私は昨年11月13日付けの当欄で、〈司法当局は今なお隠ぺい中 岡口基一裁判官「半裸写真投稿問題」の関係文書〉と題する記事を寄稿した。この記事で伝えた問題について、私はその後も司法当局への追及を続けていたのだが、東京高裁が嘘の上塗りをするかのような対応をしてきたので、報告したい。
◆同内容の文書の開示請求を「異なる理由」で退けた東京高裁
この問題の発端は、「ブリーフ判事」の異名で知られる東京高裁の岡口基一裁判官が2016年6月、ツイッターで自らの半裸写真を投稿したことについて、同高裁の戸倉三郎長官から口頭で厳重注意を受けたことだった。この件は各マスコミで報道され、世間の注目を集めた。
この報道をうけ、いち早く動いたのが、大阪弁護士会の山中理司弁護士だった。山中弁護士は2016年6月29日付けで東京高裁に対し、「東京高裁が平成28年6月21日付で岡口基一裁判官を口頭注意処分した際に作成した文書」の開示を請求したのだ。しかし、山中弁護士がツイッターで明かしたところでは、東京高裁は同年8月2日付けの文書で〈(該当する文書は)作成又は取得していない〉として請求を退けることを伝えてきたという。
ところが、それから3ケ月近く経った9月22日、岡口裁判官がツイッターで再び物議を醸す投稿を行った。それは次のような内容だ。
〈俺の処分の時に作られた膨大な資料は廃棄されずに保存されているだろうか・。ダビデエプロン画像の拡大コピーなど〉
東京高裁が山中弁護士に対し、〈作成又は取得していない〉と回答した文書が実際には存在していたことが、他ならぬ岡口裁判官により公にされたのだ。
私は当時、山中弁護士が上記のような開示請求をしていたことを知らなかったが、この岡口裁判官のこのツイートを見て、その「膨大な資料」をぜひ見てみたいと思った。そこで同27日付けで東京高裁に対し、開示請求を行った。その対象とした文書は、「岡口基一裁判官がツイッターに縄で縛られた上半身裸の写真などを投稿した件に関し、貴裁判所が作成した全文書」だ。表現こそ違うが、山中弁護士と実質的に同じ文書を開示請求したわけだ。
すると、東京高裁は同年12月12日付けの文書で「開示しない」と回答してきたのだが、ここで問題は「開示しないこととした理由」である。それは次のように綴られていた。
〈文書中には、特定の個人を識別することができることとなる情報及び公にすると今後の人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある情報が記載されており、これらの情報は、行政機関情報公開法第5条第1号及び同条第6号ニに定める不開示情報に相当することから、その全部を不開示とした。〉
繰り返しになるが、山中弁護士と私が東京高裁に開示請求したのは実質的に同じ文書だ。それにも関わらず、東京高裁はなぜ、山中弁護士に〈作成又は取得していない〉と伝えた文書について、私には存在することを認めつつ、開示請求を退けたのだろうか。
答えは明白だ。山中弁護士が開示を請求した時点では、岡口裁判官は口頭注意処分を受けた際に作られた「膨大な資料」が東京高裁に存在することをまだツイートしていなかった。そのため、東京高裁は山中弁護士の開示請求については、そのような文書は〈作成又は取得していない〉と回答した。しかし、岡口裁判官のツイートにより、そのような文書が存在するのが判明したあとで開示請求した私に対しては、文書の存在を認めざるをえなかったのだ。
換言すると、東京高裁は山中弁護士に対し、本当は存在する文書が存在しないという嘘を告げ、開示請求を退けていた疑いが浮上したわけだ。
◆新たな開示請求に対し、東京高裁が苦し紛れのおかしな回答
その後、私が最高裁に対して行った苦情の申出は、「苦情申出期間を徒過している」として退けられた。そこで私は2017年11月30日付けで東京高裁に対し、新たな開示請求を行った。その対象とした文書は、以下の2点だ。
(1)岡口基一裁判官がツイッターに縄で縛られた上半身裸の写真などを投稿した件に関し、貴裁判所が作成した全文書
(2)東京高裁が平成28年6月21日付で岡口基一裁判官を口頭注意処分した際に作成した文書
言うまでもなく、(1)は、私が2016年9月27日付けで開示請求し、東京高裁が存在することを認めながら開示しなかった文書で、(2)は、山中弁護士が2016年6月29日付けで開示請求したが、東京高裁が〈作成又は取得していない〉として開示しなかった文書だ。これらの実質的に同じ2つの文書について、異なる理由を示して開示しなかった東京高裁が今度はどのような対応をするかを見極めるため、2つの文書を同時に開示請求したわけだ。
すると、2カ月近く経った今年1月下旬、東京高裁から文書(作成日付は今年1月25日)で、(1)と(2)のいずれも開示しないという回答があった。そしてこの文書には、「開示しないこととした理由」がこう続けられていた。
(1)の文書中には、特定の個人を識別することができることとなる情報及び公にすると今後の人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある情報が記載されており、これらの情報は、行政機関情報公開法第5条第1号及び同条第6号ニに定める不開示情報に相当することから、その全部を不開示とした。
(2)の文書は、作成又は取得していない
つまり、(1)と(2)のいずれについても、「開示しないこととした理由」は前回と同じにしたわけだ。(1)と(2)は、実質的に同じ内容の文書だから、(1)だけが存在して、(2)が存在しないというのは明らかにおかしい。しかし、東京高裁は以前ついた嘘を嘘だと認めるわけにはいかないから、苦し紛れでこのようなおかしな回答をせざるをえなかったのだと思われる。
私は今後もこの問題について、司法当局への追及を続けるので、事態に進展があれば、その都度報告したい。
▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。