注目のM君リンチ事件控訴審ですが、去る7月23日(月)午後2時30分から大阪高裁にて開かれ、1回の審理で結審となりました。この間、わずか10分ほど。えっ、これで十分な審理ができるの!? 日本の裁判制度が、一部を除いて〝事実上の一審制〟といわれる所以です。判決は10月19日午後2時です。
こちらが結審したことで、M君もしばらくは、先般不起訴不当の審理を申し立てた検察審査会への準備に着手します。私たちも、これまで同様、全力で支援します。
◆リンチ事件裁判、控訴審結審に際して――
ところで、控訴審結審まで来て、私は法廷で、ひとつの感慨にひたりました。一昨年(2016年)の初めに、このリンチ事件の存在を聞いて以来、私(たち)は素朴、単純に酷いと感じ、失礼な言い方かもしれませんが、社会的にはほとんど力のない一部少数の人たち以外にリンチ被害者M君の味方はおらず、事件から1年以上も経ち、報道されることもなく(マスコミは社会の木鐸ではなかったのか!?)、このままでは世の人々に知られずに隠蔽されて終わりそうでした。「棺桶に片足突っ込んだ爺さん」(鹿砦社元社員の藤井正美のツイート)にも意地があります。私なりに義憤を覚えました。実は私は今年67歳、65歳で引退し後進に道を譲るつもりでしたが、延期し最後の仕事として本件に関わることにしました。この判断は、今でも間違いなかったと思っています。爾来、私たちは社内外の有志で「特別取材班」を、そして民事訴訟の準備が整ったところで「M君の裁判を支援する会」を結成し、被害者救済と真相究明の途に就きました。
この少し前、脱原雑誌『NO NUKES voice』を創刊し、その中で1年間に300万円余りの経済的支援をしつつも(少しは感謝しろ!)、加害者らと人脈的に繋がりのある「反原連」(首都圏反原発連合)から一方的に絶縁され、さらに鹿砦社社内に潜り込んでいたカウンターの中心メンバー・藤井正美が業務時間内に業務と無関係(つまりカウンター関係)のツイッターに勤しみ私のことを「棺桶に片足突っ込んだ爺さん」などと揶揄していたり、いつ仕事をしているかわからないほどの量のツイートが出てきて、やむなく解雇に至りました。反原連絶縁については『NO NUKES voice』に長文の反論を掲載し、また藤井解雇についても、膿を出しせいせいしていたところで、この時点では後腐れもありませんでした。こうしたことへの「意趣返し」(安田浩一氏の言)で、私たちが本件に関わり始めたわけではありません。運動を「分断」させるというような意図もありませんでした。
リンチ被害者M君が提供した主だった資料、特にリンチ直後の顔写真とリンチの最中の音声データは衝撃的でした。こんな凄惨なリンチ事件を、発生から1年以上も知りませんでした。あとで判ったことですが、元社員の藤井正美の会社所有のパソコンから事件直後からの情報がたくさん出てきて、カウンター内部では大騒ぎだったようでした。にもかかわらず、お人好しの私は、藤井が会社のために真面目に働いていたと誤認していました。
「反差別」を金看板にした「カウンター」といわれる社会運動について、さほどの知識もなく徒手空拳で取材・調査を始めました。M君の話を聞き、彼が持ってきた資料などで、事件の概要が見えてきました。取材からしばらくして、私たちはM君の述べることを大方信じ、M君の支援を開始することにしました。
私たちが2010年9月から隔月ペースで始めていた、いわゆる「西宮ゼミ」にちょくちょく来ていた「ヲ茶会」(ハンドルネーム)さんが本件の話を持ってきたのは2016年2月28日のことでした。当初は「今の社会でこんな暴力沙汰があるのか」と半信半疑でした。それもマスメディアに「反差別」運動の旗手のように持ち上げられる李信恵さんがリンチの現場に居て関わっていることを知り、驚くと共に愕然としました。しかも深夜に日本酒に換算して一升ほどの酒を飲んで呼び出し5人でリンチをやったということにも驚きました。マスメディアで、いわば現代の英雄のような扱いを受ける者が、裏ではこんなことをやっていたのか!? 世の中には、こうした輩が少なくありませんが、差別と闘うとは、本来なら崇高な営為なのに、その旗手のような者が、こんなことに関わっていたのかと思うとやりきれない気持ちになりました。
◆リンチ事件の隠蔽に加担する著名人、常識とかけ離れた人々に驚きました
ところで、このリンチ事件の被害者救済と真相究明に関わっていく過程で感じたことに、著名な知識人やジャーナリストらが隠蔽に積極的に加担していることでした。取材や確認をしようと電話してもシラを切ったり、電話にさえ出ない者も少なからずいました。思い出すだに名を出せば、中沢けい、香山リカ、西岡研介、安田浩一、有田芳生、辛淑玉、鈴木邦男、佐高信、津田大介、佐藤圭、中川敬、岸政彦……の各氏。今まで何を学んできたのか!?
特に鈴木邦男氏は、私と30数年来の関係があり、それも決して浅くはありません。隔月ペースで著名なゲストを招いて行った「西宮ゼミ」も3年間やりました。鈴木氏は、かつて組織内でリンチ殺人、死体遺棄事件が発生し、これを機に対話路線に転じました。その頃からの付き合いでした。他の方々とは違い、暴力の問題には一家言があるはずで、こういう時にこそ鈴木氏の出番だと思っていましたが、とんだ思い違いでした。残念ながら、このリンチ事件への対応で30数年に及ぶ関係を義絶しました。
また、世間の常識とかけ離れた変な人も少なくありませんでした。一日中ツイッターなどSNSに狂っていると、感性も狂ってしまうようです。
世間の常識とはかけ離れていると言えば、李信恵さんら加害者がM君に出した「謝罪文」と、この撤回、辛淑玉さんが出した、いわゆる「辛淑玉文書」とのちの転向文書、あたかも味方のように近づいて資料やM君周囲の情報を入手し、突如掌を返した趙博氏(私たちは直接裏切られたので趙氏をスパイと断じます)等々。本当に常識外れの掌返しや寝返りが多いです。言葉も共通して汚いです。
最近表に出た「師岡康子メール」なども非常識の極みで、著名な弁護士がリンチの被害者に対して、刑事告訴をして、もしヘイトスピーチ規正法がおじゃんになれば、あろうことか被害者のほうが「反レイシズム運動の破壊者」として「重い十字架を背負う」とまで常識では考えられない倒錯したことを言っています(詳しくは6月7日付け本通信参照)。
◆「反差別」運動の一大汚点に私たちなりに全力で取り組みました!
一昨年2月28日以来、私たちは私たちなりに、「反差別」運動、いや日本の社会運動の一大汚点といえる、このリンチ事件について、取材と調査に邁進してきました。多くの資料や情報が発掘できました。多くの関係者に話を聞くこともできました。
これまでこのリンチ事件については5冊の本を出版してきましたが、これらに収録してきました。控訴審の結果がどうあれ、私たちは持てる力を尽くしM君リンチ事件について被害者救済と真相究明に関わってきました。毎回〝目玉〟記事もあり、事件関係者周辺にインパクトを与えてきたことは事実でしょう。「デマ本」「クソ記事」などと言うだけで反論らしい反論もありませんので、私たちは事実だと考えています。「デマ本」「クソ記事」と言うのなら、どこがどう「デマ」なのかを指摘し反論本の1冊でも出版してみたらどうですか!?
◆ジャーナリスト・山口正紀さんの声を聴け!
私たちの5冊の本が、どれだけ多くの方々の目に触れたかわかりませんが、少ないながらも心ある方々には伝わっていると思います。この通信でも採り上げている前田朗東京造詣大学教授、ジャーナリストの黒藪哲哉さん……。
とりわけ、私たちの本でこのリンチ事件を知られた、元読売新聞記者で良心的ジャーナリストの山口正紀さんは控訴審に意見書まで書いてくださいました。長文ですが、本人の了解を得て全文を公開いたします。全面的に賛同いたします。これがまともな感覚を持った人の意見だと思います。ぜひともご一読ください。