない

「プライマリーバランスを黒字化させ、財政の健全化を図ります」とのたまっていた、元加計学園役員こと安倍晋三(首相)の目論見とは逆に、年々この国の財政は悪化し、借金の総額も増え続けている。行き着く先はどうなるのか。債務総額が資産を上回ってしまうと予算を組むことができなくなる。

家計でお考えいただければわかりやすいだろう。給与所得が20万円のご家庭が毎月40万円づつ出費していればどうなるか。最初のうちはクレジットカード決済や、カードローンで自転車操業的に乗り切れても、やがて借金に上乗せされる利息にどうやっても追いつかなくなる。いまの国家財政は、簡単に言えばそのような状態である。私はかなり深刻な事態だと認識するが、実際に多くの人々がこの危機の被害に遭い、混乱が生じるまでことの真相は隠され続けるのだろう。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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