◆レインボーフラッグ上下問題と野間氏の印象操作
── ところで先ほど野間氏のツイッターを見たらレインボーフラッグの上下は問題がない、と印象操作をしているように見受けられるのですが。
森 そう思うのであれば、まともなひとたちと区別するために、これからもずっと紫を上にしてほしいですね。紫を上にするのは反同性愛のグループが用いる手段、もしくはトランプ大統領支持者であるオルタナ右翼LGBTの掲げ方だと、色々な人が指摘しているのに、自己正当化のために「紫が上で大丈夫だ」と繰り返す。日本のLGBTの運動家に恥をかかせるつもりなのか?たしかに、レインボーフラッグが成立した頃には、旗の上下はどちらもOKという感じだった時期もあると思います。
── まず旗が出来たのですよね。それにはっきり意味付けされたのは少し後ではないかと記憶します。
森 そうですね。今では赤が上ですし、自然の虹も赤が上ですよね。運動の現場ではそのような認識が形成されています。
── 80年代半ばにサンフランシスコを訪れたことがあります。一角にレインボーフラッグをアパートから多数掲げている地域がありました。その時点で全て旗は赤が上でした。
森 そうですか。そのように共通認識を持っているのに、あとから入り込んできて間違えて、それを隠すために「紫が上でも大丈夫」だと。レインボーフラッグが生まれた頃はそうだったとしても、シンボルの意味は変わってくるものだし、あとから紫を上に掲げるのが「反同性愛」「オルタナ右翼LGBT」と意味づけられたら、紫を上にしないのが普通ですよね。そのあたり、やはり異性愛者である野間さんにとって「他人事」なんだろうと思いました。
── 異性愛者というよりも彼は、人間愛者ではありませんから。
森 実際に彼に会ったひとによると、「普通のひとだよ」と…。
◆LGBとTの間の差
── そうですね。ところでLGBTについて伺います。わたしはTの方10人ほどとお話したことがありますが、大変に深刻でした。性転換手術を希望されたり、日常生活上の苦労が並大抵ではないと実感しました。わたしにはLGBとTのあいだには差があるのではないかと感じます。LGBTと括って性的少数者と言われますが、この言葉の使われ方に問題はないでしょうか。
森 LGBTとの呼び名には当事者からも批判が出ていますLGBの人たちがT(トランスジェンダー・トランスセクシュアル)の人たちを「彼らは自分たちとは違うだろう」と発言しているのを聞いたことがあります。つまり「異性を愛するか、同性を愛するかという点で語れるものではないから彼ら(T)とは別々に闘うべきではないのか」という主張です。またトランスジェンダー・トランスセクシュアルの側からも「自分たちは病気であり性別適合手術を受ければ治る。体を変えてしまえばLGBと共闘する必要はない」というひともいれば、中には個人的な感想だと思いますが「異性愛者として暮らせるようになったのに、なんでいまさらLGBと一緒に闘わなければいけないのか」というひともいます。
他にわたしが把握しているのでは「LGBT以外のセクシュアリティーがあるのに、そのひとたちは置いてきぼりにされるのか」という議論もあります。たとえばXジェンダーという性自認が男でも女でもないひとたちや、Aセクシュアルという男性にも女性にも誰にも恋愛感情や欲望を感じないひとや、パンセクシュアルというどの性にも反応できるひとたち、またペドフィリア(ロリコン)の人たちは置いてきぼりにされるのかと。特に誤解されやすいペドフィリア自体は別に犯罪を犯したわけでもなく、予備軍でもないのに、彼らの人権をLGBTは無視するのか、という議論もあります。つまり「LGBTだけ保護してどうするのだ」という意見がありますね。性とはもっと多様であるものなのに、他のセクシュアリティーは置いてきぼりにするのかという。
そこから、LGBTQ、つまりLGBTとクィア(Queer)という呼称も生まれています。クィアは元々、日本語で言うと「変態」に相当する蔑称でしたが、今ではセクシュアル・マイノリティ自身が肯定的に使うという動きがあります。あるいは、このQはクエスチョニング(Questioning)を意味するという説もあります。クエスチョニングとは、「性自認や性的指向が定まっていない人」を指します。だけど、どちらにしろ、LGBTQには「LGBTとその他」というニュアンスが残りますので、私は抵抗を感じています。
なぜLGBTという呼び名が定着したかといえば、それ以前に「性的マイノリティー」とか「性的少数派」という言葉で、異性愛者以外の人たちを括ることばがあったのに「性的」という言葉をマスコミ(あるいは当事者)や研究者が忌避したからだ、「性的」なものに対する忌避から「LGBT」に言い換えたのではないかという指摘もあります。わたしはですから「LGBT」という言葉には抵抗がありますね。その言葉では救われないひとたちがいる。取りこぼされてしまうひとたちがいると考えます。
── 疑問に感じていたことを教えて頂きました。ありがとうございます。森さんも「LGBT」という言葉自体を完全によしとしているわけではないですね。「LGBT」を差別問題ととらえるのか、セクシュアリティーとかジェンダー(人間に顕著にあらわれる現象)という観点から考察するのか、議論をしていると事柄の多面性や重層性に突き当たるのではないかと感じます。ところが森さんを攻撃しているひとたちにはそれが感じられません。あのひとたちはトピックに本当に感心や知識があるのではなく、その時に彼らが旬と見た話題を、イナゴの集団のように食べつくそうとします。でもすべてについて底が浅いので、その分野の専門家にかかると、ことごとく論破されます。
森 そうですよね(笑)
── また続きをよろしくお願いいたします。(つづく)
◎森奈津子さんのツイッター https://twitter.com/MORI_Natsuko/
◎今まさに!「しばき隊」から集中攻撃を受けている作家、森奈津子さんインタビュー(全6回)
〈1〉2018年8月29日公開 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=27255
〈2〉2018年9月5日公開 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=27341
〈3〉2018年9月17日公開 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=27573
〈4〉2018年10月24日公開 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=28034
〈5〉2018年10月30日公開 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=28042
〈6〉2018年11月8日公開 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=28069