前川喜平さんと寺脇研さん
明日15日『NO NUKES voice』13号が発売される。今号は創刊3周年の特別号。多くの人たちと共に〈原発なき社会〉を求めて、これまで以上に多彩な人たちに登場していただいた。
◆我に撃つ用意あり──野に下った文科官僚二人の覚悟
巻頭グラビアトップは、加計学園問題をめぐり国家戦略特区という利権行政の闇を証言した前川喜平さんとゆとり教育のエヴァンジェリストの寺脇研さんの元文科省官僚のツーショット。残念ながら前川さんへの本誌原発インタビューは丁重にお断りされたものの、寺脇さんが文科行政の歪みの起源を存分に語ってくれた。
◆望月衣塑子記者、3・11からの軌跡を語る
特集冒頭では東京新聞社会部の望月衣塑子記者が登場する。官邸記者クラブで菅官房長官を問い詰めたことで一気にその名が知れ渡った望月記者は目下、官邸と御用メディアから陰に陽に不当な恫喝を受けているが、庶民の疑問を直球で権力に投げつける望月記者の姿勢こそ正しく真っ当なのは明かだ。〈タブーなき記者〉として森友・加計問題、詩織さん問題、原発、武器輸出に至るまで3・11以後、取材し報じてきた自身の軌跡を語っていただいた。
次いで登場は寺脇研さんの「原子力村と宇宙村 省庁再編が壊した教育の未来」だ。本コラムで常々文科省の「犯罪性」と「文科省不要論」並びに「宇宙開発の危険性」を指摘している私にとっては、強き味方を得た気分だったが、後段で語られる3・11後の映画批評がむしろ寺脇節全開で面白い。こういう個性的な人が多くいれば「文科省」もここまで馬鹿にはならなかったであろう(現実にはそんな「個性」を認めはしまいが)と感じさせられた。
寺脇研さんと望月衣塑子さん
中島岳志さん
鵜飼哲さん
◆脱原発こそ保守の論理である──中島岳志さんが語る安倍内閣終焉後の対抗軸
中島岳志さん(政治学者、東京工業大学教授)は「脱原発こそ保守の論理である」で持論を展開してくださっている。「保守」、「脱原発」、「安倍内閣終焉後の対抗軸」と興味深い言葉が並ぶが、果たしてそれらはどのように編み上げられていくのか。「保守」、「リベラル」の語意が著しい変化を見せている今日、「リベラル保守」の論客、中島さんのお話には要注目だ。
◆反原発は反五輪に向かう──鵜飼哲さんのラディカルなアクティビズム
鵜飼哲さん(一橋大学教授)は前出の中島さんと異なり、脱原発を志向する方々にはわかりやすいだろう。福島原発事故がもたらした諸矛盾と2020年東京五輪とがどう関係しているか。これまた非常に興味深い論考である。ジャック・デリダに師事した鵜飼さんらしくフランス現代哲学の香りも時々漂う。多くの読者が首肯されながら鵜飼さんのお話を読まれることであろう。
水戸喜世子さん
村上達也さんと笹口孝明さん
◆原発は滅びゆく恐竜である──水戸喜世子さんが語る夫・巌さんの思想と行動
水戸喜世子さんの講演記事「原発は滅びゆく恐竜である」はかつてのお連れ合い水戸巌さんの書名でもある。巌さんと学生時代から学問や社会運動に恐ろしいほどのエネルギーでかかわってきた水戸さんのお話は、明確にして高貴にラディカル。可能であれば読者に活字ではなく音声でお伝えしたかった。
◆虚妄の原発立地・成長神話──巻町・住民投票の教訓と東海村・脱原発の挑戦
「巻町・住民投票の教訓と東海村・脱原発の挑戦」は7月中旬新潟市で行われた脱原発を目指す首長会議と原子力市民委員会の共催シンポジウムにおける、元・新潟県巻町町長の笹口孝明さんと元・茨城県東海村村長の村上達也さんの対談録だ。司会は元国立市長の上原公子さんが務めている。なぜ全国の原発立地自治体は原発を受け入れてしまうのか? 原発に反対する首長にはどのような仕打ちがおこなわれるのか。厳しくも示唆に富んだ元首長お二人の体験談は、原発立地地元の現状と、地域変革のための方向性を示唆している。
◆被ばく測定・国のウソ──闘う元・東大助教、温品惇一さん
温品惇一さん
温品惇一さん(放射線被ばくを学習する会共同代表)の「被ばく測定・国のウソ」は東大助教時代に公害問題に取り組んで以来、「闘う東大助教」の異名をとった温品さんが福島原発事故後に政府が制定した被ばく基準や、ガラスバッジ測定のウソを温品さんの闘いの歴史の中で再び位置付ける。公害から原発(被ばく)へと長年の取り組みは私たちに何を教えてくれるだろうか。
◆言いがかりで市民を逮捕している暇があれば、東京電力幹部を即刻逮捕せよ!
特集に続き、常連執筆陣も常に熱い。山崎久隆さんの「東電再建計画『新々総持』は瓦解する」、三上治さんの「言い残したきことを抱えての日々」は経産省前テントひろばや闘いの現場からの骨太報告だ。
9月11日夕刻、経産省前テントひろばの共同代表であるFさんが抗議集会の最中に「無届けデモの指揮を行った」という口実で不当逮捕された。本日14日夕刻6時から緊急抗議行動が警視庁前で行われる。本誌は3年前の創刊当初から経産省前テントひろばと連携しているが、今号の表紙とグラビアは経産省前テントひろばで闘う人たちの姿を掲載した。
経産省前テントひろば共同代表の渕上太郎さん
経産省前テントひろば9月11日付けテント日誌より
多くの方々が見守る中での不当逮捕は、物理的に経産省前テントを撤去しても、強い意志で集まり続ける人々への〈国側の焦り〉が表出したとも理解できる。しかしながら、このような不当逮捕は断じて許されてはならず、当局は被逮捕者の一刻も早い身柄の解放と、不当逮捕に対する謝罪を明らかにするべきだ。官憲は言いがかりで市民を逮捕している暇があれば、国土やあまたの人々の生活を奪った東京電力幹部を即刻逮捕せよ!
◎[参考動画]脱原発テントひろば7年目→9・11経産省前へ!【後半・丸の内警察署まで】
三輪祐児さん2017年9月11日公開 ※不当逮捕に関する模様は動画22:30頃~
◆〈流浪の聖者〉くまさんによる脱原発川内テント・蓬莱塾レポート
現場からの報告はまだ続く。今号では脱原発の集会ではだれもが知る〈流浪の聖者〉「くまさん」こと須藤光郎さんに脱原発川内テント・蓬莱塾からの現地報告をいただいた。また、子どもたちを放射能から守る伊豆の会代表の安倍川てつ子さんからは2012年から続けている保養プロジェクトの歩みを寄稿いただいた。
大飯原発の地層の危うさを科学的に論証した田村八洲夫さん(大飯原発稼働差止訴訟団サポーター)の論考、来夏に満期をむかえる「日米原子力協定」の継続阻止をめぐる佐藤雅彦さんの論考は精緻かつ実証的な強力レポートだ。
◆本間龍さん、板坂剛さん、納谷正基さんの好評連載
全国的に「どの面下げて」と思わずにはいられない電力会社の広告の大々的な再登場を目にするが、今号も本間龍さんの連載「原発プロパガンダとは何か?」では電力会社のHPにおける原発PRの現状分析が紹介される。
板坂剛さんの「ある夏の体験」は板坂さんのこれまでの原稿の中で、突出して出色だと著者は感じた。
納谷正基さんの連載「反原発に向けた想いを次世代に継いでいきたい」、今回は「文科省は誰を守り、誰のために存在しているのか?」だ。過日、納谷さんとお会いした。ニコニコ笑顔を絶やさない趣味豊かな温厚な人格と、絶対に欺瞞や嘘を許さない、鋼鉄のような意思の同居した方だった。納谷さんの文章は語り言葉のようだ。だがいったん、その語り言葉が紙から飛び出して議論の場に躍り出ると納谷さんは熱の塊と化す。そんな人物像を想像しながらお読みいただくとさらに趣が深いだろう。
◆今年下半期の行動指針を示す再稼働阻止全国ネットワーク報告12本
再稼働阻止全国ネットワーク―夏~冬の焦点―東海第二、大飯、玄海、伊方四つの原発再稼働に反対する闘いが、柳田真さん、木原莊林さん、名出真一さん、佐々木慶子さん、鴨下祐也さん、清水寛さん、中道雅史さん、相沢一正さん、山田和秋さん、木村雅英さん、けしば誠一さん、天野惠一さんが各種報告を寄せてくださっている。
巻末には「よいしょ」ではない読者からのある意味厳しい投稿も掲載された。
発刊後3年、13号にして、『NO NUKES voice』はまだまだ、未完であるが、毎号着実に試行錯誤の中から「新しいなにか」を獲得できていると実感する。本誌の目指すものはさしあたり日本における脱原発ではあるが、その視線お先には世界からの原発・核兵器の廃絶も当然視野に入る。
まだまだ足りないところだらけではあるが、読者と共に「脱原発」に向け小さくとも、着実な歩みを続けていきたいと思う。仮にそれが身の丈を超えるものであっても──。
▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。
[写真=大宮浩平および本誌編集部]
9月15日発売『NO NUKES voice』13号【創刊3周年記念総力特集】多くの人たちと共に〈原発なき社会〉を求めて