6月17日に、浅野健一さんの「朝米首脳会談」シンガポール取材報告が行なわれた。書くものもめっぽう面白いが、しゃべりの面白さにかけては右に出るものがない。いや、自虐ネタも交えたトーク、まなざしのある語りは聴く者を元気にさせる。そんな浅野健一同志社大学大学院教授がすこし喉を痛められ、やや滑舌にかげりを感じさせた。どうかご自愛ねがいたいものだ。
氏の報告記事は次号『紙の爆弾』(7月7日発売)に掲載されると思われるので、ここでは氏独特の節まわしで語られる語録を挙げてみよう。14回を数える訪朝では、同志社の学生を引率したこともあるという。
「学生も連れて、何度か訪朝してきました。共和国に行くなんて、親御さんが危ないんじゃないかと言うから、わたくし浅野健一が付いてるからだいじょうぶだ。いや、浅野が引率するから危険なんじゃないか、ぜったいにダメだ。となる。ですからゼミ生が10数人いても、行くのはいつも2、3人。まぁ、仕方ないですね。その代わり、河合塾の経験者はだいじょうぶですね。浅野先生がいっしょなら問題ないと。河合塾はわたしみたいに、偏向した先生が多い、いたって開明的なところですから」
歯に衣着せぬ発言からか、朝4時からの番組しか呼ばれなくなった浅野さんは、ワイド番組には厳しいことを言われる。いやいや、言うところはいちいち、頷くしかないものだ。
「トランプの気まぐれで、朝米会談が中止になりそうになった時のことです。テレビのワイド番組は『それ見たことか!』『やっぱりだ』と、みんな喜んでましたよね。平和のための会談が流れそうになったことを、かれらは喜んでいたんですよ。とくにテレ朝の羽鳥さんの番組に出てる長島一茂ね。べつに政治に見識があるわけではなし、どうして彼なんか出すんですかね。父親が偉かったというだけで、あれは野球でダメだった人でしょ。AKB48に語らせるなら、まだわかるんですよ。若い人がどう思っているのかと。あんなのを出すくらいなら、わたしを出せと言いたい。こいうことばっかり言うから、朝の4時にしかお呼びがかからないんですけど」
これは記事にされる思うが、浅野さんの新聞の読み方にはいつもながら感心させられる。
「今回の会談の記事で、歴史的な出来事である『朝鮮戦争の終結』をきちんと報じたのは、じつは4月19日の読売新聞でした。一面のここにちゃんと見出しで出てます。朝日も毎日も、この点は読売の後塵を拝しています。とくに毎日がダメで、朝日はいちおう紙面の中のほうを見ると『戦争終結』が出てるのに、毎日は活字にしていません。とは言っても毎日がなくなると困りますから、頑張ってほしいものです。というわけで、読売はやはり一流紙なんです、社説と論評さえ読まなければですね、しっかりした記事が読める」
自虐ネタや批判ばかりではない。このまなざしを読め。
「わたしは戦後の食糧難のなか、ユニセフやGHQのミルクとパンで育ちました。昨日まで敵国だった日本の子供に、国際社会は手を差しのべてくれた。中国も日本の人民も軍国主義の犠牲者だったと、自国民が日本人を殴るのを禁じた。アジアの人々は、日本人(軍民)が無事に祖国に帰れるよう、配慮してくれたのです。共和国の人々が飢えていることを笑うのではなく、手を差しのべるべきじゃないでしょうか」
そういえば、冒頭で浅野さんは「わたしは高校生の時に米国に留学しましたし、米国の建国の精神である自由・平等・博愛を愛しています。そのいっぽうで、軍事力で世界をねじ伏せようとする米国は嫌いです」イベントの後段では「いわば青い米国と赤い米国がある。青い米国(民主党)を愛しています(※赤と青は党の色であって、思想という意味ではない)」と述べた上で「今回は赤い米国(共和党)が思いきった判断をした」と。
そしてこれも、氏が記事にするであろうと思われるが、今回の米朝会談を契機にした和平への流れは、トランプ大統領と金正恩委員長の思いつきや単なるパフォーマンスではなく、韓国の文在寅政権の成立(朴大統領の追放)が舞台を準備し、朝鮮労働党中央委員会の意志統一があり、米国共和党の判断のもとに、会談と朝鮮戦争の終結への意思確認が行なわれたのだと。この政治の裏側を読み取る視点は、いまのマスメディアには露ほどもないものだろう。
横山茂彦。著述業・雑誌編集者。近著に『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)