曽我逸郎氏のHPより

曽我逸郎氏のHPより

前回取り上げた長野5区曽我逸郎(そが いつろう)候補が残念ながら落選した。当選したのは自民党の宮下一郎氏(91,542票)で、2014年前回の衆議院選挙(91,089票)より得票を少し増やした。曽我逸郎氏は宮下氏に次ぐ2番目で、48,588票を獲得した。宮下氏の得票と比較するとやや開きがあるが、希望の党から立候補した中嶋康介氏が前回の衆議院選挙(46,595票)よりやや減の得票を今回獲得(43,425票)したのに対し、曽我氏はそれを上回る得票を獲得した。

中島氏が前回と比較してやや得票を落としたのは、前回まで連合長野のもとで中島氏を支援していた自治労長野が曽我氏を独自に支援していたことが原因の一つと考えられる。自治労長野が連合長野とは違う候補を支援したのは長野県内ではこの5区だけで異例だった。曽我氏は前回共産党推薦で立候補した水野力夫氏が獲得した28,947票に約2万票上積みしたが、及ばなかった。

◆小選挙区制下の一本化をめぐる苦悩

今回の長野5区は死票率が50%を超えた。相変わらず小選挙区制の酷薄さを感じさせる結果だ。曽我氏の支援者によると、「曽我さんも、中島さんが希望の党ではなく立憲民主党や無所属で出馬していたら、今回の出馬はなかったのではないか」とのことだった。他の支援者は中島氏のマニフェストと希望の党との政策のかい離を指摘していた。

曽我氏のスローガンは「安倍政権、小池新党に立ちはだかる」であり、選挙後に出した曽我氏のコメント「今回の選挙を総括すれば、小池百合子氏にかき回されてしまいました。改憲勢力に対抗する一枚岩をつくり上げることができなかったのは、大変残念です。安倍首相と小池氏とは同類であり、そのどちらの陣営にも伊那谷から一議席を与えてはならなかったのに」(公式サイトより引用)とあるのを読む限り、他の候補者が安倍・小池と距離を置いていれば曽我氏は出馬していなかった可能性は高い。

曽我逸郎氏のHPより

曽我逸郎氏のツイッターより

中島氏は希望の党から立候補していたが、集団的自衛権の閣議決定撤回(公式サイトより)を掲げるなど、希望の党のスタンスより左寄りの立場をとっていたので、選挙区での争点がやや不明瞭となった。中島氏は民主・民進党時代に中川村村長選挙で曽我氏や曽我氏の後継候補(現職:宮下健彦氏)を応援していたこともあり、曽我氏も中島氏も互いに悔いの残る結果となったのではないだろうか。

曽我氏の前述のコメントはこういった背景があってのことだろう。もちろん立候補して主張を訴えることは民主主義社会で正当な行為であり、一本化自体が本来邪道であると筆者は考えている。死票を制度上大量に生み出す小選挙区制自体が不本意ながらの一本化を推進しやすい。このような選挙制度は早急に改革されるべきだ。

◆長野県内 自民・希望両党に逆風

長野1区の民進党前職篠原孝が希望の党の公認を蹴り無所属で立候補して圧勝し、2区では希望の党の下条みつ氏が自民党前職務台俊介(長靴事件で内閣府大臣政務官を辞任)相手に辛うじて勝利した。10月23日放送の地元テレビ局の報道によると下条みつ氏はもともと改憲反対を訴えており、社民・共産支持層が一本化する予定だった。しかし、下条氏が希望の党から立候補したため一本化はご破算となった。下条氏が選挙戦の中、党と自身のマニフェストとかい離があるのに、なぜ希望の党にはいったのかを直接説明する一幕もあった。長野県内では中島氏に限らず、希望の党にたいしてかなり風当りが強かったと言っていい。

◆立憲民主党への警戒

以上、希望の党が長野県内で一様に伸び悩んだことに言及してきたが、一方全国的に大躍進した立憲民主党にも不安がある。ジャーナリストの寺澤有氏に枝野氏の原発事故時の発言を受けて“新党「直ちに影響はない」”と揶揄された(原発事故避難者が枝野氏や福山哲郎氏らに向ける不信感を思えば当然である)立憲民主党だが、野党第1党になったのでその影響力は無視できないものとなった。

立憲民主党のホームページをみると「北朝鮮の核実験・弾道ミサイル発射は極めて深刻な脅威であり、断じて容認できない。北朝鮮を対話のテーブルにつかせるため、国際社会と連携し、北朝鮮への圧力を強める。平和的解決に向け、外交力によって北朝鮮の核・ミサイル放棄を訴え、最後の一人まで拉致問題の解決に取り組む」とあり、自民党と全く方針が変わらないものもある。その点、Twitterや候補者アンケートで朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の意図を理解し、圧力強化へ同意しなかった曽我氏のほうが筆者としてはまだ筋が通っていると思う。

さらに危険だと思うのが枝野氏の持論だ。「日本近海の公海上で、日本を守るために展開している米海軍が攻撃された時に助けに行けるのかについて、他国の軍隊が公海上で攻撃されたという面で捉えれば、行使が認められていない集団的自衛権のように見えます。でも、わが国を防衛するために展開している艦船だという点に着目すれば、日米安保条約に基づいて自衛隊と同じ任務を負っているのだから、個別的自衛権として行使することができます」と通販生活の記事で述べているが、ここでは個別的自衛権と集団的自衛権の境が限りなく曖昧になっている。

『私にも話させて』ブログを運営している金光翔氏が以下のように過不足なく適切に要約している。

有田芳生議員のツイッターより

「安倍政権が個別的自衛権では不可能として、集団的自衛権の行使を可能にして対処した案件に関して、枝野は個別的自衛権で対処可能、と強弁しているだけの話としかいいようがない。枝野の個別的自衛権解釈(およびその帰結としての憲法解釈)は、安倍政権の解釈論よりもはるかに強引かつ説得力のないものであって、これこそが立憲主義の破壊であろう」(2017年10月19日、メモ59より引用)

同感だ。立憲民主党が大政翼賛会化し、自壊する日もそう遠くないように思われる。

◆追記:有田芳生参議院議員の曽我氏への言及

支持する・しない、好き・嫌いは自由に発言されてもかまわないし、仕事柄むしろ積極的になされるべきだが、「国会でお会いしましょう」と言う前に、とりあえず鹿砦社特別取材班の取材に答えていただきたいと思う。説明責任を果たさないまま応援されると「逆宣伝」になりかねない。応援は本来自由にやればいいので、自分でも理不尽なことを言っている自覚はあったが、選挙期間中強くそう思った。

◎[関連記事]長野5区、曽我逸郎候補(電通出身・前中川村長)のまっとうな戦争・原発・沖縄観(2017年10月20日)

◎曽我逸郎氏公式サイト http://itsuro-soga.com/

▼山田次郎(やまだ・じろう)
大学卒業後、甲信越地方の中規模都市に居住。ミサイルより熊を恐れる派遣労働者

『NO NUKES voice』13号 望月衣塑子さん、寺脇研さん、中島岳志さん他、多くの人たちと共に〈原発なき社会〉を求めて

愚直に直球 タブーなし!『紙の爆弾』11月号!【特集】小池百合子で本当にいいのか