まさに体育会系me tooとでもいうべき、スポーツ界の暴力・パワハラ告発の連鎖が始まっている。女子レスリング、日大アメフト部、女子体操、ウェイトリフティング、日体大駅伝部など、枚挙にいとまがない。コーチ陣みずからの利益を優先した権力構造的なものであったり、現場の暴力であったりするが、根はひとつであろう。すなわちコミュニケーション能力の欠如である。そしてこれは、親和的な社会といわれる日本において、いまだに再生される「いじめ」と同根なのである。
◆パワハラと「いじめ」は負のコミュニケーションである
「いじめ」はその対象への攻撃を共有することで、共同体の成員であることが確認される、排他的な因習である。負のコミュニケーションと言い換えてもいいだろう。そこには、些細な失敗をあげつらうことで、失敗の原因を共同体の成員全体に知らしめる、共同体の指導者の思惑が最初にある。会社組織であろうと地域社会であろうと、共同体が生産力を紐帯にしている以上、「いじめ」という違反者を排撃する「規則」からは逃れがたい。学校における「いじめ」も、一定の協同体規範(水準以下の者・底辺の者を排撃する)を源泉にしているのだ。
たとえば体育祭やスポーツ大会を「正のコミュニケーション」、つまり全体が一丸となる必要にせまられた団結だとしたら、「いじめ」は成員の団結を確認する「負のコミュニぇーション」の契機となるわけだ。反ヘイト運動内部のリンチ事件や内ゲバと呼ばれるものも、大半はこの構造の中にある。そして暴力の問題がそこに陥穽として存在する。「パワハラ」や「いじめ」の暴力と対峙することこそ、克服の第一の関門であろう。
◆暴力の再生産とその克服の道
いっぽう、個人競技でのパワハラと暴力は、個的な関係性の産物でありながら、やはりコミュニケーション能力の問題である。そして指導における暴力は軍隊式の教育方法であり、戦前の軍隊の体罰から来ている。戦争体験世代の父親を持つ男子の多くが、その成長過程において父親からの暴力をトラウマにしているとされる。
わたしもその一人である。「言ってわからなければ、身体で言うことをきかせろ」というのが、体罰の発動の契機となる。多くの男子が「父親を殺したいと思ったことがある」という。これは精神的な父親殺し(自立)をうながすという意味で、肯定的に評価されることが多い。さらに軍隊世代の教育(体罰)を受けた世代は、そのままコミュニケーションツールとして、暴力を用いる傾向が強いのだ。世代をこえた、暴力の再生産である。
思い出してみよう。野球部における「ケツバット」ウェイトリフティング部における試合前の「気合い入れ」の「ビンタ」。バレーボール部でもバスケットボール部でも気合入れの「ゲンコツ」はあった。暴力はたしかに「気合い」が入るコミュニケーションツールなのだ。
したがって、暴力を問題視する選手は少ない。そして選手の任免権と指揮権をにぎり、圧倒的な権力を持つ監督やコーチに、現場で反論できる選手はいないだろう。そこで告発という手段が採られるわけだが、その態度はスポーツマンとしては「姑息」に映る。かくして、暴力は再生産され温存される構造があるのだ。
◆理想の指導者像とは
問題なのは、理想的な指導者像の不在ではないだろうか。甲子園大会が100回をむかえた高校野球を例に取ろう。日大三高の小倉全由(まさよし)監督は夏の大会を2度制覇、春の大会2度の準優勝(取手一高時代をふくむ)の実績を持つ。
単身赴任で野球部寮に住み、選手とのコミュニケーションを第一に指導してきた名将である。知り合いのスポーツライターによれば、誰にも温和で取材を歓迎するタイプ、そして褒めて育てる指導方法だという。
それでも、小倉監督は映画「仁義なき戦い」の啖呵が好きで「わりゃ、何しとるんじゃい!」「そんなんじゃ、甲子園は行けんけんのぅ」などという叱咤を好むという。みずから「瞬間湯沸かし器」であるともいう。戦績ばかりで評価される高校野球の監督だが、やたらと選手を壊さない、上で活躍するためには高校時代は基本練習の反復と体力の育成に努めるなど、指導方法の内実が評価されるべきである。
大学ラグビーの理想的な指導者では、帝京大学の岩出雅之監督である。9連覇の偉業もさることながら、選手に徹底して相手チームをリスペクトさせる指導思想がすばらしい。チームが大所帯になればなるほど、一本目(レギュラーチーム)ではない部員はくさる。部員が一丸になれるチームの思想風土、メンバーシップの確立は並大抵ではないはずだ。個人の指導者においても、小倉監督や岩出監督のような人が出てきて欲しい。
▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)