朝日新聞が6月5日、「ヘイト対策 根絶へさらに歩みを」という社説 を掲載した。この社説に鹿砦社特別取材班は「総論反対」「各論もほぼ反対」であるので、以下、逐語的に徹底反論を試みる。
◆「ヘイトスピーチ対策法」は国会内の質疑に適用されるのか?
まず指摘するのは、前提となっている「ヘイトスピーチ対策法」を何の警戒心もなく、肯定的に捉えている報道機関としての呆け振りである。
ヘイトスピーチが減少していることは好ましい。それに異議はない。しかし「ヘイトスピーチ対策法」は、足音が近づく「共謀罪」と合わせれば、恐るべき「言論弾圧法」への「地獄の扉」に変容することは明らかだ。その観点が全くない。
『人権と暴力の深層』のインタビューの中で、作家の中沢けいが語っているように、言論の内容を判断の対象としている法律は「わいせつ罪」と「ヘイトスピーチ対策法」だ。それから中沢は言及していないけれども「破壊活動防止法」(破防法)の個人適用の際にも言論内容が根拠とされたことがある。
これらの法律が適用されるのはほぼすべての国土であるが、「ヘイトスピーチ対策法」は国会内の質疑に適用されるだろうか。ここのところ熱心な差別売り物議員は、与党席に座っているのでおとなしいが、西田昌司をはじめとする「確信的差別主義者」だ。彼らは野党時代、どれほど聞くに堪えない民族差別を怒鳴りまくっていたことか。
その西田昌司が「ヘイトスピーチ対策法」立法化に向け有田芳生と握手をした、あの光景の背後に「言論弾圧」の文字が漂っているのを見抜けないようでは、社会観察者としては失格である。
◆「北朝鮮人権侵害問題啓発週間」は国ぐるみのヘイトではないのか?
また、この国は毎年、毎年12月10日から16日まで「北朝鮮人権侵害問題啓発週間」なる、「国ぐるみで特定の国を指弾(差別)」する啓発を行っている。政府が旗振りをするこのような特定国への執拗ともいえるレッテル張りが、在日朝鮮国籍の方々への偏見を助長することはないのか(付言すれば差別者には北も南も関係なく朝鮮民族全体を差別の対象とするものがほとんどであるので、「北朝鮮人権侵害問題啓発週間」は政府による「差別助長行為」だ)。
「人権問題啓発」というなら世界中の人権問題を平等に扱わなければ、国家としては不平等じゃないか。ロシアの「チェチェン共和国イジメ」や、イラン、イラク、トルコの「クルド人イジメ」。そして米国によるアフガニスタン、イラクへの一方的侵略。国が国を、民族を抑圧して、殺している姿は何年もわれわれの世界にあるじゃないか。
距離が近い、遠いの問題ではない。「北朝鮮人権侵害問題啓発週間」はこの国による明らかな「ヘイト」じゃないのか。なぜ誰も「政府官製差別」を問題にしないのだ。否、腹黒い奴らは、「問題にしないことにより矮小化された小情況の中での差別を温存したい」と考えているのかもしれない。
拉致被害者を取り戻す気など、さらさらないのに胸に青バッチをつけている連中は、全員付和雷同の「国家的差別賛同者」とみなしてよいだろう。
前置きが長くなったが本論だ。以下、朝日の記事に沿って反論を試みよう。
◆本当に「ヘイトスピーチ対策法」の成果なのか?
そうだろうか。まかり間違っても私は「ヘイトスピーチ」に賛同しないが、裁判所が仮処分の決定を出した人物は、かなりの「確信犯」のようだ。理念法ができたから裁判所で仮処分が出たのだろうか。
むしろこれまで警察や裁判所が「確信的差別常連者」を放置してきたことの裏返しではないのか。現行法でも乱暴な差別行為は「脅迫」でいくらでも検挙できたじゃないか。
◆なぜ、民団や総連でなく「コリアNGOセンター」なのか?
どうしてここで唐突に「大阪のNPO法人・コリアNGOセンター」が登場するのだろうか。在日コリアンのコミュニティーの団体としては「民団」や「総連」がある。嫌がらせの数だって「コリアNGOセンター」の比ではないだろう。
民間にある在日コリアの団体の代表として取り上げているつもりであるならば、朝日社説の執筆者は、「コリアNGOセンター」が「M君リンチ事件」の隠ぺい工作に深く関与し、M君が李信恵をはじめ5名を訴えている裁判に「被告側」から証拠を提出している団体であることにも言及せねば不平等である。
「コリアNGOセンター」は民族文化・教育をする団体であると同時に、リンチ事件隠ぺいに組織ぐるみで関与し、現在も被告の側を支援している団体である。
◆なぜ、ここで「フリーライターの李信恵(リシネ)さん」なのか?
またしても、どうして李信恵なのだ! なにも差別について語っている在日コリアンは李信恵ひとりではあるまい。李信恵の語る「差別論」や彼女の行動、あるいは人格が破格に秀でていると朝日新聞は評価するのか?
さらに李信恵の言動に「在日コリアン」を代表されるかのごとき報道は迷惑だ、と断言する在日コリアンをわれわれはたくさん知っている。それはそうだろう。◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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[※上記◇箇所の文字は、裁判所の命で削除しました。(鹿砦社)]
「コリアNGOセンター」と李信恵という「M君リンチ事件」に関しては最悪のコンビを登場させ、「ヘイトスピーチ対策法」成立を語らせることは、まじめに生きる在日コリアンの方々に対する侮辱ではないか。
◆朝日がすべきことは権力拡大を求めることではないはずだ
右翼からは「左翼」扱いされる朝日新聞が、ここまで無防備に国家権力や地方行政権力の拡大を積極的に求めるのだ。「法」や「制度」、「政策」で差別が根絶できると思っているのなら、朝日新聞はまず「北朝鮮人権侵害問題啓発週間」について論評や批判キャンペーンをしてみろ。
◆大阪市のヘイトスピーチ抑止条例は先行事例か?
その大阪で抑止条例を作ったのは誰だ? 橋下を中心とする維新が中心にいたんじゃないのか。大阪人はイマジネーションがわかないか? 今年の秋久々に阪神が優勝して道頓堀に酔狂が何人も飛び込む乱痴気騒ぎもいいけれども、維新勢力によりどんどん進められる「浪速の管理強化」に。
連中は住民投票で否決された「大阪都構想」をまだあきらめず、粘土をこねくり回すようにあれこれ言い訳をしながら、駄々っ子のようにまだあきらめていない。そういう連中の「目くらまし」、「点数稼ぎ」にやすやすと騙されてどうする!
◆結語がそうであれば、朝日新聞は「M君リンチ事件」も報じるべきだ
結語としてはめ込められた内容と方向性、さらには確信を全く感じることができない「当たり障り」のない文章=無意味である。あえて言えば「一人ひとりが、M君のようなリンチにあったらどう感じるか」と換言すれば多少の問題提起にはなろう。
◆「M君リンチ事件」に関わった李信恵とコリアNGOセンターを「被害者」として社説で取り上げたのは偶然なのか?
この社説を、敢えて表現するならば「言論における道義上犯罪」である。実売部数数百万部の新聞が、国による言論弾圧強化を歓迎し、その話の余談として「M君リンチ事件」に直接かかわった李信恵と「コリアNGOセンター」を「被害者」として取り上げる。偶然ではあるまい。ここにあるのは無知か、あるいは相当高度な政治判断のいずれだろうと考えざるを得ない。
だからなのだろうか。これほど大事件の被害者が大メディアではまったく扱われず、鹿砦社しか扱わない。「背後に大きな闇を感じる」は言い過ぎか。