去る11月21日のこと。ヤフーニュースで次のような見出しの記事が配信されているのを見かけ、私はドキリとさせられた。

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<公判打ち切り>さいたま地裁判断 精神疾患で5年審理停止
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記事の配信元は毎日新聞。被告人が精神疾患であることなどを理由に5年近く審理が停止されていた2つの事件について、さいたま地裁が「回復の見込みがない」などと判断し、公訴棄却の判決を言い渡したのだという。

私がこの記事にドキリとさせられたのは、動向を気にかけていた「ある被告人」の裁判のことを報じた記事だと勘違いしたからだ。ある被告人とは、埼玉少女誘拐事件の犯人で、千葉大学生(休学中)の寺内樺風被告(25)のことである。

◆判決期日が指定されないまま、時間が過ぎ去り……

埼玉県朝霞市の女子中学生が約2年に渡って失踪し、昨年3月に保護された誘拐事件で、寺内被告は未成年者誘拐と監禁致傷、窃盗の罪に問われた。さいたま地裁で行われた裁判では、当初から「勉強の機会を与えたが、させられなかったのが残念」「結局、何が悪かったんですかね」などと特異な供述をしているように報道されていた(寺内被告の法廷での発言は産経ニュースより。以下同じ)。

そして検察に懲役15年を求刑され、迎えた8月末の判決公判。寺内被告は法廷で奇声をあげ、次のような不規則発言を繰り返したという。

「私はオオニシケンジでございます」「(職業は)森の妖精です」「私はおなかがすいています。今なら1個からあげクン増量中」

松原里美裁判長はこうした寺内被告の異変をうけ、いったん休廷したのち、やむなく判決言い渡しの延期を決定。これにより、寺内被告は逮捕の時以上に世間の注目を集めたのだった。

その後、再び判決言い渡しの期日が指定されることはなく時間が過ぎ去り、次第に世間の人々は寺内被告のことを忘れ去っていった。そんな中、私がひそかに寺内被告のことを気にかけていたのは、その病状が深刻なのではないかと思っていたためだ。

◆やはり病状は深刻か

というのも、重大事件の犯人が取調室や法廷で異常な言動を示したことが報道されると、「精神疾患を患ったふりをして、罪を免れようとしているのではないか」と疑う声がわき上がるのが恒例だ。寺内被告が法廷で不規則発言を繰り返し、判決言い渡しが延期されたときもそうだった。

だが、私の取材経験上、そういう異常な言動を示す重大事件犯は誰もが演技や詐病ではなく、本当に重篤な精神疾患を患っていた。それゆえに寺内被告もそうなのだろうと私は推測したのだった。

実を言うと、私は10月下旬のある日、実際に自分の目で寺内被告の病状を確かめようと、収容先のさいたま拘置支所まで面会に訪ねているのだが……。

さいたま拘置支所。寺内被告も以前収容されていたが……

「その人は今、ここにいませんよ」

拘置所の入口で受付をしている職員は、寺内被告との面会希望を伝えた私に対し、さらりとそう言った。以前はいたのかと尋ねると、「そうですね」とのこと。では、今はどこにいるのかと尋ねても、「それは言えないんですよ」と教えてくれなかったが、考えられる答えは1つだけだ。寺内被告は今、どこかの病院で精神疾患の治療を受けているのだろう。

そんな事情から、私は寺内被告の病状が深刻だとほぼ確信しているのだが、実際問題、本稿を書いている時点でもいまだ判決言い渡しの期日は指定されていない。このままの状態が続けば、先の2事件のように公判が打ち切りになることもあるかもしれない。

忘れ去られつつある事件だが、今後も動向を追い続ける予定なので、何か動きがあれば適時、報告したい。

さいたま拘置支所

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

タブーなき『紙の爆弾』12月号 安倍政権「終わりの始まり」