〈風にたなびくあの旗に 古よりはためく旗に
意味もなく懐かしくなり こみ上げるこの気持ちはなに

胸に手をあて見上げれば 高鳴る血潮、誇り高く
この身体に流れゆくは 気高きこの御国の御霊

さぁいざゆかん 日出づる国の 御名の下に

どれだけ強き風吹けど 遥か高き波がくれど
僕らの燃ゆる御霊は 挫けなどしない

胸に優しき母の声 背中に強き父の教え
受け継がれし歴史を手に 恐れるものがあるだろうか

ひと時とて忘れやしない 帰るべきあなたのことを
たとえこの身が滅ぶとて 幾々千代に さぁ咲き誇れ

さぁいざゆかん 守るべきものが 今はある

どれだけ強き風吹けど 遥か高き波がくれど
僕らの沸る決意は 揺らぎなどしない

どれだけ強き風吹けど 遥か高き波がくれど

僕らの燃ゆる御霊は 挫けなどしない

僕らの沸る決意は 揺らぎなどしない〉

 

RADWIMPS『カタルシスト』

別段驚きもしない。むしろ「やっぱりそうだったか」という程度。くしゃみが出る前、鼻のなかで痒いような、くすぐったいような不快さに似たような感覚とでも言おうか。

読者諸氏はご存じであろうけども、上に紹介した私からすれば「頭が修正不能にどうかした」人間の錯乱。“時代錯誤”な言葉の羅列ではあるが、同時に“時代の先端感覚”であることもまた確かである心情の吐露は、RADWIMPSが、「HINOMARU」とズバリの名を冠して作詞、作曲したものだ。正確には同グループの野田洋次郎の手になる楽曲である。

私はもうかなり前だが、若い友人がRADWIMPSのファンで、熱くその素晴らしさを語ってくれたうえで、何曲かを聞かせてもらったことがあった。「あ、また、この手の奴らか……」と内心はちょっと不快ではあったけれども、若い友人には悪いので「ふんふん」と聞いていた。ただ「野田君は帰国子女で慶応にもいってすごいんだよ」と持ち上げるので「『帰国子女』と今は言わないよ。『帰国学生』ね。それから『帰国学生』みんなが優れているというのは、誤解だよ」とだけ話した記憶がある。

若者から広い支持を受けているRADWIMPS。彼らの楽曲数曲を聞いただけ、どうして直感的に私は気持ち悪かったのであろうか。あえて同類の経験を挙げれば、その昔X-JAPANというバンドに同じような気持ち悪さを感じたことがあったことを思い出す。

かといって私はRADWIMPSもX-JAPANも楽曲をろくに聞いたことがない。というより聞きたくない。優れた音楽性を持っているのであろうが、彼ら(RADWIMPSとX-JAPANは音楽に詳しい人には全然異なるグループであるのだろうけども)の楽曲からは、「ベールに隠された国家のようなもの」を直感してしまうのだ。そしてそれはRADWIMPSを熱心に聞く若者たちへの私の不安にも共通しているように思う。

映画「君の名は」が少し前に大ヒットした。観に行こうかな、と思った。知人にストーリーを聞き「音楽がハイテンポのRADWIMPSで良かった」と聞いて観る気がなくなった。実はそれくらいに私はRADWIMPSを無意識に嫌悪していた。X-JAPANも同様だった。当時仲の良かった私より年上の韓国からの留学生が「X-JAPANは凄いわ。いっぺん聴いてみ」と言ってくれたので、貸してもらったCDを車の中で聴こうとしたが、10分持たなかった(その後X-JAPANのYOSHIKIが「平成天皇在位10年の祝賀行事」に招かれる)。何かが気持ち悪いのだ。

そんな中6月26日、RADWIMPSのコンサートが神戸で行われるので「HINOMARU」を気に入らない人たちが抗議行動を行おうとしたら、1名が不当逮捕されたとのニュースに接した。

私は相矛盾するようであるが、「あんな連中」(RADWIMPS及びそのファン)に抗議をしてもまったく無駄だと考える。何故ならば、野田は「HINOMARU」にかんして「……日本に生まれた人間として、いつかちゃんと歌にしたいと思っていました。世界の中で、日本は自分達の国のことを声を大にして歌ったりすることが少ない国に感じます」と述べ、「まっすぐに皆さんに届きますように」と書き込んでいた「確信犯」だからだ。

野田は私の敵であり、そのファンも敵だ。さらに言えばそれが広く受け入れられる時代そのものが、私や私と同様に考える人たちを「殺しに」かかっていると体感する。「HINOMARU」の歌詞が明らかになった時、私はかつて私にRADWIMPSを教えてくれた若い友人に「私はあなたたちからこのように『殺されかけています』」とメールを送った。返信はない。

「表現の自由」だの、「国を愛して何が悪い」、「批判するのが間違っている」とRADWIMPSには「正しい」擁護論が多いそうだ。結構。私はその「正しさ」自体が気持ち悪く、「正しさ」に完全包囲されてしまったと感じる。早い話がもう手遅れなのだ。RADWIMPSよ! 堂々と「HINOMARU」を歌いまくれ! 時あたかもサッカーワールドカップで日本代表が16強に勝ち残り、無残に敗退したけれども、渋谷にはパブリックビューに若者が詰めかけ、試合の何時間も前から「君が代」を歌って盛り上がっていた。「愛国心」が大いに燃え盛っている最中だ。

ワールドカップが終わっても、NHKで毎日「HINOMARU」を何回も流せ!だって「正しい」んだから。震災後にひとびとを騙した「花は咲く」のように。一刻も早く日本が改憲できるように! 自衛隊が「日本軍」になれるように! 再び朝鮮半島や中国、アジアに侵略できるように! そして侵略したアジア各国に、現地の人の気持ちを踏みつぶして再び「日の丸」をはためかせる日が来るように!

RADWIMPSもファンもそう望んでいるのだろう? ちがうのか?

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

月刊『紙の爆弾』8月号!

大学関係者必読の書!田所敏夫『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY 007)

大雨により河川の氾濫や土砂崩れにより被災された方々、被害にあわれた方々には、あらためてお見舞いを申し上げます。あと片付けは途方もないエネルギーを使いますので、一転して高温に見舞われ蒸し暑いなか、くれぐれも皆様体調管理にはご留意くださいませ。

大雨による大災害に西日本が見舞われる中、週明けの9日午前、東京の知人が「テレビを見ても何も起きてないように見える。NHKは普通に番組をやっているし、形だけでも安倍首相が作業服を着ている姿もない。民放の方がまだましだ。日本で起きている災害よりも、タイで洞窟に取り残された子供たちの報道の方が印象深いくらいだ」と教えてくれた。


◎[参考動画]上空から見た豪雨被害=広島(時事通信映像センター 2018/07/07に公開)

◆国内で100人死んでも他人事かのような首都圏メディアの異常

関西では先週末から8日にかけて、NHKや民放も一時通常番組を切り替えて、災害情報を伝えていたようだ。中国、九州も同様だったらしい。しかし、意図的なのかそうでないのかはわからないが、東京(中央)と被災現地には情報量と、被災実感の凄まじい差があるようだ。先の知人は「永田町にいると、災害に対して鈍感になるんですよ。国会周辺は高台だから水害の恐れはないし、東日本大震災時も国会が丁度開かれていましたが、あの程度(東京でも死者が出たが、国会議事堂に被害が出ることはなかった)の揺れでしょ。これは恐ろしいことだなと思いました」と続けた。

このたびの大雨は自然災害であるから、誰にも止めることはできなかった。その点で、あらかじめ人間の意志で防ぐことができる原発の事故とは性質が異なる。台風、地震、大雨、竜巻……。自然現象は一部を予想することはできても、それを止めることはできない。私たちは地面があり、山がそびえ、川が流れる地形が「動かないもの」である前提で、住み家を建て生活している。でも日本列島に限らず地球上のあらゆる表面(陸地、海を含め)は、地球全体から見れば、実に薄っぺらい「地殻」の上に乗っかっているにすぎない。

地球の直径は12,742kmで日本列島の長さ(3,328km)の約3.8倍ほどだ。それに対し地殻の深さは5-6kmといわれるので、高熱の「内核」、「外核」、「下部、上部マントル」と、厚さを比べれば、地殻は「卵の殻」のように薄いものであることがわかる。

薄い卵の殻の上で、造山運動が起き、プレートが動き、降雨で山が削られる中で、現在の陸地や地形が形造られてきた。私たちの生命は長くとも100年ほどだが、地球は何十億年を費やして現在の構造に至っているのであり、その動きは今でも止まっていない。だから地震が発生する。動きが続いている「卵の殻」の上で私たちが生活している実感は、地球史的時間からは測定できないような短時間であるが、地球は「動いている」ことは再確認されてよいだろう。

そして、天候については予報技術がかなり向上してきたので、台風や大雨にはかなり細かい注意報や警報が出されるようになった。多くの人が持つ、携帯電話に直接警報を伝える手段も進化している。それでも9日までに死者116人、安否不明者80人超、2万人超が避難している未曽有の事態(しかもこの数字は時刻ともに変化するだろう)を防ぐことはできなかった。

河川の氾濫は個別の河川によって、若干事情の違いがあるかもしれないが、気象観測史上は例のないほどの大雨が降った、そのことが大災害の原因である。警報は豪雨の中何度も鳴った。できうる予報と警鐘は大雨の前から伝えられたけれども、どの地域でどれ程の被害が出るかまでは、人知の及ぶところではない。無数の国民が不安の最中で気が気でないとき、このようなことに興じていた人間たちがいた。

◆異常気象以上に深刻な安倍内閣の「異常神経」

7月5日、既に大雨が降り始めていた最中、醜悪な笑顔で宴に興じる連中の姿を全国民は、しっかりと心に刻むべきだろう。大雨は「8日頃まで続く見込み」であると天気予報は何度も警告を発していた。さらに関係なさそうではあるが、6日7名の死刑執行を行うことに了承した上川法相は「7月3日に死刑執行に署名した」と死刑執行後の記者会見で述べている。

「7名の国家殺人遂行」を命じたあとに、このような馬鹿馬鹿しい写真に笑っておさまることができるのが上川であり、深刻な災害到来が確実な中、笑ってワインを飲んでいられるのが安倍の正体だ。

別に「会合を慎め」とまで私は思わない。でも仮定して考えてみよう。「7名の人殺し」を明日に控えた上川の立場がもしあなただったら、笑って馬鹿げた宴会に興じることができますか? なにかが心に引っ掛からないだろうか?

首相安倍には、豪雨被害が確実な時期に、首相として国政とは無関係の「若手議員との懇談会」にどうして「初参加」する動機が生まれるのだろうか?

「異常気象」とか「記録的な」と大雨は表現されている。確かにそうだろう。しかし、この連中の「異常神経」も同様ではないか。「7名の人殺し」は自然災害ではない。その執行を言い渡した上川は、執行の前日に宴に興じている。安倍の顔もある。安倍が「災害対策本部」を立ち上げようが、陣頭指揮に立とうが、被害に変わりはなかったろう。にしても、もう少し、人間としての配慮や慎みを感じる神経は持てないものなのか。安倍自身が改悪した教育基本法により、教科化された「道徳」をこの連中は微塵も持ってはいないではないか。醜悪の極みだ。

あらためて災害被害にあわれた皆様にお見舞い申し上げます。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

月刊『紙の爆弾』8月号!

大学関係者必読の書!田所敏夫『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY 007)

このたびの集中豪雨によって被災された方々に、お見舞い申し上げます。亡くなられた方々のご冥福をお祈りいたします。

◆くり返された水面下の話し合い

1978年5月の出直し開港の前に、財界首脳が労働界を介して反対同盟との話し合いを行なったのは前述したとおり 。政府の無為無策に対して、財界が音頭をとることで休戦協定を結ぼうというものだった。ところが千葉県自民党と千葉日報の暗躍で、戸村一作委員長が福永運輸大臣と会談することになり、財界首脳の「和解調停」はついえた。政府運輸省としては、戸村委員長と話し合うことで誠意は尽くした、ということになったわけだ。

これが結果的にはどうだったのか。たとえ財界が音頭をとったところで、おそらく政府当局者(福田政権)は休戦協定を結ぶことはなかっただろう。反対同盟が財界首脳との協議で要求していた「逮捕者の即時釈放」(超法規的措置)を、司法当局はもとより行政府が肯(がえ)んじるはずがない。反対同盟の総意もまた、中途半端な和平ではなく「空港絶対反対」だった。じっさいに労働者学生の血が流され、獄中には捕らわれた若者たちがいるのだ。そして死者が出ている以上、安易な妥協策を講じるのは、即座に「裏切り」と言われかねない。

とはいえ、日本人同士が血を流し合う空港反対闘争の終結、あるいは円満な解決を、反対同盟農民も望んでいた。秋葉哲さん(救援対策部長)は「政府が二期工事を断念すれば、こっちも闘争の矛をおさめる準備がある」と語っていたものだ。これは初期の財界調停案でもあって、第三の首都圏空港を千葉県船橋の沖に海洋空港として建設する。都心からのアクセスが悪い三里塚空港は、貨物便用途の空港とする。そんな構想は現実的に感じられていたものだ。そのための水面下の交渉が、何度となく繰り返された。

80年代の全般を通して、反対同盟の幹部が政治ブローカー(農本系右翼や新左翼の元幹部)の手引きで、自民党政治家に接触した。そしてそのたびに、写真入りですっぱ抜かれてしまい、交渉は頓挫するのだった。すっぱ抜かれたものは氷山の一角で、表面化しない交渉もおびただしくあったのだろう。あるいは、反対同盟の幹部がひそかに自分の土地を空港公団に売ってしまい、それが露顕することもあった。その幹部にとっては、背に腹は替えられない事情があったはずだ。何も食わずに闘えと言うほうが、そもそも無責任ではないか。土地を奪われては食べていけないという原点から、空港反対運動は出発したのである。反対運動をやっているがために、食えなくなったのでは原点にもとるといえよう。


◎[参考動画]三里塚 大地の乱 前編(newleft1984 2009/09/19 に公開)

◆都市ゲリラ化した反対闘争

いっぽう、話し合いが模索されるなかで、支援勢力(新左翼)はどんな動きをしていたか。開港後の80年代は、飛び道具をつかったゲリラの時代だった。それも自動発火装置や金属弾、そして70年闘争いらいの爆発物も登場した。空港敷地内や建造物への攻撃、ジェット燃料のパイプラインへの攻撃。そして90年代に入ると、個人へのテロが急増した。千葉県の土地収用委員へのテロ、空港関連事業を請け負った企業の個人をねらったもの、その家屋を爆破するなどである。

あえて運動の一環としてのゲリラ闘争とは書かない。それが敵の弱い環をねらう戦争の基本戦術であったとしても、運動から孤立したテロリズムは空港を廃港にするという目的からは大きく逸れているとわたしは思う。空港を廃港にするというのならば、国民的な議論を経なければありえないはずだった。三里塚に臨時革命政府(労働者権力)ができるのならともかく、廃港は政府の決断をもとめることになる。ということは、政権交代や政治危機(政権が立ち行かない事態)をつくるよりないのだ。

開港を阻止したとき、国民の4分の1が空港よりも緑の大地を取りもどすべきだと、空港建設に反対だったのだから、大衆運動と国民的な議論による廃港の可能性はないわけではなかった。よしんば武装闘争が政治革命を目的にしたものであったとしても、物理的に政治権力を倒すには国民(人民)の圧倒的多数が政府を追い詰め、いっぽうで警察や軍隊の一部が革命の側に来るのでなければ成立しない。それは歴史上の革命が教えるところだ。先進国における革命とは帝国主義支配下の民族解放戦争ではなく、人と社会の変革なのだから――。

具体的にしめしておこう。空港の施設建設を請け負った企業の寮が放火され、労働者2名が殉職している。やはり空港関連企業の幹部宅が爆破され、無関係の父親が死亡している。公団職員の自宅が焼かれ、土地収容委員がテロで重傷を負った。三里塚闘争は大衆運動からかけ離れた、テロリズムになってしまったのだ。

◆円卓会議という名の懐柔策

90年代に入ると、宇沢弘文・隅谷三喜男といった学者が調査団を立ち上げて、三里塚闘争の収拾策をはかるようになる。宇沢にしても隅谷にしても、研究者としての人生の仕上げに三里塚空港問題という難題をクリアすることで足跡を残したい。そんな気配が感じられたものだが、善意の第三者が紛糾した事態を収拾するのは、悪いことではないだろう。調査団はシンポジウムを開催して、これは円卓会議と呼ばれた。誰も上位ではなく、下位でもない。対等の立場で話し合い、そこで得られた結論には従う。やれるものなら、やってみてくださいというのが、わたしたち熱田派支援の気分だった。もちろん、中核派に指導された北原派は不参加である。この時点で、シンポジウムは半分しか意味がないことになる。もしも北原派を会議の席に着かせていたら、このシンポジウム(円卓会議)は歴史的な偉業として歴史に名を残したであろう。

円卓会議では政府・空港公団側から一方的な建設計画と強権的な土地収用についての反省が表明され、事実上の「謝罪」が行なわれた。隅谷調査団およびシンポジウム(円卓会議)の、それは政府に対するスタンスであったから、政府・空港公団は消極的にではあれ建設方法の問題点を「謝罪」るのには、やぶさかではなかったはずだ。いや、それ以前に江藤隆美運輸大臣が反対同盟に謝罪を表明していたのだから、いまさら頭を下げるのをためらうことはなかったはずだ。

その意味では、学者たちが主導した円卓会議は形式的なものにすぎなかった。事実、その後の空港建設は機動隊を前面に出した「強制措置」こそ採られなかったものの、法的な手段で反対派農民を追い詰めるものだった。日々の生活を圧迫する騒音と莫大な移転費用の補償が現実の問題となった。それを準備した円卓会議は、かたちを変えた政府の「懐柔策」にすぎなかったのである。

◆三里塚闘争が残したもの

それでもわたしは、政府の「謝罪」をもって、三里塚闘争は終焉したのだと思う。いまも騒音下で苦しみを余儀なくされている人びと、あきらめずに「空港絶対反対」を闘っておられる人びとには敬意を表しながらも、闘争をやめる権利は農民たちにはあったのだと思う。不遜ながら思うことがある。膨大なエネルギーをもって相互に攻防した敵味方をこえて考えるに、国家的なプロジェクトを誤れば取り返しのつかないことになる。そんな貴重な教訓が残ればいいのではないか。いまは原発再稼動の問題および電力計画に、その教訓が生かされるのかどうかだ。そして思いを馳せるのは、戦争ゴッコのなかにも愉しいことは多かったという懐旧であろうか。私的なことも長々と連載しましたが、ご精読ありがとうございました。

今年はあまり盛り上がっていませんが、いわゆる「1968革命」から50年です。全世界が苛烈なまでにイデオロギーと政治的な地歩をかけて争った風景から、50年もの時が過ぎたのです。そのことが残した意味・意義・内省すべきことを、遅れてきた世代も追体験したのだとわたしは思います。いまもそれは続いているかもしれないし、これから負の遺産を払しょくした社会運動が生まれるのかもしれない。そのきざしは確かに、78年のわたしたちにはあったのですから。(この連載は随時掲載します)


◎[参考動画]三里塚 大地の乱 後編(newleft1984 2008/06/16 に公開)

▼横山茂彦(よこやましげひこ)

著述業・雑誌編集者。3月横堀要塞戦元被告。主著に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)、『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

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隙を突いた健太のパンチ等は度々ヒット、ベテランの上手さが光る

◎NJKF 2018.2nd / 6月24日(日)17:00~21:15
主催:NJKF / 認定:NJKF

◆第9試合メインイベント 66.5㎏契約 5回戦

WBCムエタイ日本ウェルター級チャンピオン.健太(E.S.G/66.25kg)
VS
DEEP☆KICK65㎏級チャンピオン.憂也(魁塾/66.6→66.45kg)
勝者:健太 / 判定3-0 / 主審:竹村光一
副審:多賀谷49-47. 中山48-47. 和田49-48

健太の右ストレートヒット、ここから連打して右フックでダウンを奪う

初回は様子見でも健太は憂也の高い蹴りと伸びるパンチに警戒。第2ラウンドには距離感掴んだ健太のフェイントからの右ストレートでグラつかせた後、ラッシュをかけ右フックでダウンを奪う。ここから更に憂也を捻じ伏せるかという勢いも、凌いだ憂也を仕留めるには至らず、一進一退の攻防が続く。必死の形相の憂也に、一発のフイ打ちでパンチやヒジ打ちのクリーンヒットが目立ったのは健太。若い憂也を捻じ伏せるつもりも、倒すに至らなかった健太でも表情にはゆとりある判定勝利でした。

反撃貰う危険ある技、バックヒジ打ちを見せる健太

右ヒジ打ちを見せる健太、切るだけでない倒すヒジ打ちも持っている

左フックがヒット後、崩れるクンタップを追撃するYETI達朗

◆第8試合セミファイナル 70.0㎏契約3回戦

WBCムエタイ日本スーパーウェルター級チャンピオン.YETI達朗(キング/69.9kg)
VS
クンタップ・チャロンチャイ(タイ/69.55kg)
勝者:YETI達朗 / TKO 1R 1:36 / 主審:宮本啓介

蹴りとパンチの様子見、その中でも前に出るYETI達朗、ややロープ際に下がり気味のクンタップへ、いきなり視線を下に落としたフェイントの左フック一発でアゴに命中。崩れていくクンタップに連打で仕留めてダウン、レフェリーストップとなる。
「本日の主役は俺です」と言い切ったYETI達朗、そのインパクトある勝利でした。

ロープ際へ下がるクンタップへ攻勢を掛けていくYETI達朗

しぶとい蹴りが続いていった鈴木翔也(右)の前蹴り

2階級制覇した鈴木翔也、更に上があるタイトルへ進まねばならない

◆第7試合 NJKFライト級タイトルマッチ 5回戦

NAOKI(立川KBA/61.35→61.15kg)
VS
挑戦者1位.鈴木翔也(OGUNI/61.23kg)
勝者:鈴木翔也 / 判定0-2 / 主審:多賀谷敏朗
副審:竹村47-49. 宮本48-48. 和田48-49

互いの戦略に基づく積極的な蹴りパンチの攻防はどちらが主導権を取ったかは難しい見極め。

第2ラウンドにNAOKIの肘で鈴木が右眉を少々カット後、第3ラウンドに、偶然のバッティングらしい衝突で鼻を打撲したNAOKI、折れてはいない様子だが、鼻血が大量に出て息が苦しそうになる。

第4ラウンドにも鈴木のヒジによる左目尻の出血も苦しい展開を導いてしまったNAOKI、鈴木のしぶとい攻めが続き、諦めない気持ちでNAOKIを抑えた鈴木の粘り勝ちとなる。

この日のNJKFタイトル戦はWBCムエタイルールが起用されており、試合続行不可能となっても負傷判定は無くTKOとなります。それでレフェリーによる審判員、タイムキーパー、インスペクターに対する有効打かバッティングかのジェスチャーはありませんでした。通達はしてもしなくても問題は無いところ、つい確認しようと癖が出るスタッフや我々。ルールを理解していた多賀谷レフェリーの方が一枚上手でありました。

鼻血が止まらないNAOKI(左)も懸命に劣勢を免れようと攻勢に出る姿勢

◆第6試合 NJKFフライ級王座決定戦 5回戦

3位.松谷桐(VALLELY/50.8kg)vs 1位.大田一航(新興ムエタイ/50.8kg)
勝者:松谷桐 / TKO 2R 0:53 / 主審:和田良覚

初回、スピーディーな展開から素早い松谷の一瞬のヒジが一航を捉えたか、続行するも第2ラウンドに傷が悪化し、ドクターの勧告を受入れレフェリーストップ。ニューウェーブ到来した16歳対決は松谷桐が王座獲得。

16歳ニューウェーブ対決を制したのは松谷桐、今後も両者はどんな成長を見せるか

陣営と撮影に収まる新チャンピオン松谷桐

一進一退の攻防で引分け防衛を果たしたのは前田浩喜(左)

◆第5試合 NJKFスーパーバンタム級タイトルマッチ 5回戦

チャンピオン.前田浩喜(CORE/55.3kg)
VS
挑戦者3位.久保田雄大(新興ムエタイ/55.3kg)
引分け 三者三様 / 主審:竹村光一
副審:多賀谷48-49. 和田49-49. 中山50-48

蹴られても蹴り返し、更に蹴っていく前田だが、蹴り勝つにはインパクトが弱かったか。冷静なベテラン前田の当て勘が上回っていた印象があるが、久保田の負けない手数足数、ラストラウンド終盤の攻勢が目立ったか引分けに落ち着く。この試合の評価は観る人によって分かれる難しい展開。前田浩喜は初防衛となる。

◆引退記念エキシビジョンマッチ(1分30秒制で2人を相手)

エキシビジョンマッチによる兄弟対決を裁く父親の内藤武(=宮越新一会長)

宮越宗一郎(拳粋会)
VS
WBCムエタイ・インターナショナル・フェザー級チャンピオン.MOMOTARO(OGUNI)
WBCムエタイ・インターナショナル・ライト級チャンピオン.宮越慶二郎(拳粋会)

宮越宗一郎は1987年2月12日、埼玉県出身。父は元・新格闘術ライト級1位.内藤武(士道館)で、現・拳粋会ジムの宮越新一会長。2005年12月にデビュー。父親似のスタイルは変則的な動きをするも、重いパンチ、蹴り、ヒジ打ちを武器にWBCムエタイ日本ウェルター級とスーパーウェルターで2階級制覇。2015年11月にはWBCムエタイ・インターナショナル・スーパーウェルター級王座獲得。

「今後は弟の宮越慶二郎を強くする為に自分が相手になってやったり、若い子を育てる為にもっと指導していきたい」と語る。

スポットライトを浴びた定番テンカウントゴング

◆第4試合 NJKFスーパーライト王座決定戦 5回戦

1位.畠山隼人(E.S.G/63.05kg)vs 2位.真吾YAMATO(大和/63.45kg)
勝者:畠山隼人 / TKO 1R 2:11 / 主審:宮本和俊

真吾が畠山から右ストレートでフラッシュダウンを決めるが、バランス崩した感じで瞬時に立ち上がり、これがWBCムエタイルールでノックダウンとはならず、今度は畠山が右フックで真吾を逆転失神KOする衝撃的終了。

畠山隼人が真吾YAMATOを右フックで仕留める。これも主役級KO

新チャンピオン俊YAMATOがポーズをとる

◆第3試合 NJKFバンタム級王座決定戦 5回戦

3位.日下滉大(OGUNI/53.3kg)vs 2位.俊YAMATO(大和/53.45kg)
勝者:俊YAMATO / 判定0-3 / 主審:多賀谷敏朗
副審:宮本48-49. 和田48-49. 竹村48-49

当初出場予定の大田拓真が負傷欠場したことにより、4度目の対戦となったこのカード。手の内の分かる相手で、初回からの主導権争いをするようなスピーディーな蹴りとパンチの攻防。その展開は変わらずも中盤にはその距離が縮まって、倒すかダメージを与えにいく攻防。最後まで踏ん張った俊YAMATOが際どくも判定勝利し、王座獲得。

4度目の対決。俊YAMATO(右)が日下滉大に右ストレートをヒット

※前座ヤングファイト2試合は割愛します。

マスコットガールと並んでポーズをとる健太

《取材戦記》

健太はこの1年間で11試合を消化。「KNOCK OUT」や海外のイベントに出場し、勝ちもあれば負けもあるが、怪我も無く、モチベーションの低下も無く戦えることに、ミスターパーフェクトを目指す健太であることが伺えます。

そして「僕はもう一度NJKFを満員にしたい」と言うように、メインイベント最終試合に進むにつれて空席が目立っていく。かつて満員が続いた2006年開催の真王杯トーナメント2階級決勝のような超満員を戻すべく、スーパーライト級に落として大和哲也(大和)との対戦など、好カード実現に頑張っていく意気込みを語りました。

NJKF興行では1996年の設立以来、超満員だったことは何度もあります。ここ数年を見ると、この団体だけではなく、最終試合のメインイベントへ進むにつれ空席が半分以下に目立っていくことは、よく見られる現象です。それは応援する選手の試合が終わると、支援者や仲間内が帰ってしまうことにあります。それではチケット完売であっても超満員とは言えない状況でしょう。今の時代では動画配信で後でも観られることがあるでしょうが、最後まで会場で生観戦されないことに懸念する関係者の声は多くありますが、これを打ち破ろうと健太のアピールがありました。そしてその他の団体興行でも打開策を考えてイベントを進めている苦労が感じられます。

NJKF 2018.3rdは9月22日(土)に後楽園ホールで開催予定です。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

7日発売!『紙の爆弾』8月号!

一水会代表 木村三浩=編著『スゴイぞ!プーチン 一日も早く日露平和条約の締結を!』

7月6日早朝から「麻原彰晃死刑執行」のニュースが、列島を襲う大雨情報の中を狙ったかのように散発的に報じられ始めた。オウム真理教関連の死刑確定囚は13人。そのうち実に7人の死刑がこの日正午までに執行された。

オウム真理教関連の死刑確定囚は3月に東京拘置所から、全国の「死刑執行」施設のある拘置所に移送されており、「東京五輪前に一斉執行があるのではないか」と関係者の間では推測されていたが、「東京五輪前」どころか国会会期中で、全国的気象災害が懸念される非日常的天候の中、戦後史最大人数の「同日死刑」が執行された。

◆「人の死を止められなかった」経験から死刑制度を考える

私は「死刑廃止」論者である。

どんな悪党でも、何人殺人を犯そうが、国家による死刑には絶対反対である。理由は簡単だ。「人を殺す」ことは(正当防衛や殺意のない過失致死などを除いて)、絶対にあってはならない「悪行」である、と確信するからだ。この議論になると必ず「じゃあお前の家族や子供が殺されたらどうする?」という問いを投げかけてくる人が多い。私の回答は、

「私はたぶん殺人者に敵意や殺意を抱くだろうが、私的復讐感情を吸収するのが、成熟した法治国家の姿である。私が殺人者を殺せば、復讐感情の連鎖が起こる。『感情』の問題と『法』の問題を混乱させるべきではない」

である。表面的に格好をつけているように聞こえるかもしれないが、私は過去に、「ひとの死を止められなかった」経験がある。それも複数人である。私がもう少し注意深かったら、神経が繊細であったら、忙しくなかったら彼ら・彼女らが命を失うことを止められた可能性がある。つまり私は人の死に積極的に関与したわけではないが、自然死ではない「死」を止めることができたかも知れない立場の人間であった。その経験は私をいまだに「縛って」いる。ときどきに彼ら・彼女らの顔や言葉を思い出す。私は「殺人犯」としての責任はなかったにせよ、彼ら・彼女らの命を「途絶えさせる」ことに関係した責めを負って生きている。

と同時に私は殺意に近い感情を長年抱いている対象者が複数いる。私を「殺そう」と企図した人間や、私を破滅させようと徒党を組んでいた連中である。しかし、私は前述の原則に則って、絶対に怨嗟による「殺人」を犯さない、と決めている。決めているが情念の部分では「憎い」ことに変わりはない。

後先考えずに「殺(や)ろう」と思えば、「殺(や)れた」瞬間はいくらでもあった。が、愚かな私でも社会を学び、世界に接し、法に触れる中で「殺人」には絶対に手を染めてはならない、と確信が持てるようになった。「殺人」は個人による殺意に基づく「殺人」や、権力による法を後ろ盾とした「殺人」(死刑)、さらには国家間の意思による「大規模殺人合戦」(戦争)があり、それらは規模や動機の違いはあれ「人を殺す意思を持った行為」である点においては共通ではないのか。であるならば「公の言い訳」を与えられた大規模殺人合戦(戦争)は、ほぼ「絶対悪」(侵略者に対する抵抗など少数を除き)であるとの結論に至った。

回りくどいようであるが、「戦争」を嫌悪し、忌避するのであれば、「死刑」にも反対せねば理屈が一貫しない(世間では「戦争」も「死刑」も賛成の言説が増えているようである)。極めて簡単な論理なのだが、いまだに「被害者の復讐感情」を過剰評価する、精神性から抜けきることができない日本文化では、まだ「死刑」が存置されている。私は被害者感情を「無視しろ」、「放置しろ」と思ってはいない。私自身、殺意に基づいて「殺され」かけた経験があるので、被害者感情の一端は理解している。だから被害者感情は「死刑」ではない、それこそ国家によるケアーで解決が目指されるべきものであると考える(被害者感情が解消できるか解消できないかは、簡単な問題ではないが)。

ようやく日弁連も「死刑廃止」を遅まきながら方針として打ち出した。繰り返すが理屈は簡単だ。「人殺し」は「悪」なのだ。「人殺し」に対する処罰が「人殺し」であるのは、明白な矛盾であり倒錯だ。

◆オウム真理教はなぜ権力から放置されたのか?

この期に及んだので当時からの疑問を披歴する。オウム真理教はどうしてあそこまで肥大化し武装するまで、権力から放置されたのか? オウム真理教が急成長したのは、新左翼対策に大幅な人員増がなされた公安警察や公安調査庁の人員が余り、彼らが「仕事」を探さなければならない時期であった。新左翼の退潮により「仕事を探していた」はずの公安警察、公安調査庁は、1989年に坂本堤弁護士一家殺人事件を起こし、素人目にも危険性が明らかであったオウム真理教をどうして、監視対象にしなかったのか(公安調査庁に対しては「廃止論」が現実的に議論されていた時期でもあった)。

ヘリコプターや武器材料をロシアから輸入していること、ロシアでも広範な布教活動を行い現地から短波ラジオ放送を行い、マフィアと結びついていたことを、公安警察や公安調査庁は、本当にまったく知らなかったのか。この点がどうしても納得できないし、なによりも不自然である。

同日7人の死刑執行という「国家による暴虐」が行われた日に、他人事としてではなく「死刑」を考えよう。その延長線上に、おぼろげであった輪郭が像を結びだしてきた「戦争」があるのだ。内に向けては「死刑」、外に向けては「戦争」。国家の実像がそこにある。


◎[参考動画]オウム真理教の教祖・麻原彰晃こと松本智津夫死刑囚(63)ら7人の死刑執行を受けて「ひかりの輪」の上祐史浩代表が会見(ANNnewsCH 2018/07/06公開)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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英BBCは伊藤氏を取材し、「日本の秘められた恥(Japan's Secret Shame)」というドキュメンタリー番組を放送した(同局のHPより)

伊藤詩織氏というジャーナリストの女性が、山口敬之氏という元TBSワシントン支局長の男性にレイプされたと実名で告発したうえ、1100万円の損害賠償などを求めて東京地裁に提訴した件では、伊藤氏が海外のテレビに出演したりして、ますます注目度を高めている。

ツイッターなどを見ていると、この伊藤氏の活躍を支持者の人たちは大変喜んでいるようだが、1つ注意したほうがいいことがある。それは、山口氏が伊藤氏にレイプドラッグを飲ませたという話については、事実であるかのように吹聴しないほうがいいということだ。

なぜなら、伊藤氏はこれまで会見や取材、『Black Box』という著書などで再三、「レイプドラッグを飲まされたと思っている」などと訴えていたが、訴訟の中では、山口氏にレイプドラッグを飲まされたとは主張していないからである。

◆「山口はレイプドラッグを飲ませた」と吹聴するリスクとは

そのことを私が初めて知ったのは、今年1月に東京地裁でこの訴訟の記録を閲覧した時だった。正直、意外性は感じなかった。なぜなら、伊藤氏本人も著書などでは、山口氏にレイプドラッグを飲まされた確証が得られていないことを明かしていたからだ。

伊藤氏の著書によると、事件があったという日、山口氏にレイプドラッグを飲まされたと考える根拠は、(1)山口氏と一緒にお酒を飲んではいるが、自分は酒がとても強く、意識を失ったことなど一度もないこと、(2)その時の自分の記憶障害や吐き気などの症状が、インターネットで調べたレイプドラッグの症状と驚くほど一致していること――などだが、その程度の根拠では、たしかに訴訟の場で裁判官に事実と認定してもらえる可能性は低いだろう。

 

BBC「Japan's Secret Shame」より

そう考えると、伊藤氏が訴訟の中で、山口氏にレイプドラッグを飲まされたと主張していないのは、賢明な判断だ。上記の(1)や(2)程度の根拠でレイプドラッグを飲まされたなどと主張すれば、むしろ裁判官の心証も悪くなりかねないからである。

だが、伊藤氏はそれでいいとして、ツイッターなどで確証もないのに「山口は詩織さんにレイプドラッグを飲ませてレイプした」などと吹聴している支持者の人たちはどうだろうか?

そういう人たちは、山口氏に名誉棄損で訴えられるリスクをもう少し考えたほうがいいと私は思う。ツイッターの発言でも名誉棄損で訴えられることはあるし、名誉棄損訴訟では、訴えられた側が自分の発言の真実性について立証責任を負うからだ。

 

BBC「Japan's Secret Shame」レビュー(2018年6月28日付けガーディアン)

伊藤氏本人が訴訟で立証できないレイプドラッグ被害を、その時の状況などを直接的には知らない無関係の第三者が立証できるわけがない。山口氏に訴えられた場合、負ける可能性は決して小さくないだろう。

この訴訟に関しては、当欄で過去2回報告した通り、報道量は多いわりに訴訟記録を「取材目的」で閲覧している者がほとんどいないのが現実だ。中には、訴訟記録も閲覧せず、確たる根拠もなく山口氏が伊藤氏にレイプドラッグを飲ませたのが事実であるかのようにインターネットなどで喧伝している報道関係者もいるが、あまりにも無責任である。そういう人物たちこそ、山口氏に訴えられたらいいのに、と私は心から思う。

なお、伊藤氏は著書などで、山口氏のパソコンにより性行為中の様子を撮られたと感じたとも発言しているが、訴訟では、そのような撮影の被害も主張していない。

◎[関連記事]伊藤詩織氏VS山口敬之氏の訴訟「取材目的の記録閲覧者」は3人しかいなかった 
◎[関連記事]伊藤詩織氏VS山口敬之氏訴訟続報 ホテルの「防犯カメラ映像」をめぐる新情報 

◎[参考動画]BBC「日本の秘められた恥(Japan’s Secret Shame)」
Daily motion https://www.dailymotion.com/video/x6nih2o
ニコニコ動画 http://www.nicovideo.jp/watch/sm33446417


◎[参考動画]#MeToo in Japan: The woman speaking out against rape(FRANCE 24 English 2018/06/28公開)

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

タブーなき『紙の爆弾』2018年7月号!

やはり本通信でお伝えした〈2018年上半期、鹿砦社が投下する最大の爆弾!「関西カウンター」の理論的支柱・金明秀関西学院大学教授の隠された暴力事件を弾劾する!〉の破壊力はとてつもなかった。これは適宜続報していくつもりだ。

そして『真実と暴力の隠蔽』の衝撃も、並大抵ではなかった。7月3日付けで木下ちがや氏が下記の「鹿砦社への抗議文」なるものを自身のブログで書いている。

木下ちがや氏が7月3日に公開した「鹿砦社への抗議文」

木下氏は「私に対して『水面下ですざまじい攻撃』がなされて、糾弾、総括がなされて『口封じ』『隠蔽』がなされているかのようなこと書かれています。しかしながら、そのようなことは一切なされていません。私が6月8日に発表した文章にも書きましたように、家族からの助言、また関係者から事態を整理するためのアドバイスはあったものの、あくまで私自身の自主的な判断に委ねるというものでした」と書いている。

そうか、そうであれば何よりだ。本当に「糾弾」も「攻撃」も何もないのであればよかった。松岡はじめ、われわれなりに心配していたので胸をなでおろすし、われわれに〝事実誤認〟があれば木下氏に率直に謝罪したい。

また木下氏は、「鹿砦社の雑誌における李信恵さんに対する私の発言については、発言したことは事実であるものの、その内容については根拠のないものであり」と書いている。だが、取材班は李信恵に関する木下発言は、前後のやり取りから、どう考えても、しばき隊/カウンター内部における木下氏自身の経験に基づく発言であるとしか理解できない。

その根拠は、木下氏の李信恵評が単一の言葉としてではなく、文脈と論を立て、自身の経験を加味して語られているからである。噂や憶測ではなく木下氏は「自分本人が自慢しているからねえ、『誰とやった』とか『やってない』とか」と李信恵の発言を聞いたことを語っている。そして『真実と暴力の隠蔽』に掲載したとおり、木下氏は長時間にわたり一貫して李信恵の人格的問題を、誰に問われるわけではなく、みずから進んで語っている。

それは、リーダーたるもの、彼女の性的放縦を運動内部に安易に持ち込んではいけないという、木下氏なりの苦言とわれわれは理解した。真っ当な見解である。その他、彼の述べていることをわれわれなりにチェックし直してみると、ほとんど事実であることも、あらためて分かった。木下氏は、なぜこうもみずからが能弁に語った意見を〝否定〟するのであろうか?

また『真実と暴力の隠蔽』にはほとんど掲載しなかったが、C.R.A.C.や男組、特に、先に逝去した高橋直輝氏の問題(高橋氏個人の問題だけではなく、彼に対する周囲の遇し方)について、極めて批判的な言説を、これまた長時間にわたって展開している。しかしながら高橋氏に対する木下氏の見解は『真実と暴力の隠蔽』の出版意図と直接に結びつくものではない(まったく関係がないとは言わないが)ので、高橋氏に関する発言のほとんどは掲載していない。仮に高橋氏、あるいは、C.R.A.C.に対する木下発言を掲載していたら、〝木下批判〟はさらに激しさを増していたことであろう。

さて、前後するが、「糾弾」や「攻撃」などがなかったというのは信用するに値しない。なぜならば「水面下」だけではなく、ツイッター上で木下氏を批判・攻撃する言説が膨大に展開されていたではないか。ほかならぬ李信恵自身が度々木下を批判し、謝罪も受け入れない姿勢まで見せていた事実は動かない。

木下氏が最初にツイッター上で「謝罪」を表明したのは5月31日だったろう。しかしこの「私が批判されている内容は事実です。また、発言の内容も事実であり、いいわけはできません」は、「私は批判されているけれども発言した内容は事実である」ことを述べたうえで「取り返しがつかないことをしました」と誰かに詫びる、文意の通らないものである。

 

5月31日に木下ちがや氏が表明した「謝罪」

重要であるのは、この時点で木下氏は「発言の内容も事実であります」と書いていることである。事実を発言したのであれば謝罪をする必要がどこにあるのだ? 事実であっても誰かには不都合な発言であったので、目に見える形で散々木下氏は批判をされていたのではないか。

木下氏と同様の発言は木下氏、清義明氏、松岡の座談会で清氏からも語られ、清氏へもかなりの批判が見て取れるが、清氏は筋を通して自説を曲げるような態度をとってはいない。また『真実と暴力の隠蔽』に登場して頂いた凜七星氏もほぼ同様に李信恵の人物評を語っているが、凜氏への激しい批判は目にしない。

ここから推測されることは、木下氏は「NO.3」であるかどうかはともかく、現役の「しばき隊」構成員であり、それも幹部クラスであった。ゆえに「反党派発言」は組織にとって絶対に許されるものではないから、批判が木下氏に集中したであろう構造である。そうでなければ凜氏にも同様の攻撃が向けられていなければ辻褄が合わない。

そして木下氏は情けなくも「そしてもちろん、現在にいたるまで、鹿砦社側から私への連絡あるいは私とのやり取りは一切ありません」と書いているが、鹿砦社は6月5日に「木下ちがや氏への暴言、糾弾、査問、謝罪要求を即刻やめろ! 鹿砦社代表・松岡利康」を、6月12日には「『真実と暴力の隠蔽』収録座談会木下ちがや氏の『謝罪』声明に反論します!鹿砦社代表・松岡利康」、そして6月18日には「M君リンチ事件本第5弾『真実と暴力の隠蔽』発売からの反響を振り返る」を掲載し、木下氏への激励と叱咤を断続的に発信してきた。

木下氏自身が6月5日の本通信を取り上げて批判しているのであるから、双方向ではないとはいえ、鹿砦社は木下氏への発信を続けてきたのであるし、それに木下氏も反応している。私信や電話でのやり取りはないものの、意思の疎通は成立していることは、木下氏が本通信に反応することにより示されている。6月18日「M君リンチ事件本第5弾『真実と暴力の隠蔽』発売からの反響を振り返る」は取材班が発売1カ月を振り返っての座談会であったが、その席上でも、

〈D まあ、「木下査問」は見せしめ的に続くのだろうけど、俺たちとしては、彼の発言した事実にこそ注目してもらいたい。それから木下氏から「SOS」が来れば支援は惜しみませんよね、社長?

松岡 もちろん、彼が原則的な助けを求めてきたらその準備はあります。〉

と木下氏救済の用意が鹿砦社にはある(あたかも日大アメフト部のディフェンスの選手が監督の指示により関西学院大学の選手に危険なタックルをして大問題になったのと同様に、鹿砦社は関西学院のような木下氏支援の準備があった)ことを明示している。そして木下氏は本通信を読んでおり、その内容を知っているのであるから「そしてもちろん、現在にいたるまで、鹿砦社側から私への連絡あるいは私とのやり取りは一切ありません」は、彼らのすき好む表現を用いれば完全な「デマ」である。

さらに木下氏は「そのうえで、私自身を支え、適切な問題解決の方向に誘ってくれた家族を含む関係者を」と「家族」を同文章の中で複数回登場させているが、鹿砦社・取材班は一度も木下氏の「家族」に言及したことはない。木下氏自身が「家族」「家族」と、「家族の関与」を何度も書き込んでいるようであるが、木下氏の「家族」は木下氏の発言には何の責任も関係もないのであるから、われわれは「家族」には関心も言及も行う発想自体を持ち合わせない。木下が勝手に「家族に世話になった」と思うのであれば、家族に礼を述べればよいだけである。どうして無関係の鹿砦社が木下氏の家族に「謝罪」しなければならない理由があるのだ。

「仕事は家庭に持ち込まない」のと同様で「家族を騒動に巻き込まない」ほうが家庭の安寧を保てるのではないか(この期に及んでも木下氏にはまだ〝親切心〟で忠告しておこう)。

そして見逃せない事実は、このかんに「M君リンチ事件隠蔽」を指示した師岡康子弁護士のメールが明らかにされたことと、関西学院大学の金明秀教授の「暴行事件」を取材班が明らかにしたことである。師岡康子弁護士は『ヘイト・スピーチとは何か』(岩波新書)の著者であり「ヘイトスピーチ対策法」に大いに尽力した「人権派弁護士」と世間から「誤解」されている人物であるが、実は集団リンチ事件被害者のM君を犯罪者扱いするなど、弁護士として、人間として絶対に許されざる行為に手を染めた人物である。あまりに悪質であるのでそのメールを再度掲載する。

2014年12月22日、師岡康子氏から金展克氏宛に送信されたメールの内容

2014年12月22日、師岡康子氏から金展克氏宛に送信されたメールの内容

2014年12月22日、師岡康子氏から金展克氏宛に送信されたメールの内容

「運動のためであれば、立法のためであれば被害者は泣き寝入りしろ!」と指令する師岡弁護士のこのメールが、もし「ヘイトスピーチ対策法」成立より前に明らかにされていれば、師岡弁護士の弁護士生命も、言論弾圧法である「ヘイトスピーチ対策法」も成立することはなかったであろう。

こういう「非人道的」な心情を持つ輩が「しばき隊」のオピニオンリーダーであることが暴露されたことに、しばき隊が極めて深刻な危機感を抱くことは想像に難くない。それに止まらず「M君リンチ事件」だけではない激烈な「暴力事件」を金明秀教授が起こしていた証拠を本通信で取材班は明らかにした。

師岡康子弁護士がしばき隊全体のイデオローグであるとすれば、金明秀教授は関西における活動の理論的リーダーといえよう(その主張内容は甚だ怪しいが、ここでは議論が複雑化するのでそれは省く)。師岡康子弁護士は被害者を犯罪者扱いし「事件隠蔽」を指示し、金明秀教授は激烈な暴力事件を起こし、かろうじて代理人(弁護士)を介して被害者と和解しているも、その後も問題は収束していない(これについては、またしても読者諸氏が腰を抜かす証拠が取材班の手元にはある。しかるべき時期に公開する)。街頭やツイッターで程度の低い諍いを好む〝コマンド〟(兵隊)とは異なり、幕僚の中にあって戦略を指示する立場の〝コマンダー〟(指揮官)が、揃いもそろって「事件隠蔽」と「暴力事件」に手を染めていた証拠が明らかになり、しばき隊の屋台骨はシロアリに食い尽くされて倒壊寸前の家屋のようなありさまである。

そこで、奇異なめぐりあわせではあるが、自身も金明秀教授の暴力被害者である木下氏が、戦況の攪乱と逆転の手がかりを創作すべく表明したものが「鹿砦社への抗議文」の意図するところであろう。

繰り返すが鹿砦社は一度も木下氏の「家族」に言及などしていないし、木下がネット上で猛烈なバッシングを受けた証拠は山ほど残っている。だから「木下ちがや氏への暴言、糾弾、査問、謝罪要求を即刻やめろ! 鹿砦社代表・松岡利康」を即座に掲載したのだ。

 

 

 

 

50代になっても定職を持たず、ネット荒らしに人並み外れた執着心を持つ比類なく性格のひねくれた変人(もういい加減このような悪質な人物は放逐されるべきだろう)や、僧籍を持ちながらネット中毒から回復不可能な人物、その他取材班が自宅住所、電話番号、勤務先を掌握している人物たちが「デマ」だ「デマ」だと舞い上がっているようだが、再度忠告しておこう。諸君の中の数人は既に気づかないうちに取材班の取材を受けており、いつでもその内容は公開が可能だ。

そして木下氏に告ぐ。鹿砦社が「家族」を巻き込んだかのような「デマ」(事実無根)を速やかに撤回せよ! そして「関係者」=「しばき隊/カウンター」に鹿砦社が謝罪する理由は皆無である(あまりにも明白ではあるが)! 

木下氏よ、あなたは促されるではなく、自分から進んで語った事柄を「撤回」する、まったく信用に値しない人物であることをみずから証明した。くだんの座談会で松岡(そして取材班)を驚かせた慧眼は偽物だったのか、と遺憾ながら首を傾げざるを得ない。あなたの(そして、あなたの所属するしばき隊/カウンターの)発言が世の常識人に今後信用されることはないであろう。

今回の件は、木下氏にとって〈知識人〉としての矜持、行き方来し方を問う重大問題だ。この期に及んでも腐臭を放つ「しばき隊/カウンター」に戻るのか、一人になっても自律した〈知識人〉として再出発するのかの転換点になるだろう。

以上が、われわれからの木下氏への最後の忠告である。白い犬に赤いペンキを塗っても犬に変わりはないのか……〈知識人〉とはそんなに軽いのか!?

(鹿砦社特別取材班)

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6月29日付け本通信に〈2018年上半期、鹿砦社が投下する最大の爆弾!「関西カウンター」の理論的支柱・金明秀関西学院大学教授の隠された暴力事件を弾劾する!〉を掲載したところ、非常に大きな反応があった。そこで同日、鹿砦社アカウントから、関西学院大学@KwanseiGakuinと金明秀教授ご本人@han_orgにもそれぞれ質問を投げかけた。

これに対して金明秀教授からは、

と回答があったが、内容があいまいであり論を逸らしているので、再び、

と質問を続けたが、以降金明秀教授から回答はない。

「ちなみに『和解書』は偽造ですか? 端的にお答えください」とのYESかNOの簡単な質問にも回答がない。なぜだろうか? 研究者、学者そして大学教員たるもの、自身の社会的責任には回答するのが筋であると取材班は認識するが、金明秀教授にとっては目を背けたい(可能であれば「無かったこと」にしたい)事実でもあるのだろうか?

しかし、事実は事実であり動かないのだ。金明秀教授は歴史改竄主義者を批判する。取材班も同様に歴史改竄主義者を許さない。ならば自身がまさか“自分史改竄主義者”になったわけではあるまい。

残念ながら「曖昧な回答」は頂けたが、その後金明秀教授からは音沙汰がない(ツイッターでは本事件と関係ないことは書いているようだ)。

一方、関西学院大学からはツイッター上で一切回答はなかった。まあこれは無理からぬことではあろう。同じ西宮市内に位置しているとはいえ、「鹿砦社」をご存知ない可能性もあるし、デリケートな問題をツイッターといった安易なツール上でお答えいただけない事情は理解できる。そこで取材班は鹿砦社代表松岡利康名で7月3日、関西学院大学村田治学長に対して「ご質問」を郵送し7月17日までに回答を頂けるようにお願いをした。

この「ご質問」は「公開質問状」ではないので、本日ここでその内容を明らかにすることはできない。鹿砦社は関西学院大学に対してなんらの悪感情を持ってはいないし、逆に同大学の建学の理念や歴史には正直なところ深い敬意を抱いている。よって、しばき隊幹部や事件隠蔽関係者に送付したような「質問書」とは、かなりトーンも異なるものである。

日大との対比で、優れた人権感覚と教育的視点、学生に対する眼差しを体現し、世間からも高い評価を受けた関西学院大学のことであるから、必ずやわれわれの「ご質問」に対して誠実なご回答を頂けるものと、取材班は信じている。ご回答を頂けた暁には内容に差しさわりのない範囲で読者諸氏にもその内容をご紹介することとしたいので、是非7月18日以降の本通信にご注目頂きたい。

ありはしないだろうが、万が一ご回答を頂けなかった場合、または誠実とは言えないご回答であった場合は、取材班も相応の対処に踏み切らざるを得ないが、関西学院大学に限っては、そのようなことはないと信じる。

取材班には6月29日にこの「暴力事件」のレポートを掲載後も新たな証拠や証言(それもダイナマイト級のもの)が、またしても寄せられている。それらは関西学院大学からのご回答を待って、適宜読者諸氏にお伝えしてゆく。いずれにしても、この夏、同大と世間を震撼させることは言うまでもないであろう。

(鹿砦社特別取材班)

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どこから情報を掴むのかわからないが、いわゆる「架空請求」のメールが時々やってくる。以前は日に数百を超えることもあったが最近では数カ月に一回程度には減って入る。私は送り付けて来る文面自体が気に入らないので、徹底して電話をかけまくり、悪徳詐欺を働く人間を追い詰めて、実際に何件か潰したこともある。しかし世間での「架空請求」詐欺被害はいっこうに減らないようだ。

下記会話は数年前、私の居住地の警察署に「架空請求」の情報を提供したときの会話である。それ以前にも110番通報や電話で何度か警察には情報提供をしていたが、会話にもある通りひどいときは「民事事件は警察の管轄ではない」と言って切られたこともあった。今回はそのやりとりの後編だ。

―― そんな役人みたいなこと言わないで。お巡りさんは鉄砲もってますよね。
警察 ただ持たされてるだけですけどね。
―― 力があるわけでしょ。
警察 そこまでの力はないんですけどね。
―― いえいえ、捜査をする力はあるでしょ。あなたお一人ではなくとも警察として、こういう詐欺事件に緊急に対応する力を持っていらっしゃるでしょ。
警察 当然刑事の方ではそういう形で、対応させていただきますし、安心していただいたらいいと思います。
―― 私はいいんです。私ではなく、ほかの人が引っかかってからでは遅いでしょ。「警察に連絡してください」ってあちこちのポスターに書いてあるじゃないですか。
警察 そうですね。
―― それが電話したら「なかなか……」って言われたら、どうしたらいいのか、となりますよ。
警察 早急に上の方には伝えときますんで。ご住所から伺っていいですか?
―― ○○市の○○と言います。
警察 ○○市以下の住所伺っていいですか?
―― こんないい加減な対応されたら住所までいうのは怖いわ。ちゃんと「やりますよ」と言ってくれたら住所いいますよ。はっきり言いますが、情けないですよ。私は被害申告をしているんですよ。
警察 まあ、たしかにそうなんですけど。
―― そうでしょ。それを「ご意見として伺っておきます」っていうけど意見じゃないですよ。被害申告なんですから。
警察 ご意見というのは別の話で、「電話などの凍結をしろと」とか。
―― 私は「電話の凍結をしろ」なんって一言も言ってませんよ。とにかく電話一本かけて事情を聴くのは令状もなにもいらないでしょ。
警察 うーん……。
―― 要らないよ。痴漢でもなんでもあれば、「あなたどうだったの?」と事情を聞きに行くでしょ。同じじゃないですか。
警察 これが詐欺のメールだというのは、こっちも重々承知なんですよ。
―― でしょ。なら確証もあるわけですね。私は踏み込めとか、検挙しろといってるんじゃなくて、「あなたたちなにをやっているのか」と電話一本入れるだけでも違いますよ。なぜかといえば、警察ではない私が電話したって、そのあと違うんですから。私は民間人ですよ。民間人の私が架空請求の詐欺を2、3件潰したことあるけど。
警察 2、3件。おおお。
―― 「おおお」じゃないでしょ。そんなところで感心されたら困るんですよ(笑)。おまわりさんがしっかりしてくれないから私が電話かけなきゃいけない。かけたくないですよ。電話代使ってね。お巡りさんたちがしっかりしてくれないから私が自腹で電話をかけなきゃいけない。しっかりしてくださいよ。頼みますよ。
警察 おっしゃる通りだと思います。
―― おっしゃるとおりって(爆笑)。「それは違います」と言ってくれたら安心できるけど、「おっしゃる通り」といわれたら、全然信用できない。どうすればいいんですか、市民は?
警察 たしかにこのメールは何千何万という人に連絡して、その回答を待ってようなやつなんですよ。
―― そうよね。
警察 それで、これが本当のものだと勘違いした人だけを対象にしたものなんですよ。
―― 知ってます。
警察 基本的には無視していただく、っていうのを警察は指導させていただいているんですよ。電話番号も何千何万とありまして……。
―― だけど、これはいま申し上げ上げたけれども、インターネットで検索すれば、この番号自体がたくさん……。
警察 それもね、1つだけじゃないんですよ。
―― 知ってます。知ってます。日替わりで変わるし、2、3日しか営業しないわけでしょ。
警察 そうなんです。2、3日しかしないです。
―― だから2、3日のうちに止めておくことが大切でしょ。
警察 そうなんです。それが早急にね、できる……
―― なんで民間の私にできてお巡りさんにできないの?
警察 あのー、できるっていうのはあれですよね?
―― 電話をかけるだけで向こうは萎縮するんですよ。
警察 ああ、萎縮するということですか?
―― そう。
警察 ほー。
―― 私は弁護士に相談してやったこともありますよ。本気で(振込詐欺を)防止しにいきなさいよ。
警察 たしかにおっしゃるとおりですね。
―― なんで民間人の私が電話代を払ってそれをしなきゃいけないの?
警察 あー。
―― 「あー」じゃないよ。
警察 おっしゃられていることも一理ありますね。
―― たしかにこのあたりはお巡りさんの数も予算も少ないとは伺っているので、お忙しくて大変だろうとは思うけど、それでもこれはのんびりほおっておいたらいいものではないでしょ。
警察 そうですね。これについては防犯指導が必要ですね。電話番号をとめたからといって、すべての方の意識づけをまずかえたほうがいい。
―― いや、それは別の話。もちろん広報とかは必要でしょう。けれども年を取ってわからない人に広報してもわからないでしょ。だからいつまでたってもなくならないわけでしょ。
警察 そうですね。
―― 元から断つのは申し訳ないけども、意識づけだけではできない。モグラたたきのように、出てきた奴を警察に叩いてもらうことをやってもらわないと仕方がないわけでしょ。
警察 まず刑事の方に上げさせていただきます。
―― これ以上は申し上げませんけど、上に早く上げてください。
警察 本当に貴重なお話だったんで。
―― だから、本当はね、あなたに気概があったらすぐに電話しないといけないよ。こんなの職務規定違反でもなんでも何でもないんだから。一般市民から連絡が来て、詐欺の電話の話がある。インターネットにもその番号は載っていると申告がある。そちらの署のなかにパソコンが1台もないわけじゃないでしょ。
警察 そうですね。もちろんそれ分かってるのは当然のことやと思うんですよ。それが詐欺で別のところにも相談があるようなものだと思いますので。
―― だから「当然のこと」と気にしているんじゃなくて、1件1件しっかり潰していく。悪い奴は。
警察 なるほど。
―― 「なるほど」じゃないよ(爆笑)。○○さんは元々○○県の方ですか?
警察 ええ。
―― そうか。○○県の人おっとりして性格の良い方多いもんね。
警察 出身は違いますけどね。
―― ご出身は?
警察 ○○県ですね。
―― そうなん。関西弁上手ですね。
警察 ま、ま、ま、妻ももらってますしね。
―― 幸せやな。
警察 いえいえ。でも本当におっしゃることは当然のことやと思いますし。
―― だから思ってもらうだけじゃなくて、お巡りさんには行動してもらわないと。警察のしかるべきところからビシッと行ったら、こいつらはビビりよるから。どうせ飛ばしの電話番号やけどね。
警察 そうなんですよね。
―― 飛ばしの電話番号でもキャリアはすぐわかるから。キャリアたどっていけばわかる。裁判所で令状一枚とればすぐ動けるよ。
警察 そうですね。
―― でしょ? だから早急にやって。しっかり頼みますよ。
警察 ありがとうございます。(了)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

大学関係者必読の書!田所敏夫『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY 007)

どこから情報を掴むのかわからないが、いわゆる「架空請求」のメールが時々やってくる。以前は日に数百を超えることもあったが最近では数カ月に一回程度には減って入る。私は送り付けて来る文面自体が気に入らないので、徹底して電話をかけまくり、悪徳詐欺を働く人間を追い詰めて、実際に何件か潰したこともある。しかし世間での「架空請求」詐欺被害はいっこうに減らないようだ。その理由の一端をご紹介しよう。

下記会話は数年前、私の居住地の警察署に「架空請求」の情報を提供したときの会話である。それ以前にも110番通報や電話で何度か警察には情報提供をしていたが、会話にもある通りひどいときは「民事事件は警察の管轄ではない」と言って切られたこともあった。警察署とのやりとりを前編と後編の2回にわけて公開する。

◆民事は警察(の管轄)じゃない……?

警察 かわりました相談係の○○と申します。
―― お願いいたします。
警察 これに対するお金等振り込みをされていますかね。
―― もちろんしていません。
警察 良かったですね。
―― していないです。明らかに全く身に覚えがないのですが、拙い文章がメールで来ました。「裁判をする」、「延滞金がかかる」などとあって電話番号が書かれているので、これにはお巡りさんから電話をかけて頂いき、早急に警告していただいた方がよいと思いまして。インターネットでこの番号を調べても「詐欺だ」という情報がたくさん出ています。電話番号は03-XXXX-XXXXです。
警察 ちなみにこれどういう経緯で入って来たんですかね?
―― 私のメールアドレスに来ました。
警察 その相手のメールアドレスわかりますか?
―― はい………(メールアドレス)です。
警察 これ何年ごろ入ってきました?
―― 最初に来たのは昨日の朝9:18です。嘘でしょうが会社名も書かれています。
警察 要は有料コンテンツの未払いとかそういう内容ですか?
―― そうです。そんなのは全然使っていませんので、昨日あえてそこに電話をしたんですが、どういうわけか取り合ってくれなくて。私はこの手の詐欺・架空請求が来ると、徹底的に電話をして追い詰めるんですね。
警察 ほー。
―― 今朝電話したら「かけ直す」と言っていましたがかけてこないし、先ほども言いましたが「この番号は詐欺だ」との情報はネットに多数出ています。一刻も早く警察で対応していただくべきだと思いご連絡しました。
警察 なるほど、ありがとうございます。とりあえずおっしゃられた通り「詐欺」のメールですんで、一切相手にしなかったらいいですから。それで相手にどう話されたんですかね?
―― 昨日は電話をかけたら、向こうは私の生年月日を聞くわけです。正直に言うことはないから、本当ではない非常な高齢者を名乗りました。それ以降かかってこなくなりました。
警察 ほー。そうですか。電話はどういうふうにかけられたんですかね。
―― 普通に番号が通知されるようにかけましたよ。
警察 通知でかけているんですか? ほー、なるほど。
―― そのあと20回くらいかけましたけれど取らなかったですね。
警察 ほー。そんなにかけたんですね。わかりました。それでしたら全く騙される要素なさそうですし。
―― 私は騙されませんよ。私はいいのですが、お巡りさんにはこういう詐欺は止めてもらわないといけないでしょ。
警察 はい。
―― 止めてもらわないと。架空請求しているわけだから。
警察 あ、そうです。架空請求です。
―― 詐欺未遂でしょ。
警察 そうですね。
―― だからこの番号に電話していただくなり、捜査していただくなりして、至急これを潰していていただくと。
警察 なるほど、ごめんなさい。これについてはですね、情報として上げさせていただくんですけれども、「早急に」というのはなかなか難しいんですよ。
―― え、なんでですか? 電話一本かけたら向こうがどんな連中かわかるでしょ。
警察 そうなんですよ。
―― 前にも連絡したけど、おたくのお巡りさん「民事は警察じゃありませんから」って言って切られたよ。
警察 民事は警察じゃない……?
―― 「民事事件は警察の管轄ではありませんから」といって。この番号に電話したらそういわれた。なんで動けないんですか? これだけ証拠や情報を提供しているんですから。「振込詐欺に誤魔化されるな」と広報してるでしょ。だったら電話一本かけるくらいのことはできるじゃない。
警察 ええ。これは詐欺の電話だっていうのは分かってるんですよ。

◆目の前にパソコンはないんですよ。その関係で本部に投げてですね……

―― だったら令状がなくても、電話を一本かけて「警告」くらいしとけばいいんじゃないですか。
警察 ええ。
―― 「ええ」じゃない。これをほっておくから被害が広がるんじゃないですか。
警察 まあおっしゃるとおりですね。
―― 警察から電話したら奴らだって萎縮するでしょ。
警察 それが全く萎縮しよらへんのですよ。
―― しなかったら令状取って踏み込んだらいいじゃないですか。
警察 ええ。ご忠告は上げさせていただきますんで。
―― いえいえ。対応してくださいよ。私理解できないのだけど、「情報があったら警察に知らせてくれ」とポスターが街のあちこちに貼ってあるでしょ。私は情報提供何度もしていますが、そのたびに「すぐ動けない」と。それだったら何の意味もないじゃないですか。
警察 うーん。おっしゃる通りかもわかりませんね。
―― 私はいいですよ。騙されませんから。でもほかの知らない人や気の弱い人は騙されますよ。相手はプロなんだから。お巡りさんわかってると思うけど。
警察 そうなんですよ。
――  「そうなんですよ」じゃ困るの(苦笑)。それを止めるのが警察の仕事でしょう?
警察 そうなんです。
―― 「そうなんです」じゃないでしょ(爆笑)。いや笑っている場合じゃないですよ。
警察 全くの正論をおっしゃられているんで。だからその通りですよ。
―― なんでできないんですか?
警察 私の立場では何ともお答えができないんですよ。わかんないんですよ。
―― 「わかんない」ってなに?(再度大爆笑) なに言ってんのあなた。
警察 専門じゃないんで。
―― 「専門じゃない」って、バカなこと言うんじゃないですよ。あなたお巡りさんでしょうが。
警察 うーん。刑事の方にはこういうことがあったと報告させていただくんですが、そのあとすぐに対応できるかというところは、なかなか難しいところがあるみたいなんです。
―― なぜですか? これは110番通報と一緒ですよ。詐欺未遂申告の。私が詐欺にあっていれば詐欺ですが、詐欺未遂で不法行為が成立しているでしょ。
警察 そうなんですよね。
―― 「そうなんですよね」じゃなくて。わたしは弁護士に相談しているんじゃないんですよ。警察官でしょあなたは。
警察 そうです、そうです。
―― こういうのは迅速に対応しないとね……。 
警察 そうなんです。それが出来たらいいんですけどね。一番は。
―― 出来たらじゃない。なぜ対応しないのよ?
警察 それがね。なんとも……。
―― 「なんとも」ってあなた。いい加減な業者みたいなこと言わないで。
警察 詐欺と認められてすぐに措置が出来たらいいんですけどね。
―― 目の前にパソコンあるでしょ。
警察 パソコンにあがってくるんですか?
―― パソコンの検索エンジンにこの番号を入れたら、「この番号は詐欺だ」との情報がたくさん出てきます。調べてみましたか?
警察 あのー。目の前にパソコンはないんですよ。
―― え! ないの?
警察 予算の関係やらそんなんもありますし。
―― 予算の関係?
警察 その関係で本部に投げてですね。
―― そんな悠長なことやってるんですか?
警察 そうなんですよ。現状はそんな形なんですよ。
―― お巡りさんいらっしゃるのは「生活安全課」?
警察 刑務課ですね。
―― そんなスローな対応してたら、絶対に根絶できませんよ。
警察 それは、ご意見その通りだと思います。(つづく)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

大学関係者必読の書!田所敏夫『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY 007)

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