TBSテレビ「報道特集」のキャスターで、世界各国のニュース現場に毎週のように取材へ出かけ、現地からのニュースを伝え続けている金平茂紀さん。金平さんは2016年3月末までTBSテレビの社員であり、執行役員でもあった。

◆古舘氏、岸井氏、国谷氏が降板した昨年3月末、金平さんはTBSを退社した

金平茂紀さん

ところが金平さんは2016年が3月31日で執行役員を解かれるだけではなく、TBSを退社していたことを読者諸氏はご存知だろうか。金平さんはTBSテレビの執行役員を3月末まで勤めながら「現場に立つ」異色の報道人として注目を浴びていたが、執行役員退任とともに同社を退社していたことは当時も事情を知る人の間では衝撃を与えていた。いまでも退社前と変わらずに「報道特集」のキャスターを引き続き担当しているので、「金平さんTBS退社劇」をご存知ではない方が多いのではないだろうか。

関係者の話によると、金平さんの退社は極めて近い人々の間でしか伝えられておらず2016年4月23日、鹿砦社取材班が「退社の噂は本当でしょうか」と金平さんにメールで問い合わせたところ「事実です」とのご返答を頂いていた。しかし、金平さんからは、当時役員解任から退社までの動きを、あまり大きく話題とされることを望まない意向が伝わってきていた。よって鹿砦社取材班も、「金平さんTBS退社」のスクープ記事を準備しながらも、金平さんの意向を尊重して掲載を見送ってきた。

鹿砦社取材班は2016年3月30日、TBSテレビ内で金平さんに取材を行っていた。手元には「TBSテレビ『報道特集』キャスター執行役員 金平茂紀」の名刺がある。つまりこの名刺は残り1日しか使えない名刺だったわけだ。取材班が金平さんに面会したのは彼がイラク・クルド人地区の取材から、ブリュッセルでのテロ事件を取材して帰国された直後だった。取材の約束は頂いていたものの、ブリュッセルでのテロ事件発生に伴い帰国が遅れたこともあり、我々が取材させてもらう時間が確保できるか、不安だったが金平さんは忙しい時間を割いてTBS社屋内で、われわれの取材に応じてくれた。

◆一線で仕事をし続ける「報道人」の凄み

 

ここでは詳細をお伝え出来ないが金平さんは3月31日をもって降板した『報道ステーション』(テレビ朝日)の古舘伊知郎氏、『NEWS23』(TBSテレビ)の岸井成格氏、『クローズアップ現代』の国谷裕子氏の降板に強い関心を持ち、それぞれの方々に取材を行なっていたことを語っていた。取材班も金平さんが3月31日で執行役員を降板することは事前に知っていたが、まさかTBSテレビを退社するとは予想しなかったし、インタビュー中もそれについての言及はなかった。

金平さんは取材後「じゃあ軽くいきますか」と取材班を誘ってくださり、TBS近所の居酒屋で一緒にもつ鍋をつついた。金平さんは健啖家だった。よく食べた。仕事をたくさんする人はエネルギーも消費するのだろう。そして彼は「ホッピー」を飲んでいた(どうでもよいことではあるが)。

エネルギッシュであらゆる質問へ瞬時に反応が返ってくる金平さんに、一線で仕事をし続ける「報道人」の勢いを感じたものだ。「一度仕事を始めてしまうとaddictというか、抜けられなくなるんですよ。だから泳ぐときと酒を飲むときだけは全てを忘れますね」と語っていた金平さんからは凄みすら感じられた。一方メディア状況の体たらくに話題が向くと、「何かあるんでしょうね」、「この民にしてこのマスコミありといった側面はありますね」と時として悲観的な表情に変わったことも印象深い。

◆「報道特集」に金平さんが登場し続けることを切望する

TBS「報道特集」HPより

金平さんのTBS退社から1年以上が経過したが、「報道特集」では毎週視点の鋭い貴重な情報を提供してくれている。同番組キャスターの日下部正樹氏も、地震が相当苦手そうだが、やはり鬼瓦のような(これは褒め言葉である)趣で国内外から、新しい情報を伝えてくれる。

オフレコの本音も聞いた。そこから推測すれば金平さんの退社は「ああ、やっぱり」と思わないでもない。金平さんは「テレビが好きだ」と語った。そうだろう。昨年ブッリュッセルでの現地からの中継を「現地では4人いれば日本に映像を飛ばすことはできるんです。私たちは4人でしたよ。でもNHKは仮設テントまで作って10人、いやそれ以上いたんじゃないですか、何やってるのかという感じですよ」と語ってくれた金平さん。「帰りの飛行機でも原稿を書いていました。時間がないですから」と語ってくれた金平さん。彼の主張や視野のすべてに絶賛するわけではないが、今日、日本のテレビ報道界において、卓越した人物であることは間違いない。その金平さんが登場する「報道特集」は硬派な報道番組だ。最低限TBSの「報道特集」に金平さんが(体力が持つ限り)登場し続けることを私は切望する。

NHKは受信料を取りながら、程度の低いタレントを並べる「ひな壇番組」を平気で放送するようになった今日、TBS「報道特集」の価値はこれまでになく高い。

ほら、もう水際はそこまでやってきた。金平さんが体調や個人的理由ではなくテレビの画面から消える時、日本のテレビメディアは「壊死」から「心肺停止」=「絶命」を迎えると言い切ってても大きく間違いはあるまい。テレビは多くの害悪を振りまく。しかし例外的に妙薬を与えてくれることもある。その薬剤師がいなくなった時、テレビが振りまくのは悪性のウイルスだけになろう。

▼佐野 宇(さの・さかい)

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